米連邦検察当局は、Tornado Cash共同創設者ロマン・ストーム氏に対する昨夏の陪審が評決に至らなかった2つの罪状について、再審を求めている。司法省は3月9日、キャサリン・ポーク・ファイラ判事に対して10月初旬の再審日程設定を要請する文書を提出した。
この動きは、暗号資産業界の注目を集めている刑事事件の一つで、政府が後退していないことを示す。検察側は、陪審が意見を一致できなかったにもかかわらず、手続きを進めている。これは、トランプ政権がデジタル資産に対する「訴追による規制」を終える方針を示しているにもかかわらず、である。
陪審の意見割れで2件の評決持ち越し
ニューヨーク南部地区の陪審は、2025年8月6日、ストーム氏に対し、無認可のマネートランスミッター事業を営む共謀の罪で有罪の評決を下した。この罪には最長5年の禁錮刑が科される。
しかし、より重大な2つの罪状――マネーロンダリング共謀と米国制裁違反共謀――については、陪審は全会一致に達しなかった。これらはそれぞれ、最長20年の禁錮刑に該当する。
米国連邦裁判では、有罪評決には12人全員の合意が必要。合意に至らない場合は「陪審不成立」と呼ばれる。その場合、判決でも無罪でもない。憲法上の二重の危険――同一犯罪で2度裁かれることの禁止――は適用されず、政府は新たな陪審で再審を行うことができる。
検察側は昨夏4週間の裁判で、ストーム氏がTornado Cashをサイバー犯罪者のためのツールと知りながら運営していたと主張した。検察側は、内部メッセージや、利用者の少なくとも96%がストーム氏と共謀者が管理し250回以上更新したウェブサイト経由でサービスを利用したとの証拠を示した。弁護側は、Tornado Cashは承認不要で不変のソフトウェアであり、ストーム氏によるコントロールは展開後は不可能だったと主張した。
米司法省は10月を主張 弁護側は延期求める
3月9日の提出書面で、政府は早ければ今春にもストーム氏の再審が可能だと表明した。弁護側は、9月末から12月初旬まで対応できないとした。日程重複を避けるため、政府は10月5日または12日を提案した。
ストーム氏の弁護団は、証拠が法的に不十分であるとして有罪判決の覆しを求めるルール29申立ても提出している。口頭弁論は4月9日に予定されている。弁護側は、本申立てが未決の間に再審日程を設定するのは時期尚早だと主張。一方、司法省はそれに異議を唱えている。
「政府は被告人によるルール29申立てが現在係属中であることを認識しているが、更なる不要な遅延を回避するため、再審日程の設定を裁判所に求める」と検察は記している。
政策転換が再審の背景となる
ストーム氏の訴追は、トランプ政権の暗号資産取り締まり姿勢の限界を試してきた。2025年4月、トッド・ブランシュ副司法長官がデジタル資産への「訴追による規制」終了を指示する覚書を出している。検察側はこれにより裁判前にマネートランスミッターに関するFinCEN登録部分の罪状を取り下げた。しかし、ストーム氏が犯罪行為と知りつつ送金したという主張は維持された。
政府がマネーロンダリング及び制裁違反の罪状について再審を決断したのは、ブランシュ覚書が規制違反のみに限定されたものという見解が背景にあるとみられる。既知の犯罪行為助長が問われる案件は依然として対象になるとの立場。
財務省報告書が緊張感を高める
司法省が再審を求めたのは、米財務省が議会向けに暗号資産ミキサーの合法的用途を認めた報告書を公表したわずか2日後だった。GENIUS法報告書は、合法利用者がパブリックブロックチェーン上で機微な金融情報を保護する目的でミキサーを使う場合があると指摘した。
このタイミングは、同一政権内の見解の分裂を際立たせている。財務省はミキサーが合法目的でも利用され得ると認めている一方、司法省は著名なミキサー開発者の再審を求め、その罪状には最大20年の禁錮まで科す方針。
フィンセン元暫定局長のマイケル・モシェウ氏は、同報告書を「プライバシーを安全保障と認識した重要な内容」と評価。コインベースのポール・グリーワル最高法務責任者は、OFACがかつてTornado Cashに包括指定を課したが、2025年3月に解除した経緯を踏まえ意義深いと指摘している。
今後の展望
暗号資産関連団体65以上がトランプ米大統領に介入を要請している。DeFiエデュケーションファンドやイーサリアム財団はストーム氏の法的支援基金を500万ドル超まで押し上げている。
業界の最大の懸念は変わらない。もしも裁判所がオープンソースのスマートコントラクトコードの展開をマネーロンダリングや制裁回避と見なせば、米国内DeFi開発者に重大な法的リスクが生じる。初回の裁判で陪審が意見統一できなかったことは、政府の理論が未だ固まっていないことを示している。
ストーム氏の既存有罪判決に対する量刑言い渡し日は未設定である。有罪判決の取消申立て(ルール29)が決着すれば、控訴が広く予想されている。共同創設者のロマン・セメノフ氏は現在も逃亡中。オランダ裁判所は2024年、Tornado Cash開発者3人目のアレクセイ・ペルツェフ被告にマネーロンダリング罪で有罪判決を下したが、同被告は判決を不服として控訴中。