イランの専門家会議は9日、モジタバ・ハメネイ師(56)を新最高指導者に選出した。2月末の米・イスラエルによる軍事作戦でアリー・ハメネイ師が死亡して以来、初の後継指導者となる。反米強硬路線の継続が確実視される中、ビットコイン(BTC)は執筆時点で約6万6,000ドル前後で推移しており、先週比で約5〜8%下落している。地政学リスクの長期化が暗号資産市場に与える影響を、最新データとともに分析する。
反米強硬派の就任が地政学リスクを再加速
モジタバ師は米財務省が2019年に制裁対象に指定した人物だ。革命防衛隊との関係が深く、1979年のイスラム革命以来初となる事実上の世襲継承は、外交による早期和平の可能性を大幅に低下させると市場は見ている。
ビットコインは2月28日の軍事作戦開始直後に一時6万ドル台前半まで急落した。3月4日には7万1,890ドルまで反発したが、その後再び上値を抑えられ6万6,000ドル台に押し戻されている。
市場が最も警戒するのはホルムズ海峡への影響だ。世界の原油輸送量の約2割が通過する同海峡の緊張が高まれば、原油価格急騰→インフレ再燃→FRBの利下げ先送りという連鎖がリスク資産全体を一段と圧迫しうる。
BTCとS&P500の連動性が高まり、リスクオフの影響を直撃
直近のデータが示す懸念材料の一つが、BTCと米国株の連動性の高まりだ。3月1日時点でのBTCとS&P500の30日間ローリング相関係数は0.55に上昇しており、暗号資産本来の「分散資産」としての機能が弱まっている。中東情勢の悪化が株式市場のリスクオフを誘発すれば、BTCも連動して下押しされるリスクが続く。
一方で底値圏を示唆するデータも浮上している。長期保有者(保有期間365日以上)の売り圧力は2月5日の30日間純ポジション変化−24万3,737BTCから3月1日には−3万1,967BTCへと87%減少しており、売りの勢いは大幅に鈍化している。マイナーの売り圧力も2月8日のピーク時から約82%縮小しており、市場の需給環境は徐々に改善しつつある。
「アジア離れ」懸念がアジア市場への二次リスクを生む
もう1つの変数が、日本政府・与党も懸念するトランプ政権の「アジア離れ」だ。外務省の岩本桂一・中東アフリカ局長は3月6日、衆院外務委員会で「米軍の戦力が中東地域に集中している」と答弁。米軍リソースが中東に集中することでアジア太平洋の安全保障環境が揺らげば、台湾海峡情勢を含む二次的リスクが円相場や日本市場全体に波及しうる。
ビットコインはリスクオフ局面では株と連動して売られやすい半面、法定通貨不信が高まる局面では「デジタルゴールド」として資金が流入する二面性を持つ。3月4日に中東地域の取引所からBTCのセルフカストディへの移動が増加したとのデータも報告されており、地政学的不安を背景にした現物保有志向の高まりも見受けられる。
投資家が注視すべき3つのトリガー
中長期の方向性を判断するうえで、現時点で確認すべき指標は3つある。
第1にFRBの政策転換シグナルだ。3月のFOMC据え置き確率は依然として高水準で推移しており、戦費拡大による財政圧力が高まれば量的引き締め(QT)停止の議論が浮上しうる。なお3月5日には暗号資産業界が初めてFRB決済システムへのアクセスを獲得しており、制度インフラの整備は着実に進む。第2にビットコインETFの週次フローだ。スポットBTC現物ETFへの資金流入は2月末に一旦回復を見せたが、モジタバ師就任後の動向が試金石となる。第3に価格の下値支持ライン(約6万2,000〜6万5,000ドル)の維持だ。この水準を明確に下抜けた場合、さらに5万6,800ドル、5万2,300ドルのフィボナッチサポートが次の目安となる。
地政学リスクを「仕込みの窓」と見るか「さらなる下落の序章」と見るかの判断は、今まさに市場参加者に委ねられている。