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PayPayが米国IPO申請―米デジタル決済市場に新たな競争軸

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執筆&編集:
Shigeki Mori

13日 2月 2026年 15:18 JST
  • PayPayが米ナスダック市場でのIPOを申請し、時価総額3兆円規模の大型上場を目指している。主幹事はゴールドマン・サックス、JPモルガン、モルガン・スタンレー、みずほ証券。
  • 主幹事陣はいずれもステーブルコイン事業に注力しているが、PayPayは中央集権型決済プラットフォームとして補完的な位置づけにある。
  • PayPayとVisaの提携による米国進出は、ステーブルコインを含むデジタル決済市場に新たな競争軸をもたらし、暗号資産・フィンテック業界全体に影響を与える。
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ソフトバンクグループ傘下のPayPayは13日、米ナスダック市場での新規株式公開(IPO)に向けた登録届出書を米証券取引委員会に提出した。時価総額3兆円規模となる今回の上場で主幹事を務めるゴールドマン・サックス、JPモルガン、モルガン・スタンレー、みずほ証券は、いずれもステーブルコイン事業への注力を強めている金融機関。

Visaとの提携で米国市場進出を発表したばかりのPayPayは、ブロックチェーン技術に依存しない中央集権型決済プラットフォームとして、新たな「デジタル決済の覇権争い」の構図を作り出しつつある。本稿では、従来の金融機関が支援する大型IPOが、ステーブルコインを含む暗号資産市場にもたらす影響を分析する。

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過去最大規模のIPO、主幹事陣に見る戦略的意図

PayPayの米国IPOは、日本のフィンテック企業として過去最大規模となる見通しだ。提出された登録届出書によると、2025年12月までの9カ月間で売上収益2,785億円、営業利益610億円を計上している。国内登録ユーザー数は7,200万人を突破し、日本のスマートフォンユーザーの約75%をカバーする規模に達した。決済取扱高は2025年3月期で15兆3,900億円に上る。

注目すべきは、主幹事を務める金融機関の顔ぶれである。ゴールドマン・サックス、JPモルガン、モルガン・スタンレー、みずほ証券の4社は、いずれもステーブルコイン事業への関与を明確に打ち出している金融機関だ。特にJPモルガンは2025年6月に預金トークン「JPMD」を発行し、機関投資家向けのブロックチェーン決済基盤「Kinexys」を通じて1.5兆ドル超の銀行間決済を処理している。

ただし、業界関係者の間では、JPMDの利点を享受しつつもJPMの二重基準を批判的に指摘する向きもある。

暗号資産トレーダーのアレクサンダ―・ロレンゾ氏は「JPMorganはstablecoin yield禁止をロビー活動中だが、自社のJPMD deposit tokenは利子可能。cryptoを置き換えようとしている」とXに語っている。

シティグループのジェーン・フレーザーCEOは「シティ・トークン・サービス」が既に4市場で稼働していると明言しており、米銀大手はステーブルコインの共同発行も検討中だと報じられている。

一方、PayPayはブロックチェーン技術を採用せず、従来型の中央集権的な決済プラットフォームとして成長してきた。主幹事陣がステーブルコインに注力する中で、なぜPayPayへの大型投資を主導するのか。その答えは、規制の安定性と市場浸透力にある。ステーブルコインは米国で2025年に成立した「GENIUS法案」により法制化が進んだものの、送金ライセンスや規制当局の承認といった複雑なハードルが残る。

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対してPayPayは、既に確立された決済インフラとユーザー基盤を持ち、即座に収益化できるビジネスモデルを提示している。主幹事陣にとって、PayPayは「実績あるデジタル決済企業」への投資であり、JPYCなどのステーブルコイン事業とは補完関係にあると位置づけられているといえる。

Visa提携が示すグローバル決済の新構図

PayPayは米国IPO申請と同日、米クレジットカード大手のVisaとの戦略的パートナーシップを発表した。

この提携は、PayPayのグローバル展開第一弾として米国市場への進出を目指すもので、NFCタッチ決済とQRコード決済の両方に対応する「デュアルモード」のデジタルウォレットを展開する計画だ。PayPayが主導する新会社を通じて、カリフォルニア州などの一部地域でQRコード決済加盟店のネットワーク構築を進める。

この動きは、米国決済市場における新たな競争軸を生み出す。米国ではApple Pay、Venmo、Zelleといった既存のデジタルウォレットが市場を支配している。そこにVisaのグローバルネットワークと日本で圧倒的なシェアを持つPayPayが参入することで、モバイル決済の勢力図が変わる可能性がある。

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Visaの最高製品・戦略責任者ジャック・フォレステル氏は「ローカルで愛されるウォレットブランドを、自国の市場を離れてグローバルに展開できるようにする」と述べており、Visa自身もPayPayとの提携を通じて新たな成長機会を見出している。

国内では、Visaの技術を活用して「PayPay残高」「PayPayカード」「PayPay銀行」の機能を単一のVisa認証情報に集約するサービスを年内にも提供する予定だ。これにより、ユーザーはアプリ上で複数の支払い手段を一元管理できるようになる。また、訪日外国人がPayPay加盟店でVisaカードや連携アプリを使って支払いできる環境整備も進める。クロスボーダー決済の利便性向上は、ステーブルコインが標榜する「国境を越えた即時決済」と直接競合する領域である。

ステーブルコインとの競争と共存

ステーブルコインは、法定通貨に価値を連動させることで価格の安定性を確保し、国際送金や決済の効率化を実現するデジタル資産だ。日本では2023年6月の改正資金決済法施行により「電子決済手段」として法制化され、銀行や信託会社、資金移動業者が発行できる。JPYCをはじめとする国内ステーブルコインは、クロスボーダー決済やDeFi(分散型金融)での活用が期待されている。

しかし、ステーブルコインには普及における課題がある。価値が安定的であるため投資向きではなく、一般ユーザーにとっての直接的なメリットが限定的だ。また、暗号資産や投資への抵抗感も普及の足かせとなっている。一方、PayPayは大規模なキャンペーン施策やポイント還元により、リリースから5年弱で決済取扱高10兆円を突破した。この「ユーザー利益を前面に出したマーケティング戦略」は、ステーブルコインにはない強みである。

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ステーブルコインとPayPayのようなデジタル決済プラットフォームは、必ずしも対立関係にあるわけではない。PayPayは「特定企業が管理する金融システム」の中で動く「閉じた便利さ」を提供する一方、ステーブルコインは国や企業の枠を超えて動く「開かれたお金」として機能する。前者は日常的な小口決済に強みを持ち、後者は企業間取引や国際送金での効率性に優れる。JPモルガンのアナリストは「トークン化された国債がステーブルコインを完全に置き換えることはない」と指摘しており、同様に、PayPayがステーブルコイン市場を駆逐することもないだろう。むしろ、両者は異なる用途で共存する可能性が高い。

暗号資産・フィンテック業界への波及効果

PayPayの米国IPOは、暗号資産とフィンテックの業界に複数の影響をもたらすと考えられる。第一に、中央集権型デジタル決済プラットフォームの成功モデルが確立されることで、ブロックチェーン技術に依存しない決済サービスへの投資が活発化する可能性がある。特に、規制環境が不透明な暗号資産市場と比較して、PayPayのような既存の法規制枠組み内で運営される企業は投資家にとって魅力的に映る。

第二に、主幹事陣がステーブルコイン事業と並行してPayPayを支援することで、金融機関が「多様なデジタル決済手段のポートフォリオ」を構築していることが明確になった。これは、ブロックチェーン技術が万能ではなく、用途に応じて最適な技術を選択する時代に入ったことを示唆している。ゴールドマン・サックスやJPモルガンは、ステーブルコインによる機関投資家向けサービスと、PayPayのような消費者向け大衆市場サービスの両面で存在感を強めている。

第三に、PayPayの米国進出は、日本発のフィンテック企業が世界市場で戦える可能性を示した象徴的な出来事である。従来、米国発のサービスが日本に進出するのが一般的だったが、今回は逆の流れが生まれている。この成功例は、日本の暗号資産・フィンテック企業にとって大きな刺激となり、グローバル展開への機運を高める可能性がある。

最後に、PayPayVisaの提携は、既存の金融インフラとデジタル決済の融合を加速させる。Visaのような伝統的なカードネットワークが、QRコード決済やモバイルウォレットと積極的に連携することで、ユーザーは支払い手段の選択肢が増え、利便性が向上する。この動きは、ステーブルコインを含む暗号資産決済にも影響を及ぼす。将来的には、PayPayのようなプラットフォームがステーブルコインを決済手段の一つとして統合する可能性も否定できない。そうなれば、暗号資産の一般消費者への普及が一気に進む契機となるだろう。

PayPayの米国IPOは、単なる企業の資金調達にとどまらず、デジタル決済の未来を占う重要なイベントである。ステーブルコインとの競争と共存、既存金融インフラとの融合、そして日本発フィンテックのグローバル展開。これらの動向が、今後の暗号資産・フィンテック業界の方向性を大きく左右することになる。

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