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金融庁、暗号資産の投資インフラ化へ制度を再設計

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執筆&編集:
Shigeki Mori

11日 12月 2025年 09:06 JST
Trusted-確かな情報源
  • 金融庁が暗号資産制度を再設計し、投資インフラとしての市場整備を進める内容を示した。
  • 情報開示義務を強化し、ホワイトペーパーの正確性と比較可能性を高める仕組みを導入した。
  • サプライチェーン全体のセキュリティ強化とインサイダー規制新設で公正な取引環境を整備する。
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金融庁は10日、暗号資産制度の抜本的見直しをまとめた報告書を公表した。国内市場では口座数や預託金が急増する一方、詐欺的勧誘や情報の非対称性、流出リスクが顕在化しており、制度の再構築が不可欠になっていた。今回の改革は、投資インフラとしての市場整備を中心に、利用者保護と公正な取引環境を両立させる狙いがある。

投資インフラに対応した制度移管

金融庁が示した最大の変更点は、暗号資産の規制根拠法を資金決済法から金融商品取引法へ移す方針を明確化したことである。国内の暗号資産市場は、2025年12月時点で延べ1,300万口座、利用者預託金は5兆円超に達する規模へ拡大しており、投資対象化が進展した現実が制度を押し上げた形だ。

もっとも、制度移管は「投資としての保証」を与えるものではなく、利用者保護の体系的な枠組みを整えるための措置と位置付けられている。暗号資産は価格変動が大きく、詐欺的勧誘の事案も多数報告されている。市場参加者の拡大に伴い、投資行動の基盤となるルール整備が急務となっていた。

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今回の制度見直しは、断片的に整備されてきた交換業規制を、金融商品としての包括的な監督体系へ再構成することを目的としている。これにより、情報開示、業務管理、エンフォースメントを統合的に扱う枠組みが整う見通しだ。

情報の非対称性を埋める開示制度

新制度の中核となるのは、暗号資産の情報提供規制の強化である。ホワイトペーパーとコードの整合性が不十分である例、発行量や償却設計が不透明な例など、利用者が正確な判断を下すための情報基盤が弱いことが課題として指摘されてきた。

報告書は、性質・機能、供給量の設計、コードやコンセンサス方式、中央集権的管理者が存在する場合の情報、流動性や希薄化リスクなど、投資判断に不可欠な要素を標準化して開示する仕組みを導入する。

また、発行者が資金調達を行う場合には発行者が情報開示を担い、発行者のいない暗号資産や資金調達を伴わない銘柄については交換業者が開示主体となる二層構造が採用される。

さらに、重要事象が発生した際の適時開示義務や、虚偽記載に対する罰則・課徴金など、正確性を担保する制度的仕掛けも盛り込まれた。自主規制団体の審査体制を独立化する方策も明示されており、情報の比較可能性と信頼性を高める狙いがある。

業務管理と公正取引の強化

業務規制では、サプライチェーン全体を対象にしたセキュリティ対策の強化が打ち出された。たとえば2024年には国内交換業者である DMM Bitcoin が約4,500 BTC の不正流出を公表。さらに2025年には Coinbase において、カスタマーサポートを委託していた外部企業 TaskUs の内部関係者が不正アクセスを行い、顧客情報が漏洩した。こうした事案は“取引所単体の管理不備”だけでなく、“委託先を起点としたサプライチェーン全体の脆弱性”を示すものであり、制度見直しの議論がサプライチェーン全体をカバーすべきだという背景を浮き彫りにしている。

そのため、重要システム提供者に事前届出と安全性確保を義務付ける枠組みが導入される。また、利用者補償のための責任準備金の積み立て、ステーキング業務への規制導入、新規口座に対するアンホステッドウォレットへの即時送金制限など、多層的な保護措置が示された。

さらに、公正取引の確保に向けて、暗号資産に対するインサイダー取引規制を新設する。発行者の破綻や上場・廃止、大口取引などの重要事実を明確化し、発行者関係者、交換業者関係者、大口取引の関係者まで規制対象を広げた。証券監視委には犯則調査権限と課徴金制度が付与され、国内外で進む規制強化と歩調を合わせる形となる。DEXでの取引も対象に含む点は、国際的にも踏み込んだ制度設計といえる。

制度全体としては、国内市場の投資インフラとしての信認を高める狙いが明確である。暗号資産の性質上、国際的な取引の流動性や匿名性を完全に規制することは困難だが、国内での投資環境を整備することで、一般利用者が合理的判断を行える基盤を整える方針だ。

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