モバイルゲーム開発運営のオルトプラスは20日、暗号資産の購入・運用事業を2026年1月から開始すると取締役会で決議した。今後5年間で計91億円を投じ、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、ソラナ(SOL)などを保有・運用する方針だ。企業価値向上と財務基盤強化が狙い。
オルトプラス、暗号資産保有・運用事業を決定
オルトプラスが暗号資産の購入・運用に踏み切った背景には、同社の深刻な収益不安定がある。2025年9月期時点で12期連続の営業損失を計上しており、主力タイトルの課金額減少やIP獲得コストの上昇、開発期間の長期化が重なったことで、キャッシュフローの不安定化が常態化していた。このため既存の資本政策では運転資金と開発投資を安定的に確保できないとの判断に至った。
同社は暗号資産事業を「収益基盤の補完」と「資本政策の柔軟化」を目的とする財務戦略に位置づける。具体的には、ビットコイン(BTC)を希少性の高い長期保有資産として活用し、イーサリアム(ETH)やソラナ(SOL)についてはステーキングによるインカムゲインと複利効果を期待する構えだ。価格上昇によるキャピタルゲインと運用報酬の両立によって、既存ゲーム事業に依存しない収益源の確立を狙う。
Sponsored投資規模は2026年1月から2030年12月までの5年間で約91億円を見込み、第三者割当による調達資金を原資とする。運営は財務・経理部を中心に、外部専門家の助言を受けながら、価格変動、セキュリティ、法規制および会計リスクへの管理体制を段階的に整備する方針である。
なぜゲーム会社は暗号資産購入に動き始めたのか
ゲーム開発・運営企業が暗号資産の購入・保有に動く背景には、少なくとも以下の3つの論点が浮かび上がる。
まず1つ目は、ゲーム収益モデルの変化である。従来、ゲーム業界の収益はパッケージ販売、月額課金、アイテム課金(ガチャ等)に依存してきたが、成長の伸び悩みやユーザー獲得・維持コストの上昇が指摘されている。
この収益モデルの成熟化を背景に、ゲーム会社は収益基盤の多角化を図る必要に迫られており、「余剰資金を運用して価値を保つ」という選択肢として暗号資産が浮上してきたとみられる。
2つ目は、ブロックチェーン/Web3化の潮流とゲームとの親和性である。最近では、ゲーム内アイテムをNFT化し、ユーザーが所有・売買できる仕組みが注目されており、デジタル資産としてのゲーム内価値が見直されつつある。
ゲーム会社が暗号資産を保有することは、将来的に自社ゲームのトークン設計・ブロックチェーン活用・デジタル資産経済圏構築といった流れを視野に入れた準備とも解釈できる。
3つ目は、暗号資産が企業トレジャリー資産として認知されつつある点である。実際、ゲーム会社である KLabは11月11日、約2,000万円相当(1.19828 BTC)を購入したと発表しており、暗号資産を財務上の運用対象と捉える動きの一端が見られる。また、 gumiも2月10日に10億円相当のビットコイン保有を決議した旨が報じられており、同社はさらに2025年8月28日取締役会で2.5億円相当のXRP購入計画を決定している。
ゲーム企業の暗号資産戦略の鍵は
もちろん、このような暗号資産購入・運用にはリスクも付きまとう。暗号資産の価格は変動性が高く、保有資産として企業のバランスシートに組み込む場合、評価損や流動性リスク、会計・税務上の不確実性も生じ得る。例えば、ゲームビジネスと暗号資産運用という二つのテーマを併行させる際、資源配分や経営体制の収斂が問われる。
しかし、一方で、ゲーム会社が自身のゲーム内経済圏をトークンやNFTを通じて構築し、ユーザー体験と資産体験を融合させるという展望にも注目すべきである。ブロックチェーンゲーム市場が拡大しており、既存のゲームモデルが“遊び+資産”という構図にシフトしつつあることが報告されている。
オルトプラスの今回の発表は、まさにこの方向性を据えたものであり、ゲームタイトルのヒットだけに依存しない「企業価値の運用」を視野に入れた戦略と読める。今後は、購入した暗号資産をどのように活用し、ゲーム事業とのシナジーを創出できるかが焦点となろう。
また、国内外の制度・規制・市場環境も影響するため、ゲーム会社が暗号資産を保有・運用する際のガバナンスや開示、リスクモニタリングの整備が重要になる。ゲーム業界における暗号資産保有の動きは、単なる“流行”ではなく、ゲーム会社のビジネスモデルや財務戦略が変化しつつある証左と見ることができる。今後、他のゲーム会社やエンタメ企業が同様の戦略をとるかどうか、注視したい。