全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は19日、1973年の稼働開始から50年以上が経過した「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)を全面刷新すると発表した。2030年の稼働を目標に、即時決済対応の新基盤を構築する。実現すれば全銀ネットとして初めての抜本的再構築となる。国内ではこれと並行して円建てステーブルコインの流通や大手金融機関によるトークン化預金の実証が加速しており、伝統的な決済インフラの刷新がデジタル資産市場にどのような影響を与えるかが注目される。
老朽化した基盤の限界と新システムの概要
現行の全銀システムは設計が古く、新たな利用者ニーズへの機能追加が困難であるうえ、維持コストも高止まりしている。また国際的な標準や規制への対応コストが増大し、海外のリアルタイム決済基盤との接続も見通しにくい状況が続いていた。全銀ネットは改修を重ねることの限界を認め、ゼロベースの新設に踏み切った。
新システムでは、送金と同時に受取口座での着金を確認できる仕組みを想定する。送金前に受取口座の有効性や名義をリアルタイムで照会する「事前口座確認」も導入し、誤送金や詐欺被害の抑止を図る。現行システムは24時間365日の送金が可能だが、即時着金には制約があり、着金確認機能も備えていない。取引結果の通知やエラー対応も即時化し、企業の資金繰り管理や決済事務の自動化を後押しする方針だ。全国銀行協会の半沢淳一会長(三菱UFJ銀行頭取)は同日の会見で、検討を経て「新システム構築の方が合理的という結論を得た」と説明した。
なお直近の経緯としては、2023年10月に発生した大規模障害(送金・着金の合計で566万件が滞留)を受け、第8次全銀システムへの更新が当初計画から半年程度後ろ倒しされ2028年5月に設定されている。今回発表された全面刷新の新システムは第8次とは別の、さらに先の次世代基盤として位置づけられる。2026年度中に要件や設計を詳細化し、同年度内に構築可否を最終判断する。構築を決定した場合は2030年稼働を目指し、当面は安定性確保のため新旧システムを並存させる計画だ。
デジタル決済の加速と暗号資産業界への示唆
全銀システムの刷新構想が浮上する中、国内の暗号資産・ステーブルコイン市場は急速に実用段階へと移行しつつある。2025年8月には金融庁が国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を承認し、Ethereum・Avalanche・Polygonなどの複数チェーン上で即時送金が可能な円建てデジタル通貨として実用化が始まった。
同年9月にはゆうちょ銀行とSBI新生銀行が相次いで預金のトークン化に取り組む方針を公表。2026年2月には野村ホールディングスと大和証券グループが3メガバンクと連携し、ステーブルコインを用いた有価証券の即時決済実証実験を開始する方針を固めたと報じられた。
こうした動きは、全銀システムが目指すリアルタイム決済と方向性を共有しつつも、銀行間インフラを経由しない新たな決済経路を構築する可能性を秘める。PwCの試算によれば、世界のキャッシュレス決済件数は2030年に向けて2020年比で約3倍に達すると見込まれており、ブロックチェーン基盤のデジタル通貨が担う役割は一段と拡大する見通しだ。規制面では、2025年6月成立の改正資金決済法が2026年中に施行予定で、暗号資産取引や電子決済手段(ステーブルコイン)に関するルールが整備される。金融庁は2026年1月、「暗号資産・ステーブルコイン課」を新設する組織再編方針を示しており、監督体制の強化も進む。
競合か共存か—新旧インフラが交差する転換点
全銀システムの刷新が仮に実現すれば、既存の銀行決済インフラはリアルタイム性・国際対応・マネーロンダリング(AML)対応の面で大幅に強化される。これはステーブルコインやトークン化預金が「銀行インフラの非効率」を補う手段として訴求してきた優位性の一部を縮小させかねない。一方、新システムが「新たなデジタル決済手段との連携」を明示的に視野に入れていることは、暗号資産業界にとって既存金融インフラとの接続・共存が現実的な選択肢になることを意味する。
NTTデータ経営研究所は、ステーブルコインがもたらす決済構造の変化は銀行の経営基盤を揺さぶる可能性があると指摘する。伝統的な銀行振込経路の一部がブロックチェーン上の即時決済に代替されることで、決済手数料収入や顧客の決済データ収集機会が失われうるためだ。全銀システムの次世代基盤が完成する2030年は、日本円ステーブルコインの普及期とも重なる。銀行間決済インフラの近代化とデジタル資産の台頭が交差するこの時期に、日本の決済エコシステムの競争地図が描き直される公算は大きい。