米暗号資産取引大手コインベースのブライアン・アームストロング最高経営責任者(CEO)が8日、中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)における利子付与の考え方に理解を示した。米国でステーブルコイン規制を巡る議論が本格化する中、中国の制度設計を一つの参照例として挙げた形だが、その発言の背景には自社の収益モデルを巡る米金融業界との利害対立がある。
アームストロング氏の発言は、コインベースが米国でのステーブルコイン事業を巡り、銀行業界からの反発に直面している局面で出た。2024年7月に成立したGENIUS法は、同社のようなプラットフォームがステーブルコイン保有者に利回りを還元することを認めている。一方、銀行団体は預金流出を警戒し、この条項の見直しを求めており、暗号資産を巡る規制と既存金融のせめぎ合いが鮮明になっている。
SponsoredアームストロングCEO発言要旨
アームストロングCEOは1月8日にX上で中国のデジタル通貨政策を称賛した。「中国は自国のステーブルコインに利子を付与する決定を下した。一般市民の利益になり、競争上の優位性と認識したためだ」と投稿。「米国では木を見て森を見ずの状態になっているのではないかと懸念している」と述べた。
同氏は、ステーブルコインへの報酬付与は一般の米国人に利益をもたらし、銀行の貸出を妨げないと主張。「市場に両方やらせるべきだ」と訴えた。
中国の対応
だが中国側の反応は、困惑気味だった。暗号資産アナリストのPhyrex氏は、アームストロングCEOの主張には根本的な誤りがあると指摘。デジタル人民元はステーブルコインとは異なるとした。
Phyrex氏によれば、利子支払いは競争力の現れではなく、利用が低迷していることへの対策に過ぎない。中国の主流モバイル決済サービスであるWeChat PayやAlipayでは人民元に利子が付くが、従来のデジタル人民元にはそれがなく、利用者に切り替える動機がなかった。1月1日から実施された利子付与プログラムは中央銀行ではなく商業銀行が費用を負担しており、利率も一般の普通預金より低い可能性が高い。
SponsoredGENIUS法案を巡る攻防
アームストロングCEOの発言は、米国のステーブルコイン規制を巡る激しいロビー活動の只中で出た。
GENIUS法は2025年7月に可決され、ステーブルコインの発行体が保有者へ直接利子を支払うことは禁じた。しかし、取引所などの第三者プラットフォームが「報酬」プログラムを通じて利回りを分配することは認めている。この妥協案はコインベースのようなプラットフォーム側に有利だった。
銀行業界は強く反発している。昨年11月にはアメリカ銀行協会と52の州銀行協会が財務省へ書簡を送り、こうした「抜け穴」の封じ込めを関係当局に求めた。ステーブルコインプラットフォームが高利回りの報酬を提供すれば、預金流出を招き最大660兆ドル相当の貸出能力を脅かすと主張している。
ロビー活動は今週も続いている。1月7日には、200人超のコミュニティバンク幹部が上院宛てに書簡を提出し、GENIUS法の利子禁止規定を発行体の関連企業や提携先にも拡大するよう要請した。
アームストロングCEOは12月26日にX上で反論し、GENIUS法の再議論は「一線を越える」と表現。銀行は連邦準備制度への準備金で約4%の利息を得ていながら、預金者にはほぼ無利息であると批判。利回り制限を安全性の問題として主張するのは「論理の飛躍」だと非難した。
中国との比較に限界
アームストロングCEOが中国を引き合いに出すのは、「中国がやっているなら米国でもできるはずだ」という競争的な論点をつくる狙いがある。
だがその比較には疑問もつきまとう。CBDCと民間ステーブルコインは性質が異なる。デジタル人民元は中国人民銀行が発行する法定通貨だが、USDCやUSDTは民間企業によるドル連動のトークン。Phyrex氏などの批判者は、デジタル人民元の利子付与は利用拡大に苦戦している証左であって、競争力ではないと論じる。
ただ、アームストロングCEOの主張本体――すなわち「利回り共有が一般市民の利益となり、規制で制限すべきでない」という論点は、中国の事例に説得力がなくても共感を呼ぶ可能性がある。米国の議論は結局、民間プラットフォームが銀行預金との競争でどこまで自由を持つべきか、という点に集約される。