イスラム革命防衛隊(IRGC)が「ホルムズ海峡の完全封鎖」を宣言し、米国とイランの対立は新たな臨界点を迎えた。トランプ米大統領が突きつけた「48時間最後通告」の期限が米東部時間3月23日夜に迫る中、暗号資産市場はひと足早く動いている。
ビットコイン(BTC)は3月22日に一時6万8150ドルまで下落し、開戦直後の2月末比で約20%安に沈んだ。北海ブレント原油が約4年ぶり高値の1バレル112ドルを超え、米連邦準備制度理事会(FRB)の年内利上げ転換観測まで浮上した今、暗号資産投資家が直面する選択肢は「完全封鎖の実行」「局地的エスカレーション止まり」「早期外交収束」の3つに絞られる。
トランプの強硬姿勢とイランの「完全封鎖」宣言
3月21日夜(日本時間22日)、トランプ大統領は自身のSNSで「イランが48時間以内にホルムズ海峡を完全開放しなければ、最大の発電所から順に壊滅させる」と投稿した。この最後通告の直前には、米政治メディアのAxiosがトランプ政権による「和平交渉」検討を報じており、わずか数時間での政策転換が市場の不透明感を一気に増幅させた。
これに対し、イランのイスラム革命防衛隊は即座に声明を発表した。発電所への攻撃が実行されれば「ホルムズ海峡を完全に封鎖する」と宣言したほか、イスラエルの電力・エネルギーインフラを「広範な標的」とし、米国資本が入る同種企業も「完全に破壊する」と警告した。ガリバフ国会議長もSNSで「地域全体の重要なエネルギー・石油インフラが正当な標的とみなされる」と報復の姿勢を鮮明にした。
市場の反応は即座だった。革命防衛隊の声明発表後わずか60分間で、2億4000万ドル相当のレバレッジポジションが強制清算された。24時間の清算総額は約3億2200万ドルに達し、BTCのみならずイーサリアム(ETH、一時2,050ドル)、ソラナ(SOL)、XRP、カルダノ(ADA)も軒並み売り込まれた。
ホルムズ「完全封鎖」が引き起こす原油・インフレ連鎖
今回の危機の本質は、地政学的緊張そのものよりも、それが引き起こす「原油→インフレ→金融引き締め」という連鎖にある。
ホルムズ海峡は日量最大2100万バレル、世界の原油供給の約18〜20%が通過する最重要エネルギー回廊だ。部分的な機能停止が続く現状でも、すでに原油価格は分断されている。米国産WTIが1バレル97ドル前後にとどまる一方、国際指標のブレントは112ドルを超え、ホルムズ海峡を通過する現物のオマーン産原油は過去最高の167ドル前後に達している。この価格差は10年以上ぶりの水準だ。
革命防衛隊が宣言した「完全封鎖」が現実となれば、ブレントは120〜150ドル台への急騰が視野に入る。欧州ガス価格はすでに30%上昇し、スワップ市場は欧州中央銀行(ECB)による2026年中の計50ベーシスポイント(bp)の利上げを完全に織り込み始めた。わずか数週間前まで「ECBは追加利下げ継続」がコンセンサスだったことを考えれば、状況は一変している。
米国でも3月20日の市場で原油高がインフレ再燃懸念に直結し、米10年債利回りは13bp上昇して4.38%と昨年7月下旬以来の高水準を付けた。「利上げに逆戻りするリスクがFRBに現れつつある」との観測が浮上するほどの局面だ。流動性引き締めの環境は、暗号資産市場にとって最も直接的な逆風となる。
開戦から4週目 – BTCが示す「二重人格」のパターン
今回のイラン戦争を通じてビットコインの値動きには、注目すべきパターンが浮かび上がっている。
1月13日に米国務省がイラン情勢への警戒を発出した際、BTCは地政学的ヘッジ需要を背景に9万5000ドルを超え、50日ぶりの高値を記録した。ところが2月末の実際の開戦(米・イスラエルによる攻撃開始)では一時6万3000ドルへ急落し、その後いったん6万8000ドル台まで反発した。3月16日の和平交渉期待では7万4512ドルまで戻す場面もあった。そして3月22日、「最後通告」と「完全封鎖宣言」の応酬を受けて再び6万8000ドル台に沈んだ。
このパターンが示す本質的な示唆は明確だ。BTCは「地政学的緊張の高まり」という段階では安全資産としてのヘッジ需要を集めるが、「原油高→インフレ→FRB政策転換リスク」という段階に移行すると、一転してリスク資産として株式と一括売りされる。その分岐点は原油価格の水準——具体的には1バレル100ドルの攻防にある。
3シナリオで読む今後のビットコイン価格
シナリオA:革命防衛隊が「完全封鎖」を実行した場合 — BTC目標水準:5万5000〜6万ドル
米国の発電所攻撃とイランの全面封鎖が現実となれば、ブレント原油は130〜150ドル圏への急騰が視野に入り、FRBの年内利上げ転換観測が「現実の選択肢」として市場に織り込まれる。現在の6万8000ドル台はすでに2月末の急落時に近い水準にあり、清算の連鎖が始まれば下値加速のリスクがある。6万ドルが最初の防衛線となり、これを明確に割り込めば5万5,000ドルが次の目安となる。ETH・SOL・XRPはBTC以上に下振れ幅が大きくなる可能性がある。
シナリオB:局地的エスカレーションに止まる場合 — BTC目標水準:6万〜7万ドルのレンジ推移
米国が発電所攻撃を実施しても、イランが完全封鎖には踏み切らず局地的な報復に留まるケースだ。原油は112ドル前後での高止まりが続き、FRBの政策転換リスクは意識されるものの、決定的な引き金は引かれない。BTCは方向感を欠く「ヘッドライン相場」が継続し、ニュースごとに数千ドル規模の乱高下が繰り返される。暗号資産規制法案の停滞が上値を抑え続けるため、戦略的な買い場の見極めが求められる局面だ。
シナリオC:早期外交収束・停戦交渉入りの場合 — BTC目標水準:7万5000〜8万ドル台
最後通告の期限後に米・イランいずれかが外交的な妥協点を見出せば、ショートポジションの急速な巻き戻しが起きる。3月16日前後に7万4512ドルまで反発した事例が示すように、停戦期待が広がった局面でのBTCの回復は速い。2月末の開戦直後には6万3000ドルから24時間以内に5,000ドル超の反発が起きており、緊張の「解消」局面では巻き戻しの勢いは特に強くなる傾向がある。7万ドル台の回復は比較的迅速に達成される可能性があり、その後は規制動向次第でさらなる上値余地も生まれる。
「安全資産論」の限界と暗号資産の逆説的な優位性
今回の戦争が改めて浮き彫りにしたことがある。ビットコインは「デジタルゴールド」として危機時に資産を守る安全資産ではなく、高ベータのリスク資産として機能するという現実だ。米国とイスラエルが攻撃を開始した2月末以降のBTCの約20%安は、この議論に一応の決着をつけた。
しかし、まったく異なる角度からの評価も存在する。資産運用会社ビットワイズの最高投資責任者(CIO)、マット・ハウガン氏は開戦直後のメモで、株式・先物・FX市場が閉鎖されていた週末の間も、分散型取引所ハイパーリキッドやオンチェーン市場だけが唯一リアルタイムで価格発見機能を果たし続けたと指摘した。また、イランのリアル通貨は昨年6月以来40%超の価値を喪失し、インフレ率が42%を超える現地では、テザー(USDT)などのステーブルコインが実質的な資産保全手段として機能している。革命防衛隊の「完全封鎖」宣言は、逆説的に中東地域でのステーブルコイン需要を押し上げる可能性がある。
今夜の最後通告期限が迫る中、Bloombergによれば、ミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏の言葉が市場心理を端的に表している。「不透明感はここにきて一気に増幅した。たとえ売りが出なくとも買い手が不在で、需給の空白が生まれている」。3月23日深夜から3月24日にかけてのヘッドラインを、暗号資産市場はいつでも織り込む準備を整えている。