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米ドル価格の年次予測 2026年は転換点となるか

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著者:
FXStreet

20日 12月 2025年 12:06 JST
Trusted-確かな情報源
  • 米ドルは、長年の堅調を経て、2025年に主要通貨に対し約10%下落した。
  • 2026年には金利差の縮小や世界経済の均衡化を背景に、ドルはさらに軟化する見通しだ。
  • 米連邦準備制度理事会(FRB)に関する不透明感や地政学的リスク、財政不安が、ドルの乱高下と断続的な上昇要因となる可能性がある。
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米ドル(USD)は新年を迎えるにあたり、岐路に立っている。米国の成長優位、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な金融引き締め、そして世界的なリスクオフ局面の繰り返しを背景に継続してきた強さが、多方面にわたる米ドル高の基盤となってきたが、こうした条件は崩壊してはいないものの、徐々に弱まりつつある状況。

FXStreetは、今年は明確なレジーム転換というよりも、移行期と表現する方がふさわしいと予測する。

米ドルの転換期

2026年のベースシナリオとしては、金利差の縮小と世界の成長格差の解消を背景に、高ベータ通貨および割安通貨が主導して米ドルが緩やかに軟化する見通し。

FRBは慎重に金融緩和に動くとみられるが、大幅な利下げのハードルは依然として高い。根強いサービス分野のインフレ、底堅い労働市場、財政拡大政策が、米国の金融政策正常化を急がせにくくしている。

過去10年の米ドル指数 出典: Macro Trends

為替市場全体では、全面的な米ドル安相場というより、選択的な機会が生じる環境。

目先のリスクとしては、米国の財政問題による再びの瀬戸際外交が挙げられる。政府閉鎖リスクは、米ドルのトレンドが大きく変化するよりも、一時的な変動と守備的なドル需要の発生をもたらしやすい状況。

さらに先を見据えると、ジェローム・パウエルFRB議長の任期が5月に終了することが追加の不透明要因となる。今後FRBのリーダーシップ移行が政策スタンスをハト派寄りに動かすかどうか、市場は見極めに入っている。

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総じて、今後1年はドル支配の終焉を論じるというより、これまでほど圧倒的ではないがいまだ不可欠という米ドルをめぐる環境をどう乗りこなすかが問われる局面。

2025年の米ドル動向:特異性から転換か

この1年は、単一の大きなショックではなく、米ドルの強靱さが試され、それが最終的に再確認される出来事の積み重ねが特徴であった。

当初は「米国の成長減速と近い将来のFRBによる政策転換」が大方の見方であった。

しかし、この見方は早計に終わった。米国経済は相変わらず底堅さを維持し、経済活動は好調を保ち、インフレ率も緩やかにしか低下せず労働市場が十分に逼迫していたため、FRBは慎重姿勢を崩さなかった。

インフレは2つ目の継続的な論点となった。総合指標は落ち着きつつあったが、進捗は一様でなく、特にサービス分野で目立った。

指標の上振れは、その都度「どこまで引き締めるべきか」の議論を再燃させ、そのたびに米ドルは堅調となり、ディスインフレの道のりが道半ばであることを思い知らされた。

地政学リスクも常に背景にあった。中東の緊張、ウクライナ戦争、そして特に貿易面での不安定な米中関係が市場を頻繁に動揺させた。

米国外では、この構図を覆す材料がほとんどなかった。欧州経済は明確な勢いを生み出せず、中国の回復にも説得力が乏しく、その他地域の相対的な成長劣後が米ドル安の持続的な材料を限定した状況。

そして「トランプ要因」もある。政治要素は米ドルの方向性を明確に左右するというより、繰り返しボラティリティをもたらす原因であった。

下のタイムラインが示す通り、政策や地政学的不透明感が高まる時期には、安全資産としてのドルが恩恵を受ける場面が目立っている。

トランプ氏のタイムライン

2026年を迎えても、この傾向は変わりそうにない。トランプ政権下では、為替市場への影響は、予測可能な政策経路というよりも、貿易や財政、制度などを巡る断続的な不透明感を通じて現れる可能性が高い。

米連邦準備制度は慎重な緩和、転換ではない

FRBの金融政策が米ドル見通しの最重要なアンカーである状況は変わらない。市場は、政策金利のピークはすでに過ぎたとの見方を強めつつある。

ただし、利下げペースやその幅に対する期待感は依然として変動が大きく、多分に楽観的な側面も残る。

インフレは明確に落ち着いたものの、ディスインフレの最終局面は依然として手ごわい。総合・コアの消費者物価指数(CPI)伸び率は、FRBの目標である2.0%をなお上回る。

サービス分野のインフレも高止まりし、賃金上昇も緩やかにしか鈍化していない。金融環境は大幅に緩和し、労働市場も過熱こそ収まったが、歴史的にはなお底堅いと言える。

2022年以降の米インフレ動向

このような環境下では、FRBは段階的かつ慎重な利下げにとどまり、積極的な金融緩和サイクルには踏み切らない見込み。

為替市場の視点では、金利差は市場の想定ほど急速に縮小しない可能性が高い。

従って、FRBの金融緩和による米ドル安は、急激なものではなく、秩序ある展開となる可能性が高い。

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財政動向と政局サイクル

米国の財政政策は、ドルの見通しにとって依然として複雑な要素である。大型赤字や債務発行の増加、深刻な政治的分断はもはや一時的な現象ではなく、構造的な状況の一部となった。

明確な緊張感が生じている。

一方で、拡張的な財政政策は成長を引き続き下支えし、実体的な減速を遅らせ、間接的に米国のアウトパフォームを強化することでドルを支えている。

他方で、国債発行の着実な増加は、債務の持続可能性や、世界の投資家が増大し続ける供給をどれだけ長期間吸収し続ける意思を持てるのかという疑問を生んでいる。

市場はこれまで、いわゆる「双子の赤字」に非常に寛容だった。米国資産への需要は根強く、流動性や利回り、規模の点で信頼できる代替資産が他に存在しない。

政治も不確実性の層を加えている。

選挙イヤー(次回は2026年11月中間選挙)は、リスクプレミアムを高め、為替市場に短期的なボラティリティをもたらす傾向がある。

最近の政府機関閉鎖はその典型例である。43日間の閉鎖の後に米政府は再開したが、根本的な問題は未解決のまま。

議員らは次の予算切れ期限を1月30日に先送りしたため、再び対立が表面化するリスクは依然として強く残っている。

バリュエーションとポジショニング:混雑も崩壊せず

バリュエーションの観点から見ると、米ドルはもはや割安ではないが、過度に割高というわけでもない。ただし、価値判断だけでドルサイクルの転機を導き出せることはほとんどない。

むしろポジショニングに注目すべきだ。投機筋のドル売り越しは過去数年で最大規模となっている。つまり、市場の一部は既に先行してドル安にポジションを傾けている。

これは弱気シナリオそのものを否定する要素ではないが、リスクプロファイルを変化させている。ポジションが一方向に偏るほど、ドル安トレンド維持のハードルが高まり、一方でショートカバーによる急騰リスクも強まる。


こうした環境下では、政策サプライズや地政学的緊張が影響しやすい点も重要である。

総合的に見て、割高感と大きなショートポジションは、ドルが明確に弱い相場を形成するというよりも、不安定な展開の中で、弱含み相場が突発的な逆行で何度も中断される状況を示唆する。

米ドル・インデックスと建玉ネットポジション 出典: BeinCrypto
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地政学と安全資産の動向

地政学リスクは、表立って話題になることは少ないが、米ドルの信頼できる下支え要因となっている。

決定的な地政学ショックが生じているというより、徐々にリスクが積み上がっている状況である。

中東の緊張は依然未解決で、ウクライナ戦争は欧州経済に重くのしかかる。米中関係も非常に脆弱だ。世界的な物流の乱れや戦略的な競争意識の高まりも加わり、不確実性は高い水準にとどまっている。

こうした要因が直ちにドルの上昇を確約するものではない。ただ、これらリスクが合わさることで、よく見られるパターンが継続している。不安やリスクが高まり流動性需要が増加したとき、ドルには安全資産需要が集中しやすい。

主要通貨ペアの見通し

EUR/USD: ユーロ(EUR)は、景気循環が好転しエネルギー関連の懸念が後退すれば一定の下支えが期待できる。一方、欧州には深刻な構造問題が残る。トレンド成長の弱さや財政余力の乏しさ、ECBがFRBよりも早期に緩和に動く可能性などから、上値は限定的である。

USD/JPY: 日本の緩和政策からの漸進的な転換で円(JPY)はやや下支えされるが、米国との金利差は依然大きく、当局による介入リスクも常に意識される。ボラティリティが大きく、双方向リスクや急激な短期的反発が混在し、明確で持続的なトレンドにはなりにくい。

GBP/USD: ポンド(GBP)は引き続き厳しい環境にある。トレンド成長は弱く、財政的余地も限られており、政治も不透明要素だ。バリュエーションが一部を下支えするが、英国には循環的な追い風が乏しい。

USD/CNY: 中国当局はリフレーションではなく安定を重視した政策を維持している。人民元(CNY)には下落圧力が残るものの、当局は急激または無秩序な変動を容認しない姿勢が強い。このため、米ドル高がアジア全域に波及するリスクは抑制される反面、中国経済と連動性の高い新興国通貨の上値も制限される。

コモディティ通貨: 豪ドル(AUD)、カナダドル(CAD)、ノルウェークローネ(NOK)などは、リスクセンチメントの改善や商品価格の安定時に恩恵を受けやすい。とはいえ、こうした通貨の上昇はばらつきが大きく、中国経済指標の影響も強い。

2026年のシナリオとリスク

メインシナリオ(確率60%)では、金利差の縮小や世界経済の格差是正とともに、ドルは徐々に下落する見通しである。急激な反転ではなく、漸進的な調整の世界観だ。

より強気な米ドルシナリオ(約25%)は、インフレが想定より粘着的に推移し、FRBの利下げ時期が先送りされる、あるいは全く行われない場合、あるいは地政学ショックで安全資産・流動性需要が再燃する場合に実現し得る。

弱気なドルシナリオは確率15%程度と低い。この場合、世界経済の回復が明確になり、FRBの積極緩和サイクルによりドルの金利優位が大きく削がれる必要がある。

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追加の不確実性要因としてFRB自体にも注目が集まる。パウエル議長の任期は5月で満了を迎えるため、市場は交代前から後任人事に関心を向ける可能性が高い。

後任がよりハト派寄りになるとの見方は、米国の実質利回りへの信認を損ない、徐々にドルの重しとなる可能性がある。現状の見通しの多くと同様に、影響は一方向的でなく、不均一かつ時間を要する展開になる公算が大きい。

総じてみれば、長期的には徐々に下落傾向であっても、ドルが一時的に強さを見せる局面が続くリスクは依然大きい。

米ドル価格分析

テクニカル面で見ると、直近のドル下落局面は米ドル指数の観点では、明確なトレンド転換というよりも、広いレンジの中での一時停止にとどまっている。

週足や月足チャートに目を向ければ、その傾向はより鮮明となる。DXYは依然コロナ前の水準を大きく上回っており、市場にストレスが戻る局面では買いが継続的に入る。

下落に備える場合、最初に注目すべき重要な水準は96.30付近で、ここがほぼ3年ぶりの安値圏に相当する。このゾーンを明確に割れば、長期200カ月移動平均線(92.00超)が次のターゲットとなる。

その下には、2021年に付けた90.00割れ水準が次の節目として意識される。

上値では、103.40近辺の100週移動平均線が最初の本格的な壁となる。この水準を超えれば、

110.00付近への上昇が再び視野に入る。ここは2025年1月初旬以来の到達圏だ。仮にこの水準を明確に上抜けば、2022年末につけた114.80付近のコロナ後高値が次の焦点となる。

総合すると、テクニカル分析上は大局的なマクロ環境と一致する。下値余地はあるものの、その動きが一方的で順調に進む可能性は低い。

実際、テクニカルの観点からはDXYはレンジ内でもみ合い、センチメント変化に反応しやすく、大きく反転しやすい特性を持つ。明確な一方向下落にはなりにくい。

USドル指数(DXY)週足チャート 出典:TradingView

結論:特権ではなく絶頂期の終焉

今後1年で米ドルが世界金融システムの中心的役割を終える可能性は低い。

むしろ、これまで成長・政策・地政学が完全に米ドル優位であった時代の節目を迎えるタイミングにあたる。

これらの要因が徐々に均衡する中、グリーンバックは上下動があっても依然として重要な存在だ。投資家や政策当局にとっては、循環的な調整と構造的転換点をどのように見極めるかが課題となる。

前者が後者よりもずっと起こりやすい。

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