中国の大手銀行系列企業がデジタル人民元保有者のみを対象としたトークン化債券の発行に踏み切った。約45億元(987億円相当)という大規模な発行は、中央銀行デジタル通貨と伝統的金融商品を統合する世界的潮流の象徴となる可能性がある。
国有銀行系のファイナンシャルリース企業である華夏金融租賃が4日、3年満期で利回り1.84%の債券をオークション形式で発行した。
Sponsored仲介業者排除がもたらす債券市場の構造変化
従来の債券発行手続きと異なり、仲介業者を経由せずデジタル人民元保有者が直接入札に参加できる仕組みを採用した点が特徴である。決済時間の短縮と手数料削減を実現し、ブロックチェーン技術を活用した新たな資金調達モデルとして注目される。この動きは中国政府によるデジタル通貨の実用化戦略の一環であり、中央銀行主導のデジタル通貨基盤を国内金融システムに深く組み込む意図が透けて見える。
トークン化債券は従来の債券発行プロセスに内在する非効率性を解消する手段として期待されている。通常の債券取引では複数の仲介機関を経由し、決済完了まで数日を要するのが一般的だ。しかし、ブロックチェーン上での取引では、発行から決済まで瞬時に完結する。華夏銀行の今回の発行ではこの利点を最大限活用し、取引コストを最大50%削減できる可能性があると専門家は指摘する。
グローバル市場においても、トークン化債券への関心は高まっている。トークン化された米国債は2025年半ばに75億ドルを超えた。
中国の今回の発行は、この世界的潮流に中央銀行デジタル通貨を組み込む初の大規模な試みとなる。透明性の向上と不変記録の保持というブロックチェーンの特性が、政府の資金調達における信頼性向上にも寄与すると期待されている。
Sponsored Sponsored日本で進むトークン化預金とデジタル円の検討
一方、日本ではデジタル円の実用化はまだ検討段階にある。日銀は2023年4月からパイロット実験を実施しているが、発行時期は未定だ。財務省と日本銀行が2025年春に第2次中間整理を公表し、プライバシー保護と民間決済手段との役割分担を中心に議論を進めている。
トークン化預金については具体的な動きが加速している。2025年9月にはゆうちょ銀行が2026年度中にトークン化預金の取扱開始を発表した。ディーカレットDCPのプラットフォームを活用する計画で、1億2000万口座という強固なリテール基盤を持つゆうちょ銀行の参入は、国内市場に大きなインパクトを与える可能性がある。
11月にはDatachain社がブロックチェーン技術を活用したトークン化預金関連事業を開始した。同社は2022年から三菱UFJ信託銀行やSwiftとの連携でステーブルコイン事業を展開しており、今回の参入で預金トークンとステーブルコインの両領域をカバーする体制を構築した。
さらに、12月4日には三菱UFJアセットマネジメント、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJ信託銀行の3社がプログマ社と協業し、日本初のトークン化投資信託開発に着手したと発表した。2026年に円建てトークン化マネー・マネージメント・ファンドの機関投資家向け提供を目指す。
Sponsored Sponsoredデジタル人民元と債券市場の融合がもたらす影響
中国におけるデジタル人民元の展開は、単なる決済手段の革新にとどまらない。人民銀行は2024年9月に上海にデジタル人民元の運営センターを開設し、越境決済システムの開発を加速させている。今回のトークン化債券発行は、デジタル通貨を金融市場のインフラとして定着させる戦略的な一歩と位置づけられる。
デジタル人民元保有者に限定したオークションは、政府による通貨流通の管理を強化する側面も持つ。中央銀行が発行量と流通経路を完全に把握できる仕組みは、金融政策の効果測定や監督の精度向上につながる。また民間金融機関が仲介層として機能する二層構造により、プライバシー保護とマネーロンダリング対策の両立を目指している。
Sponsoredただし、人民元建て債券の国際的な普及には課題も指摘されている。
作家でイデオロギー研究者のシャナカ・アンスレム・ペレラ氏は「中国の元建て債券は脱ドル化に見えるが、実際は人民元流動性不足と制裁リスクで失敗パターンだ。国際決済における人民元のシェアは約2%で頭打ちとなっており、中国当局は金準備の積み増しでリスクヘッジを図っている状況だ。」と指摘する。
国際的には、トークン化債券がステーブルコインに代わる決済手段として台頭する可能性も議論されている。J.P.モルガンは2024年11月に法人顧客向けに預金トークンの提供を開始し、1日あたり10億ドルの取引を処理している。同行の分析によれば、トークン化国債は規制上の制約からステーブルコインを完全に代替することは難しいものの、機関投資家向けの資金運用手段としては有望だ。中国の今回の取り組みは、こうした国際動向を睨みながらデジタル人民元の活用領域を拡大する意図があると考えられる。