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東京エレク子会社、TSMC情報漏洩で起訴=マイニングチップ技術にも影響

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執筆&編集:
Shigeki Mori

03日 12月 2025年 09:06 JST
Trusted-確かな情報源
  • 東京エレクトロン台湾法人がTSMCの2nm技術情報漏洩防止を怠ったとして台湾で初の企業への国家安全法違反起訴
  • 2nmプロセスは消費電力を25~30%削減可能で暗号資産マイニング市場に大きな影響を及ぼす見込み
  • 半導体製造技術の保護強化が国際的な課題となり企業にコンプライアンス体制の見直しを迫る
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台湾検察当局は2日、東京エレクトロン台湾法人を国家安全法および営業秘密法違反で起訴したと発表した。同法人がTSMCの2nmチップ製造技術に関する機密情報の漏洩を防止する措置を怠ったとして、1億2000万台湾ドル(約6億円)の罰金を求刑した。この技術は暗号資産マイニング用ASICチップの性能向上にも直結するもので、企業が国家安全法違反で起訴されるのは台湾で初めてとなる。

半導体製造の最前線で起きた情報漏洩

台湾検察によると、東京エレクトロンの元TSMC従業員と現役TSMC技術者2名が、TSMCの2nmプロセス技術に関する機密情報を共有していた疑いで、2025年8月に起訴された。この情報は東京エレクトロンのエッチング装置の性能向上を目的としており、TSMCの次世代製造ラインへの供給契約獲得を狙っていたとされる。

エッチング装置は半導体製造において回路パターンに沿って膜を削る工程を担う中核装置である。TSMCが2025年後半に量産を開始する予定の2nmプロセスは、3nmと比較して同一消費電力で最大15%の性能向上、または同一性能で25~30%の消費電力削減を実現する技術だ。この製造プロセスは台湾が「国家核心技術」と位置づける戦略的資産となっている。

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検察は東京エレクトロン台湾法人が社内規定を持ちながらも、実効的な予防措置を講じなかったと指摘している。同社は当局の調査に協力し、従業員の不正行為への組織的関与を否定する一方、ゼロトレランス方針を強調した。

暗号資産マイニング市場への波及懸念

TSMCの2nm技術は、AI処理や高性能コンピューティング分野だけでなく、暗号資産マイニング業界にも大きな影響を及ぼす可能性がある。ビットコインマイニングで使用されるASIC(特定用途向け集積回路)チップは、計算能力とエネルギー効率が収益性を左右する重要な要素だ。

世界のASICビットコインマイニングハードウェア市場は、2025年に114億ドルと評価され、2035年までに279億ドルに達すると予測されている。マイニング作業では運用コストの大部分を電力料金が占めるため、消費電力削減は業界全体の重要課題となっている。TSMCの2nmプロセスが実現する25〜30%の省電力性能は、次世代マイニングチップの開発において決定的な競争優位をもたらす技術となる。

半導体製造装置大手の東京エレクトロンは、エッチング装置分野で世界第2位のシェアを持ち、2025年度通期の売上高は2.4兆円を見込んでいる。同社は宮城県の拠点に520億円を投じて新開発棟を竣工し、2nm世代以降の先端プロセス対応装置の開発を加速させている。今回の事件は、半導体製造における技術覇権競争が激化する中で、知的財産保護の重要性を改めて浮き彫りにした。

半導体産業の安全保障リスク

TSMCは知的財産保護を強化しており、2025年11月には元上級副社長がインテルに移籍したことを受けて提訴している。台湾検察は同氏に対しても国家安全法違反の疑いで刑事捜査を開始し、デジタル証拠を押収した。インテルのリップブー・タンCEOは疑惑を根拠のない憶測と反論し、同社の知的財産保護方針を強調している。

世界知的財産機関のデータによれば、営業秘密の不正取得は世界経済に年間6000億ドル以上の損失をもたらしており、半導体分野は国家経済における重要性から主要な標的となっている。台湾のGDPの15%以上を半導体産業が占める中、今回の起訴は企業に対する厳格な管理体制の構築を促す警告となった。

半導体製造技術を巡る地政学的緊張が高まる中、各国は先端技術の保護と国際競争力の維持という2つの課題に直面している。東京エレクトロンは今後、再発防止策の徹底と顧客からの信頼回復が求められる。

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