金融庁は16日、無登録販売の罰則を3年から10年へ引き上げるなど、金融商品取引法などの改正案を提出する方針を固めた。同方針の背景には1月に公表されていた、監督指針・事務ガイドラインの改正案にある。改正案は暗号資産を直接扱う事業者だけでなく、子会社を通じて間接的に関与する銀行グループまで対象を広げた内容となっており、業界実務への影響は罰則強化にとどまらない。そこで本稿では、新ガイドラインが定める利用者保護についてまとめた。
法的根拠は「決済法」から「金商法」へ
今回の制度整備の出発点は、暗号資産の法的な位置付けそのものの転換にある。これまで日本では、暗号資産は主に「決済手段」として資金決済法の枠組みで規制されてきた。しかし投資対象としての存在感が増す中、金融庁は暗号資産を株式や投資信託と同じ「金融商品取引法(金商法)」の枠組みへ移行させることを決定。これに合わせ、関連する監督指針5本と事務ガイドライン3本の改正・新設案を1月に一括公表している。
無登録業者への刑事罰の引き上げはこの制度移管に伴う罰則水準の統一という側面が強い。業界実務への影響という点では、ガイドラインが定める利用者保護ルールの方がはるかに広範かつ具体的な対応を迫るものとなっている。
新ガイドラインが定める利用者保護の具体像
「銀行グループの商品」だからこそリスクの過小評価が起きる
今回の改正案で最も注目すべき視点は、利用者保護の責任が「直接の販売者」だけでなく、その親会社である銀行グループにまで及ぶという点だ。
改正案には、「銀行グループが取り扱う商品であることをもって、顧客が暗号資産のリスクを過小評価し、自らのリスク許容度を超えて取引を行うことがないよう、適切に説明を行う必要がある」との文言が盛り込まれた。つまり、子会社が暗号資産仲介サービスを提供していれば、銀行本体も「関係ない」では済まないということだ。
この発想の背景には、数年前に地銀系証券で社会問題となった仕組債の不適切販売がある。「銀行グループの商品」という信頼感がリスクの過小評価を招いたと指摘されたあの教訓を、暗号資産では繰り返さないという当局の強い意志が読み取れる。
説明義務——何を、どのように伝えなければならないか
新たに作成された「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者関係の事務ガイドライン」では、利用者への情報提供について具体的な着眼点が列挙されている。
説明すべき内容として例示されているのは、「暗号資産の主な用途」「保有・移転の仕組み」「総発行量および発行上限」「流通状況」「内在するリスク」などだ。これらを利用者の知識・経験に応じて適切に伝えることが求められる。さらに、仲介業者以外にも手数料が発生する場合には、その総額や計算方法の説明も必要となる。
説明の方法についても踏み込んでいる。オンライン取引では、利用者が画面上の説明事項を読み、内容を理解した上でボタンをクリックするといった意思確認の手順を設けること。対面取引では、書面交付や口頭説明を行ったという事実を記録として残すことが例示されている。単に情報を提供するだけでなく、「伝わったことを証明できる体制」を整えることが求められているわけだ。
セキュリティ対策——フィッシングから利用者を守る義務
非対面取引が主流となる暗号資産サービスにおいて、ガイドラインはオンラインセキュリティ対策についても具体的な要件を示している。
利用者がアクセスしているサイトが正規のものであることを証明できる措置を講じること、ウェブサイトのリンク構成によって取引相手を誤認するような設計になっていないことを確認すること、などが着眼点として挙げられている。近年、暗号資産関連のフィッシング詐欺や不正アクセス被害が世界的に増加していることを踏まえた対応要求といえる。
情報管理体制——予期せぬリスクへの備え
利用者保護の観点から、内部の情報管理体制についても新たな要件が設けられる。具体的には、ブロックチェーンのフォーク(分岐)、技術的仕様の重要な変更、発行者の倒産手続き開始といった暗号資産関連の重要情報を適切に管理するため、独立性の高い部門を設置することが求められる。
暗号資産特有のリスク事象——たとえばフォークによってトークンの価値が変動したり、発行体が突然消滅したりするケース——について、組織として把握・管理し、必要に応じて利用者に伝えられる体制を整えることが実務上の求めとなる。
銀行と暗号資産業者の「誤認防止」義務
さらに、電子決済手段・暗号資産仲介業者が提供するサービスについて、銀行や資金移動業者が行う業務と利用者が混同しないよう説明することも義務付けられる。仲介業者が商品の発行者でないにもかかわらず、発行者であるかのような誤解を与えないようにすることも含まれる。この項目は先述の「銀行グループによるリスク過小評価」問題とも強く連動しており、グループ全体での説明方針の統一が求められる場面といえる。
暗号資産ETF解禁——利用者保護の「次の戦場」
今回の制度整備と並行して、日本国内での暗号資産ETF解禁が現実味を帯びてきた点も見逃せない。金融庁幹部は、対面チャネルでの補償範囲などの説明において、暗号資産ETFをめぐる論点は暗号資産サービス仲介業への着眼点と共通する部分が浮上する可能性を指摘している。
ETFという形態であっても、暗号資産特有の価格変動リスク・技術的リスク・市場流動性などについて販売現場での丁寧な説明が求められるということであり、今回整備された利用者保護ガイドラインの考え方がETF販売にも援用されていく可能性が高い。
「金融商品としての暗号資産」に求められる水準
今回の監督指針・ガイドライン改正案が描く利用者保護の姿は、証券会社が株式や投資信託を販売する際に求められるものと近い水準だ。説明義務・記録保管・内部管理・セキュリティ対策・誤認防止——これらはすべて、従来の資金決済法の枠組みでは十分に求められてこなかった要素である。
暗号資産が「金融商品」として本格的に位置付けられる時代において、取引所・仲介業者・そして銀行グループが問われるのは、技術力や商品ラインナップだけでなく、利用者を守るための「説明する力」と「記録する力」だといえるだろう。