香港金融管理局(HKMA)が2026年第1四半期にステーブルコイン発行者への初のライセンスを交付する見通しだ。ポール・チャン財政長官が1月のダボス会議で明らかにした。これは香港が国際的なデジタル資産拠点としての地位確立を目指す包括的戦略の一環である。2025年8月に施行されたステーブルコイン条例に基づき、HKMAは現在36社の申請を審査中で、スタンダードチャータード銀行、アニモカブランズ、HKTの合弁企業などが候補に挙がっている。一方、中国本土の圧力を受けて、アリペイを運営するアント・グループや電子商取引大手の京東集団(JD.com)は申請を見送ったとされる。
Sponsoredデジタル資産規制でアジア最前線目指す
香港は2022年のデジタル資産政策声明以降、暗号資産ハブとしての地位確立に向けた規制整備を加速させている。2025年6月に発表された政策声明2.0では、「LEAP」フレームワークを導入した。LEAPは法的合理化(Legal streamlining)、トークン化商品の拡大(Expanding tokenized products)、ユースケースの推進(Advancing use cases)、人材育成(People development)の4つの柱から成る。
証券先物委員会(SFC)は2023年6月以降、暗号資産取引プラットフォーム(VATP)に対するライセンス制度を運用し、これまでに11社を認可した。2025年11月のフィンテックウィークでは、ライセンス保有取引所が世界市場との接続を可能にする方針を発表。これにより香港市場は従来の孤立状態から脱却し、流動性の向上が期待される。
さらに2025年12月には、仮想資産ディーラーとカストディアン(資産管理業者)に対する新たなライセンス制度の公開協議を完了した。FST(財政サービス・財務局)とSFCは2026年中に立法会への法案提出を目指しており、伝統的金融と同等の厳格な基準を暗号資産業界にも適用する方針だ。
トークン化とRWA実装を本格化
香港政府はステーブルコイン規制と並行して、現実資産(RWA)のトークン化を推進している。政府は既に総額21億ドル相当のトークン化グリーンボンドを発行しており、今後は政府債券のトークン化発行を定期化する計画だ。さらに上場投資信託(ETF)、金、再生可能エネルギーインフラなど幅広い資産クラスのトークン化を促進し、ライセンス保有プラットフォーム上での流通市場取引を支援する。
HKMAは2025年11月、プロジェクト・アンサンブルの一環として、トークン化預金とデジタル資産を用いた実証実験を開始した。主要銀行や資産運用会社が参加するこの試みは、オンチェーン決済の実現可能性を検証するものである。
税制面では、トークン化ETFに対する印紙税の免除を明確化し、特定の暗号資産取引に対する税制優遇措置の導入も検討されている。これらの施策は、香港がデジタル資産に対して市場志向的な環境を整備していることを示すものだ。
中国本土との温度差が浮き彫りに
香港のステーブルコイン規制整備は、暗号資産取引とマイニングを全面禁止している中国本土との対照的な姿勢を鮮明にしている。香港は「一国二制度」の下で独自の法規制を持つが、今回の動きは本土当局の方針との緊張関係を生じさせる可能性がある。
チャン財政長官は香港のアプローチを「積極的かつ慎重」と表現し、デジタル資産が透明性、効率性、包摂性を高め、リスク管理を改善するとともに、実体経済への資本配分を促進すると強調した。
著名な暗号資産投資家のgemsmorro氏はXで、「Paul Chan財政長官が述べたように、3月に初回ライセンス発行だが「select few(少数限定)」で、real business modelsとtight compliance(厳格なコンプライアンス)が必要。free for allではない規制プレイヤーのみ」と投稿した。
しかし、規制の厳格さが参入障壁となっているとの指摘もある。HKMAは初回のライセンス交付を「少数」に限定する方針を示しており、高額な流動性準備金要件やマネーロンダリング対策のための顧客確認プロセスがコンプライアンスコストを押し上げている。一部の潜在的発行者は、先行組の審査結果を見極めてから申請する様子見姿勢を取っているという。
香港の暗号資産政策は、規制の明確性と投資家保護を重視する一方で、シンガポールや米国との競争も意識している。ドナルド・トランプ米政権が暗号資産に対して友好的姿勢を示す中、香港は2026年3月までに初のステーブルコインライセンスを交付することで、アジア太平洋地域における規制済みデジタル資産拠点としての先行者優位を確立しようとしている。