11月18日の高市首相と植田日銀総裁の会談では、物価2%目標の達成を見据えつつ、追加利上げを「今後のデータ次第」とする慎重なスタンスが改めて示された。2025年9月の全国コアCPIは前年比2.9%と、インフレ圧力はなお根強い。一方で、日本の政策金利は0.5%に据え置かれ、米連邦準備制度理事会(FRB)は10月に3.75〜4.00%へ利下げしている。日米金利差と円安、ビットコイン価格の乱高下、円建てステーブルコインやデジタル円の進展が、暗号資産市場の構造変化を映し出しつつある。
Sponsored日銀総裁と高市首相会談が映す金利見通しと円相場
高市首相と植田日銀総裁の18日の会談では、インフレ率2%への着地を目指しつつ、追加利上げの判断を「今後のデータ次第」とする姿勢が確認された。会談観測が伝わった同日、為替市場では円売りが先行し、ドル円は一時155円30銭近辺まで上昇した。
足元では、2025年9月の全国消費者物価指数(CPI)のうち、生鮮食品を除く総合(コアCPI)が前年比2.9%上昇と、6月以降の鈍化傾向から再び伸び率をやや高めている。
一方、日銀は2025年1月にマイナス金利を解除し、短期の政策金利を0.5%程度に引き上げた後、3月以降は据え置いている。他方、FRBは2025年10月の会合でフェデラルファンド金利の誘導目標レンジを3.75〜4.00%へ25bp引き下げた。短期金利ベースの日米金利差は、2024年のピーク時から縮小しつつあるものの、なお3%台半ばと相応の水準にある。10年国債利回りでは、新発10年債が1.745%で推移する一方、米10年国債は4%前後とされ、日米10年債利回り差は2〜3%ポイント程度にとどまるとの推計が多い。
こうした環境下で、2025年9月時点の全国コアCPI前年比2.9%、政策金利0.5%を前提に実質金利を単純計算すれば、概ねマイナス2%前後となる。名目金利の正常化は進んだものの、インフレ率の方が高い状態が続いており、債券や預金と比べて、株式や暗号資産といったリスク資産が相対的に選好されやすい局面が続いているといえる。
マイナス実質金利と円安がもたらすビットコイン需要
2025年の日本では、物価上昇と賃金の伸びのギャップが意識され、国内投資家のリスク資産志向に変化が生じている。ロイターによれば、暗号資産関連では、金融庁の監督下にある登録交換業者を通じた暗号資産残高が、2025年7月末時点で約5兆円と過去最高を記録し、9月末時点でも4.9兆円と高い水準を維持したと報じられている。口座数は1320万口座、そのうちフリマアプリ大手メルカリ経由の暗号資産口座が約340万口座と、全体の4分の1を占める。
ビットコイン価格は、2025年10月に円建てで1800万〜1890万円台の最高値圏に達した後、11月時点では1400万円台まで反落している。
Sponsoredもっとも、価格のボラティリティにもかかわらず、国内暗号資産残高全体はインフレと実質金利低下を背景に押し上げられてきた側面がある。楽天証券などの分析でも、2024年以降、FRBの利下げと日銀の利上げを受けて日米金利差が縮小しているにもかかわらず、ドル円は150円台半ばまで円安方向に振れ、投機筋による「円高仕掛け」が生じにくくなっているとの指摘がある。
円安とマイナス実質金利が重なる局面では、円建てで見たビットコイン価格が押し上げられやすい一方、為替要因による評価益と、暗号資産固有のリスクをどう切り分けるかが、国内投資家にとっての論点となる。高市首相と日銀総裁の会談が示したように、今後の追加利上げの有無は賃金や物価データ次第であり、インフレが想定以上に粘着的となれば、実質金利のマイナス幅は当面解消しにくい。そうなれば、国内のリスク資産需要、ひいてはビットコインやアルトコインの保有・取引に対する関心が中長期的に高止まりする可能性もある。
円建てデジタル資産インフラの進展
円建てデジタル資産の整備が進む中、ステーブルコインとCBDC(デジタル円)の動向が市場の関心を集めている。日本円建てステーブルコイン「JPYC」は2025年11月に累計発行額が2億円を突破し、日本国債を含む100%超の裏付け資産を持つ点が特徴だ。発行元は今後3年間で累計10兆円規模を目指すとしており、流通の拡大は国債需要にも一定の影響を与える可能性がある。
一方、三菱UFJフィナンシャル・グループが参画する「Progmat」プラットフォームは、2025年以降に銀行グループ共同による円建てステーブルコイン発行を視野に入れた実証フェーズに入っており、現在は本格流通前の試験段階にある。このステーブルコイン構想は、銀行預金を裏付け資産とした円建てトークン化や、オンチェーンでのセキュリティトークン(社債・ファンド)との連携を想定しており、決済・決済インフラ面での活用拡大が期待されている。
また、日本銀行は2023年から続く中央銀行デジタル通貨(CBDC)のパイロット実験を2025年も継続中で、民間事業者との検証を通じて利用要件や技術面の課題整理を進めている。JPYCやProgmatのような民間ステーブルコインと、将来導入が検討されるデジタル円との役割分担は固まっていないが、円建てデジタル資産が国内の決済インフラにおいて存在感を高めつつある点は共通している。