警察庁は29日、2025年版警察白書を公表し、近年の犯罪において暗号資産(仮想通貨)が「匿名性の高い資金移動手段」として悪用されている実態を明らかにした。匿名性と即時性を特徴とする暗号資産は、SNSやAIなどのデジタルインフラと結びつき、特殊詐欺やサイバー犯罪の新たな「犯罪インフラ」として悪用されていると指摘した。
特にSNSとの連携による「闇バイト」や投資詐欺が拡大する中で、暗号資産は送金や収益の隠匿に活用されており、警察庁は今後、AIを活用したサイバーパトロールや国際連携による取締体制の強化に乗り出す。
SNSと仮想通貨が融合する犯罪構造
白書では、SNSを通じて不特定多数を勧誘する「闇バイト」や「投資詐欺」が依然として横行していると指摘。これらの犯罪では、被害金や報酬の授受手段として暗号資産がしばしば利用されている。とりわけ、ビットコイン(BTC)やモネロ(XMR)といった追跡困難な暗号資産が、犯罪収益の移転や隠匿に活用されているケースが増加している。
警察はこうした事態に対応すべく、SNS上の募集情報をAIでパトロールし、犯罪の芽を事前に摘み取る取り組みを進めている。ただ、暗号資産の使用自体が違法とは限らず、法規制と捜査技術のギャップが課題として浮かび上がっている。
トクリュウ事件が浮き彫りにした実態
今年4月には、犯罪収益の移転に暗号資産が使われた典型例として、いわゆる「トクリュウ事件」が報じられた。中国系組織が日本国内で組織的に特殊詐欺を行い、得た金銭を仮想通貨に換金して国外に送金していたとされる事件で、警察庁と関東信越厚生局麻薬取締部(トクリュウ)などが合同で摘発に動いた。
事件では、資金洗浄のために複数の仮想通貨取引所を経由する複雑なスキームが用いられていたことが確認された。また、実体のないペーパー企業や個人名義口座を介して資金が分散・変換されていたという。
警察関係者によれば、「仮想通貨は可視性がある反面、海外の取引所や分散型金融(DeFi)などへと資金が渡ると、追跡が一層困難になる」との懸念がある。日本では仮想通貨交換業者に対し、本人確認(KYC)や取引記録の保存義務が課されているものの、国外のサービスを利用された場合には、その実効性が著しく低下する。
法整備と国際連携の強化が焦点に
警察白書はまた、暗号資産を巡る国際的なマネーロンダリング対策(AML/CFT)の重要性にも言及している。FATF(金融活動作業部会)が提唱するトラベルルールの国内実装が進んでいる一方で、実務面では「対応が不十分な交換業者も存在し、犯罪組織にとって“抜け穴”となっている」と警鐘を鳴らす。
今後は、仮想通貨ウォレットの識別、DeFiプロトコルに対する監視手法、ノンカストディアル型サービスへの対応など、捜査・規制の両面での高度化が求められる。さらに、米国や欧州など主要国との情報共有体制の強化も急務だ。
国内では、警察庁が主導する「サイバー犯罪対処能力の強化等に向けた緊急プログラム」の一環として、暗号資産を扱うサイバー攻撃特別捜査隊の設置や、ログ保存制度の在り方について関係省庁と検討を進めている。
「犯罪の温床」にどう対応するか
白書は、暗号資産とSNSが融合した新たな犯罪形態に警鐘を鳴らす一方、暗号資産自体を否定するものではない。警察庁関係者は「技術革新と犯罪抑止の両立が不可欠。重要なのは健全な利用と不正利用の線引き」と強調している。
暗号資産の普及に伴い、犯罪手法も巧妙化の一途をたどっている。日本の法制度や捜査体制がこうした現実に追いつくためには、産学官連携の強化と、国際社会との協調が不可欠となる。
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