今週に入り、ビットコイン(BTC)が9万ドル台を回復するなか、日本のビットコイン保有企業の株価が再び上昇基調を強めている。ビットコイン財務戦略を前面に出すメタプラネット、リミックスポイント、コンヴァノに加え、早期からBTCを保有してきたネクソンの株価も年初来高値圏で推移している。
一方で、保有量では上位に入るANAPホールディングスは、4日に追加取得を公表した直後にもかかわらず株価が軟調で、足元の業績や含み損に対する投資家の見方の違いが浮き彫りになっている。国内ビットコイン財務企業株に何が起きているのかを整理する。
ビットコイン9万ドル台回復と「ビットコイン財務株」再評価
12月に入り、ビットコイン相場は米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測とその後の0.25ポイントの利下げ決定を背景に、再び買いが優勢となった。10日時点でビットコインは9万2000ドル前後まで上昇し、9万4000ドル近辺を試す局面もみられた。
こうしたビットコインの反発は、現物ETFやマイニング企業だけでなく、企業が保有するビットコインを通じてレバレッジをかける「ビットコイン財務株(Bitcoin treasury stocks)」への関心を世界的に呼び戻している。米国ではビットコインを大量保有する企業「Strategy」が12月上旬にかけて約1万600BTCを追加取得し、保有量を約66万BTCまで積み増したとの報道が相次いだ。
日本市場でも11月下旬、メタプラネットが約130億円相当の借入を通じてビットコイン購入余力を拡大したことを受けて、「日本版Strategy」とも言えるビットコイン財務企業が一斉に物色された経緯がある。12月第2週は、その流れをビットコイン価格の一段高が追認する形となり、再び日本株市場で同セクターへの資金流入が強まった格好だ。
メタプラネット先導で主要3社が上昇―mNAV改善とETF採用が追い風
メタプラネット:mNAV1.17まで拡大し「割高容認」局面
今週のセクター上昇を主導しているのが、ビットコイン保有量で国内最大級のメタプラネットだ。同社株は10日に前日比約12%高の471円で引け、11日朝にかけても続伸。10月以降の暗号資産市況悪化で一時調整していたが、11月21日の安値から約30%戻している。
報道各社の情報を集めると、メタプラネットの企業価値は足元で約33億ドル、同社が保有するビットコインの評価額は約28億6000万ドルとされ、企業価値とBTC保有額の比率を示す「mNAV」は1.17まで上昇した。ビットコイン現物の価値に対して株価が17%程度のプレミアムで取引されている計算で、市場が同社の追加取得余地や貸出・運用ビジネスへの期待を織り込み始めたとみることができる。
足元では、同社トップと米Strategy創業者による対談が報じられたこともあり、「グローバルなビットコイン財務ネットワークの一角」としてのストーリーが再確認された面もある。
ビットコイン価格の戻りとmNAVの拡大が同時に進んだことで、短期筋の資金も含めてメタプラネット株への物色が強まった。
Sponsored Sponsoredリミックスポイント:積極的なBTC積み増しとETF採用
リミックスポイントは、2025年を通じて新株予約権や社債で調達した資金を用い、ビットコイン保有量を1000BTC超まで積み増してきた。10月時点の開示では、同社のBTC保有量は約1380BTC、取得総額は約208億円とされ、国内企業としてはメタプラネットに次ぐ規模となっている。
10月には、米ビットワイズが組成するビットコイン保有企業ETF「OWNB」に、メタプラネットやネクソンとともに組み入れられたことが公表された。
これにより海外資金からのフローが期待されるなか、同社株価は9日、一時283円の高値を付け、ビットコインの戻りと連動するかたちでじり高が続いている。
エネルギー関連や広告といった既存事業の成長期待も重なり、「ビットコイン財務+本業収益」という二重の収益ストーリーが、今週の株価反発を下支えしている格好だ。
コンヴァノ:2万1000BTC計画撤回後も“補完的なBTC戦略”を維持
ネイルサロン「FASTNAIL」を運営するコンヴァノは、7月に最大2万1000BTCの取得計画を打ち出し話題を集めたが、11月21日の取締役会で「本業回帰」を掲げ、同計画を事実上撤回した。その一方で、10月18日から11月21日にかけて約97.7BTCを追加取得し、保有量は約763BTCまで増加したと開示している。
ビットコイン急落局面だった11月初旬には、同社株が一時120円まで売られ上場来安値をつけたが、その後はビットコインの反発とともに100円台前半で下値を固め、12月11日時点では前日比2%安の103円と小幅ながら続伸が続く。
Sponsored同社は9月にビットコインを株主優待として付与する制度も導入しており、BTCを財務・株主還元の両面で活用する姿勢は維持している。大規模なレバレッジ戦略からは一歩退いたものの、「本業成長+補完的なビットコイン保有」という新戦略が、市場に再評価されつつある。
ネクソン:大型BTC保有に業績改善が重なり、年初来高値圏
オンラインゲーム大手ネクソンは、ビットコイン財務戦略の「先駆け」として知られる。同社は2021年に約1717BTCを平均取得単価約644万円で取得しており、現在も売却は行っていないと見られる。
足元のビットコイン水準ではネクソンのBTC保有額は約240億円、含み益は130億円超に達している。同社株は第3四半期決算で純利益が前年同期比4割増となったことを受けて11月に上昇基調へ転じ、12月9日には3811円と年初来高値を更新。その後も8〜10日にかけて終値ベースで上昇が続いた。
ゲーム事業の収益改善というファンダメンタルズに、ビットコインの含み益拡大が「オプション」として上乗せされる形となっており、ネクソンは、ビットコイン財務株のなかでも相対的にディフェンシブな位置付けで資金を集めている。
ANAPは株価急落=含み損と事業規模への警戒も
こうしたなかで、今株価が下落基調となっているのがANAPホールディングスだ。同社は若年層向けファッションブランド「ANAP」を中心にアパレル事業を展開する一方、グループ会社を通じてビットコイン投資事業を拡大している。
Sponsored SponsoredANAPは12月4日、子会社ANAPライトニングキャピタルが3日付で5万4.5126BTC(投資額8億円)を追加取得し、グループ全体のビットコイン保有量が1200.2078BTCになったと発表した。総投資額は約179億円、平均取得単価は1BTCあたり約1496万円とされ、12月3日時点の評価損は約7億1000万円と開示されている。
一方で、同社株価は過去6ヶ月で約75%の下落と大幅下落を記録している。12月11日朝のANAP株は359円と、前日終値365円から小幅安で推移している。
ビットコイン価格が反発に転じるなかでも株価がさえない背景としては、以下の点が意識されているとみられる。
- 含み損が残る水準での追加取得
平均取得単価が約1496万円と、足元のビットコイン水準に対して依然として高く、追加取得を発表した時点で評価損が明示されていることから、「高値つかみ」の印象が強い。 - 本業の収益基盤が相対的に小さい
大手ゲーム企業のネクソンやエネルギー・暗号資産事業を併営するリミックスポイントと比べ、ANAPの本業規模は限定的であり、ビットコイン価格の変動が財務に与える影響が大きく見えやすい。 - すでに6月以降の「ビットコインテーマ」で買われていた
2025年前半から、ANAPはビットコイン保有企業として各種メディアや投資情報サイトで繰り返し取り上げられてきた。今週の追加取得は「材料出尽くし」と受け止められ、短期筋の利食い売りが優勢となった可能性がある。
結果として、今週の国内ビットコイン財務株の物色は、「ビットコインの含み益が出ている銘柄」や「本業の成長ストーリーを併せ持つ銘柄」により強く向かい、含み損が残るANAPには資金が戻りにくい構図となっている。
今後の焦点:ビットコイン水準と各社の資本政策
12月第1週時点でも指摘されていたように、日本のビットコイン財務企業株の株価は、ビットコインの水準だけでなく、各社の資本政策やビジネスモデルの違いに敏感になっている。
- メタプラネット:レバレッジを効かせた積極的なBTC調達とmNAVの拡大
- リミックスポイント:複数事業とビットコイン財務を組み合わせた分散モデル
- コンヴァノ:大規模計画の撤回を経て、本業と補完的BTC戦略の両立を模索
- ネクソン:大型ゲームIPと長期保有方針に基づく“安定志向”のBTC財務
- ANAPホールディングス:相対的に小規模な本業と高コストのBTC取得に対する見方が分かれる
ビットコインが9万ドル台を維持し、10万ドルに向けた節目を試す展開となれば、日本のビットコイン財務株は再び「日本版ビットコインETF」のような存在として個人マネーを引き寄せる可能性がある。一方で、今回のANAPのように、保有量や取得単価、事業規模によっては、ビットコイン価格の反発が必ずしも株価上昇に直結しない事例も見え始めた。
12月第2週の急反発は、国内ビットコイン財務企業株が「ビットコイン次第の一枚岩」ではなく、それぞれ異なるリスク・リターン特性を持つ投資対象として再定義されつつあることを示していると言えそうだ。