金融庁は暗号資産に対する規制の抜本的見直しを固めた。朝日新聞が16日、報じた。ビットコインやイーサリアムを含む国内交換業者が取り扱う105銘柄について、金融商品取引法の適用を軸とした新たな枠組みの構築を目指す方針だ。
情報開示義務化やインサイダー取引規制の導入により、投資家保護の強化を図る一方、株式と同水準への税率軽減も検討されている。2026年の通常国会への改正案提出を目標とするが、業界からは規制の過度な厳格化への懸念が噴出している。
金商法による規制枠組みの全容
金融庁は暗号資産を金融商品取引法上の金融商品として位置づける方針を固めた。対象となるのは、国内の暗号資産交換業者が現在取り扱うビットコインやイーサリアムなど105銘柄となるもよう。世界には数万種類の暗号資産が存在するとされるが、金融庁は国内で流通する主要銘柄に焦点を絞り、段階的に規制を強化する戦略を採用した。
Sponsored新たな規制枠組みの中核となるのが情報開示義務の導入である。交換業者は取り扱う暗号資産について、発行者の有無といった基本的な性質、ブロックチェーンなど採用されている基盤技術の詳細、価格変動リスクなどを開示しなければならない。これは株式市場における有価証券報告書に相当する制度設計であり、投資家が適切な投資判断を行うための情報基盤を整備することが狙いである。
さらに注目されるのがインサイダー取引規制の適用だ。発行者や交換業者の関係者が、取り扱いの開始や廃止、発行者の破産といった未公表の重要事実を知りながら売買することが禁止される。これまで暗号資産市場では、こうした内部情報を利用した取引が野放しになっているとの批判があり、今回の規制導入により市場の公正性と透明性の向上が期待される。金融庁は2026年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針を示している。
税制改革と投資環境整備への期待
規制強化と並行して、金融庁は暗号資産取引に対する税制の見直しも要望している。現行制度では暗号資産の売買益は雑所得として扱われ、最大55パーセントの累進課税が適用される。これに対し株式投資の譲渡益は約20パーセントの申告分離課税となっており、両者の間には大きな格差が存在する。
金融庁は来年度の税制改正において、暗号資産取引を株式と同様の申告分離課税の対象とし、税率を20パーセント程度に引き下げることを求める方針だ。この税制改革が実現すれば、個人投資家にとって暗号資産への投資魅力が大幅に高まることになる。特に長期保有を前提とした投資戦略が税制面で不利にならなくなり、市場の成熟化に寄与する可能性がある。
金融商品としての位置づけと税制優遇措置の組み合わせは、暗号資産市場を伝統的な金融市場と同等の投資対象として確立する試みといえる。投資家保護の強化と市場の活性化という、一見矛盾する二つの目標を同時に達成しようとする金融庁の姿勢が読み取れる。
業界が直面する規制対応の課題
一方で、業界側からは今回の規制案に対する強い懸念が表明されている。金融審議会の暗号資産制度に関するワーキンググループでは、事業者の経営実態を踏まえた慎重な制度設計を求める声が相次いだ。特に7日の会合では、暗号資産のレンディングサービスも金商法の規制対象とする案が提示されたが、委員からは規制内容が重厚すぎるとの指摘があった。
業界関係者が最も危機感を抱いているのは、現在の経営環境である。交換業者の9割が赤字という厳しい実態が報告されており、追加的な規制対応コストの負担が業界の存続そのものを脅かしかねないとの懸念が示されている。情報開示体制の整備やコンプライアンス部門の強化には相応の人員と資金が必要であり、特に中小規模の事業者にとっては過重な負担となる可能性がある。
金融審議会では、事業者と利用者双方の意見を反映したバランスの取れた制度設計を求める声が高まっている。規制の実効性を確保しつつ、イノベーションを阻害しない柔軟な枠組みの構築が今後の課題となる。金融庁は業界との対話を継続しながら、国際的な規制動向も踏まえた制度設計を進める方針だ。