タイの特別捜査局は12月3日、中国系国際詐欺ネットワークが運営していたとされるビットコインマイニング施設7カ所を摘発したと発表した。押収された機材の総額は約3億バーツ(約12億円)に上り、東南アジア全域で拡大する暗号資産関連犯罪への対策が強化されている。
摘発は2日にサムットサーコーン県の6カ所とウタイターニー県の1カ所で実施された。特別捜査局によると、倉庫4カ所と住宅3カ所から3,642台のマイニング機器が押収され、その価値は2億7,000万バーツと算定された。さらに電気設備や関連機材も3,000万バーツ相当が押収された。これらの機器の大半はコンテナ内に設置され、水冷システムと防音設備を備えていたという。
Sponsored東南アジア全域で拡大する暗号資産犯罪ネットワーク
今回の摘発は、東南アジア地域で急速に拡大している暗号資産関連犯罪への対策の一環である。米国司法省は11月、東南アジアを拠点とする暗号資産投資詐欺に対抗するため「詐欺センター攻撃部隊」を創設したばかりだ。同部隊によれば、これらの詐欺により米国人だけでも年間約100億ドルの被害が発生している。
特に注目されるのは、10月に米英当局が実施した過去最大規模の暗号資産詐欺ネットワークへの制裁措置である。カンボジアを拠点とするプリンスグループに対し、146の個人・団体への制裁と約150億ドル相当のビットコインの押収が行われた。同組織は暗号資産マイニング事業を隠れ蓑に、「ピッグブッチャリング」と呼ばれる投資詐欺を運営していたとされる。
ブロックチェーン分析企業チェイナリシスのデータによると、2023年以降、詐欺関連のアドレスに少なくとも530億ドルの暗号資産が送金されており、実際の被害額はさらに大きい可能性がある。これらの犯罪組織は、カンボジア、ラオス、ミャンマーの詐欺拠点施設から活動を展開しており、人身売買の被害者を強制労働させているケースも報告されている。
タイの規制強化と業界への影響
タイは2025年、暗号資産業界に対する規制を大幅に強化している。4月には国外の暗号資産取引所に対する域外適用規制を導入し、タイ人利用者をターゲットとする場合はライセンス取得を義務付けた。6月にはBybit、OKX、CoinExなど主要5取引所へのアクセスを遮断している。
一方で、タイ証券取引委員会は投資環境の整備も進めている。2025年1月から2029年末まで、ライセンスを持つ取引所での暗号資産取引によるキャピタルゲインに対する個人所得税を5年間免除する措置を導入した。また7月には、外国人観光客が暗号資産をタイバーツに換金できる規制サンドボックスの公聴会を開始している。
タイ当局は今年4月にも、バンコク、プーケット、チョンブリーの8カ所で違法な暗号資産取引業者を摘発し、5人を逮捕している。これらの業者は麻薬取引やオンラインギャンブルからの資金洗浄に関与していたとされる。一連の摘発は、デジタル資産ハブとしての地位確立を目指すタイ政府が、違法事業者の排除と投資家保護の両立を図る姿勢を示している。