今年も確定申告の季節が近づいてきた。国税庁はAI(人工知能)を駆使した新システム「KSK2」への移行を進め、富裕層や海外投資への監視をかつてないレベルで強化している。その一方で、長年の悲願だった「暗号資産税制の改正」がついに現実味を帯びてきた。
金融庁の提言を受け、政府は2026年内にも税率を一律20%の申告分離課税へと引き下げる方針を固めつつある。AIによる調査強化という「ムチ」と、減税という「アメ」が交錯する今、投資家が取るべき行動とは何か。最新の税務行政動向に基づき、今年の確定申告における最適解を紐解く。
Sponsored国税庁のAI武装=「富裕層」「海外投資」への集中砲火
国税庁は近年、税務調査の効率化と高度化を急速に進めている。その中核を担うのが、国税総合管理システム(KSK)の次世代版、いわゆる「KSK2」とAIの融合だ。2026年現在、AIによるデータ分析は試験運用から本格稼働のフェーズに入っており、膨大な取引データの中から「申告漏れの可能性が高い納税者」をピンポイントで抽出する精度が飛躍的に向上した。
特にターゲットとされているのが、「海外投資」を行う富裕層だ。従来の税務調査では、海外取引の実態把握に多大な時間を要したが、現在はCRS(共通報告基準)により、世界各国の金融機関から口座情報が自動的に国税庁へ提供されている。AIはこのCRS情報と、国内での所得申告状況、さらには過去の調査事績をクロス分析する。例えば、海外取引所で多額の利益を上げているにもかかわらず、国内での申告所得が不自然に低いケースなどは、瞬時に「要調査対象」としてフラグが立てられる。
国税庁の統計によれば、富裕層に対する調査1件あたりの追徴税額は、一般の調査に比べて約3倍から4倍に達しているというデータもある。AIは人間の調査官が見逃しかねない微細な「歪み」も見逃さない。暗号資産投資家、とりわけ海外取引所を利用して利益を得ている層にとって、もはや「バレないだろう」という希望的観測は致命的なリスクでしかない。
「ドル建て・海外取引所」は聖域ではない
多くの投資家がいまだに抱く誤解の1つに、「海外の取引所を使い、米ドル(USD)やステーブルコインで利益を保有している限り、日本の国税庁には捕捉されない」というものがある。しかし、これは現在の国際税務の常識からすれば完全に誤りだ。
前述のCRS制度には、主要な暗号資産取引所が存在する多くの国や地域が加盟している。さらに、日本国内の取引所から海外取引所への送金履歴は、ブロックチェーン解析ツールによって容易に追跡可能だ。国税庁はすでに、暗号資産交換業者から任意のデータ提供を受けるだけでなく、専門の「暗号資産調査チーム」を組成し、オンチェーンデータの解析能力を高めている。
また、確定申告の実務においても注意が必要だ。海外取引所での取引は、多くの場合米ドル建てやUSDT(テザー)建てで行われる。日本の所得税法では、こうした外貨建取引であっても、取引(売買や交換)が成立した時点での日本円換算レートを用いて損益を計算しなければならない。ドル建てで資産が増えていれば、たとえ日本円に戻していなくとも、その時点で課税対象となる所得が発生しているとみなされる。
「日本円に出金していないから税金はかからない」という認識は、税務調査において最も否認されやすい典型的な誤りだ。AIは、国内取引所からの送金履歴と、その後の海外市場での価格変動を照合し、含み益ではなく「実現益」が発生している可能性が高い納税者を抽出する。申告を行わないことは、自ら「調査に来てください」と手を挙げているようなものだ。
無申告の代償とペナルティの重み
確定申告が必要であるにもかかわらず、それを怠った場合のペナルティは甚大だ。AIによって無申告が発覚した場合、本来納めるべき税金(本税)に加え、無申告加算税が課される。その税率は、納付すべき税額に対して15%から20%だ。さらに、仮装や隠蔽(意図的な所得隠し)が認定されれば、より重い「重加算税」が課され、その率は最大で40%にも及ぶ。
これだけではない。納付が遅れた日数分だけ延滞税も発生する。現行の最大税率55%(所得税45%+住民税10%)にこれらのペナルティが加われば、利益の過半、最悪の場合は利益の大部分を税金として没収される事態になりかねない。
また、税務調査の遡及期間(時効)にも留意すべきだ。通常は過去3年から5年分が調査対象となるが、悪質な不正が疑われる場合は最大7年前まで遡ることができる。2025年に発生した利益を隠し通そうとすれば、2032年頃まで国税庁のAIにおびえながら生活することになる。精神的なコストも含めれば、適正に申告し、納税を済ませることのメリットは計り知れない。特に、後述する税制改正が控えている今、過去の「負の遺産」を引きずることは、将来の資産形成における最大の足かせとなるだろう。
Sponsored遠のいた「税率20%」―2028年施行が濃厚に
長らく暗号資産投資家を苦しめてきた「雑所得・総合課税」という枠組みが、いよいよ変わろうとしている。具体的な動きは2025年後半から急速に進展した。
まず、金融庁は2025年8月29日に提出した「令和8年度 税制改正要望」において、暗号資産取引を「申告分離課税」の対象とし、金融所得課税と同様の20%(所得税15%+住民税5%)とするよう強く求めた。これを受け、同年12月12日に公表された与党の「令和8年度 税制改正大綱」には、ついに暗号資産税制の見直しが明記された。長らく暗号資産投資家を苦しめてきた「雑所得・総合課税」という枠組みについて、2025年中は「2026年あるいは2027年からの20%分離課税化」が有力視されていた。しかし、その楽観論は修正を余儀なくされている。
潮目が変わったのは2025年末からだ。市場関係者や有識者の間では、改正法の施行が「2028年(令和10年)1月」までずれ込むとの見方が支配的となりつつある。
資産運用業界の重鎮であり、ウエルスアドバイザー代表の朝倉智也氏は昨年12月の時点で、「関係筋によると、暗号資産の申告分離課税への移行は2028年1月となる見通しだ」と言及している。
その上で、世界的なWeb3の潮流から日本が取り残されるリスクに対し、「このスケジュールは極めて遅く、米国はもちろん、アジアや中東と比べても制度整備で後れを取る」と強い危機感を示している。
なぜこれほどの時間を要するのか。そのヒントは金融庁の資料にも隠されている。政府の改正方針では、単に税率を下げるだけでなく、「金融商品取引法等の改正」が前提条件とされているのだ。さらに、暗号資産取引業者に対して、顧客の取引情報を税務当局へ詳細に報告する義務を課す新たな仕組みの導入も明記されている。
つまり、法改正の審議に加え、全国の取引所と国税庁をつなぐ大規模なシステム改修とテスト期間が必要となるため、「2年の周知期間(準備期間)」というタイムラグは、行政実務上、回避できない壁となっているようだ。
投資家にとっての「冬の時代」は、あと2年延長されたことになる。一律20%への引き下げと、待望の「損失繰越控除(3年間)」の導入は確実視されているものの、その恩恵を受けるためには、2028年の夜明けまで、現行の高税率下で資産を守り抜く持久戦が求められる。
2025年分の最適解と将来への布石
では、2025年中に暗号資産で利益を出した投資家は、具体的にどう動くべきか。AIの監視と法改正の狭間で資産を守るための「最適解」は、以下の3ステップに集約される。
- 2025年分は「完全ホワイト」に申告するまずはAIのリスクを排除することが最優先だ。経費(セミナー費、書籍代、通信費など)を漏れなく計上して課税所得を圧縮しつつ、計算ミスがないよう正確に申告する。ここで国税庁に「適正な納税者」としての実績を作っておくことが、将来の安全につながる。
- 安易な「利確」を封印し、ガチホ体制へ移行税制改正法案の行方が見えるまでは、保有資産の売却(利益確定)を控えるのが合理的だ。現行の最大55%と改正後の20%では、手取り額に天と地ほどの差が出る。2026年以降の低税率適用開始まで資産を温存(ガチホ)することが、最も確実な節税策となる。
- 「過去の負債」を清算し、新時代に備えるもし過年度の無申告があるなら、税務調査が来る前に自主的に修正申告を行うべきだ。自主申告ならペナルティは軽減される。来るべき「税率20%時代」をクリーンな状態で迎えるためにも、2025年分の申告を、過去の精算と未来への投資と捉える視点が必要だ。
2026年は日本の暗号資産投資家にとって夜明けの年となる。目先の税金逃れで資産を失う愚を犯さず、法改正の果実を最大限に享受するための準備を整えることこそが、賢明な投資家の戦略だ。