米国のインフレ率はここ数カ月で最大の下振れサプライズとなった。しかし、持続的な上昇局面とはならず、ビットコインと米国株は米国市場の取引時間中に大きく売られた。
この値動きは多くのトレーダーを困惑させたが、チャートは、マクロ経済の基本要因ではなく、市場構造・ポジショニング・流動性に起因するよくある説明を示している。
米CPI発表後の市場動向
11月のCPI総合指数は前年同月比2.7%まで低下し、予想の3.1%を大きく下回った。コアCPIも2.6%と予想を下回った。
Sponsoredこの数字は、2025年で最もリスク選好が強まる内容だった。市場は当初、予想どおりの反応を見せた。ビットコインは8万9千ドル付近まで急騰し、S&P500も発表直後に上昇した。
だが、この上昇は長続きしなかった。
CPI発表からおよそ30分以内に、ビットコインは急速に反転した。日中高値の8万9200ドル付近に到達後、強い売りが入り、8万5千ドル台まで下落した。
S&P500も同様のパターンをたどり、CPI発表での上昇分のほとんどを急落で消失した後、やっと安定した。
この暗号資産と株式の同時反転は重要である。これは、資産固有やセンチメント主導の動きではなく、構造的な要因が背景にあったことを示す。
ビットコイン売り注文量が相場動向を示唆
最も明確な手がかりは、ビットコインのテイカー売り出来高データにある。
Sponsored Sponsored日中チャートで見ると、ビットコインが下落し始めたタイミングで、テイカー売り出来高が大きく急増した。テイカー売りは、指値買いを叩く成行売り注文であり、積極的な売却である。
これらの急増は米市場時間帯に集中し、下落局面の最も速い動きと一致していた。
週足で見ても同様の傾向が見られる。過去1週間に同じような売りの急増が複数回出現しており、高流動性の時間帯に集中していた。これは個人の単発的な売りではなく、強制的またはシステマティックな売却が繰り返し発生したことを示している。
この動きは、ロスカットの連鎖や、ボラティリティ目標型戦略、アルゴリズムによるリスク回避戦略と整合する。価格がレバレッジ・ポジションに逆行し始めると、こうした動きが加速する。
良いニュースが引き金となった理由
CPIの発表が売りを引き起こした原因は、悪材料だったからではない。むしろ良材料だったため、ボラティリティをもたらした。
軟調なインフレ指標は一時的に流動性を高め、スプレッドを縮小させた。その結果、大口投資家が効率的に注文を執行できる環境となった。
ビットコインの初動は、多数の指値注文・ストップロス注文・短期レバレッジにぶつかった模様だ。上昇モメンタムが止まると、価格は反転し、ロングの清算やストップロスが発動した。
ロスカットが発生すると、強制的な市場売りが下落をさらに加速させた。このため、値下がりは徐々にではなく一気に進んだ。
S&P500の日中での乱高下も同じ構図である。マクロ指標発表時の急落と急回復は、ディーラーのヘッジやオプション・ガンマ効果、システムによるリアルタイムのリスク調整が顕著に現れる。
これは操作に見えるか
これらのチャートは操作の証明にはならない。しかし、ストップランや流動性吸収によく見られるパターンを示している。
- 明確なテクニカル水準への急激な動き
- 流動性の改善直後の反転
- ブレイクダウン時の大規模なアグレッシブ売り
- 米国の取引時間帯との強い一致
これらの動きは、レバレッジが高い市場では典型的である。主な仕掛け手は個人ではなく、大手ファンドやマーケットメイカー、システム戦略であり、先物・オプション・現物市場を横断して動いている。目的はストーリーコントロールではなく、執行効率とリスク管理である。
暗号資産では、依然高いレバレッジと、主要な時間帯以外で急速に薄くなる流動性のため、これらのフローは極端に映る場合がある。
今後の展望
今回の売りはCPI指標を否定するものではない。インフレは実際に和らいでおり、それは長期的にリスク資産の支えとなる。今回の動きは短期的なポジション調整であり、マクロの転換ではない。
直近では、ビットコインが直近のサポート水準で安定できるかどうか、また、強制決済が一巡し売り圧力が弱まるかどうかに注目が集まる。
テイカーの売りが落ち着き、価格が維持されれば、CPIデータの影響が今後数セッションで再び表れる可能性がある。