東南アジアのマレーシア政府は、過去5年間で約1万4000箇所に上る違法マイニング施設を確認し、総額約11億ドル相当の電力が国営電力会社から窃取されたと明らかにした。ドローンや熱センサーを活用した監視体制を強化し、組織的な電力窃盗への対処を進めている。暗号資産業界では、マイニング事業の電力コストと規制リスクが改めて浮上している。
マレーシア、違法マイニングに対する捜査強化
マレーシアでは、国営電力会社Tenaga Nasional Berhad(TNB)が2020年以降、約1万3827箇所で違法な電力使用を確認し、2025年時点で累計約46億リンギ(約11億ドル)相当の電力ロスが発生したと公表した。
具体的には、ドローンによる熱源監視や手持ちセンサーを用いた異常電力流の検出といった技術が導入され、マイニング装置の騒音を野鳥の鳴き声で偽装する手口まで確認されている。
マレーシア政府は11月に財務省、中央銀行Bank Negara Malaysia、TNBなどを含む特別委員会を設置し、違法マイニング対策を強化している。マイニング事業の全面禁止を含む政策見直しも検討されており、電力インフラの安全確保が最優先課題として位置付けられている。
この動きは、電力負荷が増す暗号資産マイニングが公共インフラに及ぼす影響の大きさを映し出している。
業界動向と規制リスクの再認識
マレーシアの事例は、暗号資産マイニングが高コストな電力消費と規制リスクの双方を抱えていることを示す。世界的には、ビットコインの年間電力使用量が中規模国家の消費に匹敵するとの分析もあり、再生可能エネルギーへの転換や電力需給逼迫への対応は引き続き課題である。
マレーシアでは暗号資産の保有・取引自体は合法だが、電力使用に関してはマイニング固有の法律が存在せず、電気供給法(Act 447)に基づき違法使用が取り締まりの対象となる。今回の捜査強化により、合法的に活動するマイニング事業者であっても、電力契約や税務、許認可を巡る監査リスクが高まる可能性がある。
また、エネルギー政策面では、政府がマイニング抑制を通じて電力需給バランスの改善や再生可能エネルギー投資誘導を図る動きも報じられている。日本国内でも、地方自治体や電力会社がマイニング誘致に慎重姿勢を示す例が増えており、電力契約の透明性や地域インフラ保全を重視する規制議論が今後広がる可能性がある。
暗号資産関連事業者にとっては、ハッシュレートや採算性だけでなく、電力・法規制・地域インフラとの整合性を踏まえた事業計画の再検証が不可欠となっている。