トランプ米大統領は15日、プライバシー重視型ビットコインウォレット「Samourai(サムライ)」のCEOであるキオネ・ロドリゲス氏への恩赦を検討する意向を示した。同氏は先月、資金洗浄容疑で連邦刑務所に5年の実刑判決を受けている。
この発言は、暗号資産のプライバシー技術をめぐる議論を再燃させた。また、トルネードキャッシュのローマン・ストーム被告を含む他の有罪判決を受けた開発者が、同様に大統領恩赦を受ける可能性についても疑問が投げかけられている。
Sponsored恩赦拡大要求に市場で不満高まる
12月15日の記者会見で、記者はロドリゲス氏の事件がバイデン政権下で始まりつつも、トランプ政権の司法省のもとで続いたことを指摘し、見解を質問した。これに対しトランプ米大統領は「その件は聞いている。検討する」と回答した。大統領はさらに、暗号資産コミュニティ内で恩赦を求める声が広まっていることが記者から述べられると、改めて「この件を調査する」と述べた。
ロドリゲス氏(37歳)と共同創業者のウィリアム・ロナガン・ヒル氏(67歳)は、暗号資産ミキシングサービス運営で有罪判決を受けた。検察は、両者が犯罪収益2億3700万ドル超の資金洗浄を助長したと主張している。ロドリゲス氏には5年、ヒル氏には4年の実刑判決が下され、2人とも25万ドルの罰金支払いが命じられた。
この発表は賛否両論を呼んだ。支持者からは、今回の判断が暗号資産業界の政策を後押しするとの期待も寄せられた。あるXユーザーは、崩壊したテラ/ルナ・エコシステムの創設者ド・クォン被告にも恩赦を広げるよう呼びかけた。
一方、批判的な立場からはトランプ政権下でのマーケット全体のパフォーマンスが指摘された。同氏の就任以降、主要暗号資産は大幅に下落し、2桁以上下げたトークンもある。
「単なる開発者」説に対する検察側の主張
司法省は、ロドリゲス氏とヒル氏が単なるプライバシー・ツール開発者であるという主張に反する証拠を提示した。11月19日の判決公表によれば、検察側は両被告が犯罪者へのサービス利用を積極的に推奨していたと説明している。
Sponsoredヒル氏はダークネット・フォーラム「ドレッド」でSamouraiを宣伝し、「ダーティBTCを安全に洗浄する方法」を探すユーザーに対し、Whirlpool(ミキシングサービス)が優れた選択肢だと推奨したとされる。ロドリゲス氏も、2020年のツイッター・ハッカーらに資金洗浄手段として本サービスの利用を勧め、競合サービスが選ばれた際には落胆を示していたという。
最も致命的だったのは、ロドリゲス氏自身がWhatsAppのメッセージで「ビットコインのための資金洗浄」とミキシングを表現していた点だ。また、企業のマーケティング資料でも「違法行為の収益を動かすダーク/グレーマーケット参加者」をターゲットとして明記していた。
検察は、Samouraiを通じて処理された犯罪資金の出所として、麻薬取引、ダークネット・マーケット、サイバー侵入、詐欺、制裁対象地域、殺人請負型犯罪、児童ポルノサイトを挙げている。
さらなる影響範囲
この事件は、分散型プラットフォームでの利用者の行為に対する開発者の責任をめぐる議論を再燃させた。プライバシー擁護派は、今回の起訴がオープンソース開発全体に危険な前例となると指摘する。一方で捜査当局は、犯罪利用を積極的にあおる行為は違法性の一線を越えると主張している。
ネット上では、トルネードキャッシュ開発者ローマン・ストーム被告も同様に恩赦を検討対象とすべきかとの議論も広がった。ストーム被告は、無許可の送金業営業の共謀で有罪となったが、マネーロンダリングや制裁違反のより重い罪については陪審が評決に至らず審理継続中となっている。
米議会では依然として暗号資産規制の議論が続く。議員らはプライバシー技術の法的地位を明確化する法案を相次いで提出しているが、いずれもまだ成立には至っていない。
トランプ米大統領は過去にも、バイナンス前CEOのチャンポン・ジャオ氏やシルクロード創設者のロス・ウルブリヒト被告への恩赦を行っており、今後の同分野での恩赦判断についても憶測が絶えない状況となっている。