マレーシアの電力大手テナガ・ナショナル(TNB)が19日、暗号資産マイニングによる電力窃盗の横行により、近年累計10億ドル超の損失を被ったことが明らかになった。電力料金の低さと監視体制の隙を突いた不正接続が各地で確認され、エネルギー政策と暗号資産産業の規制を巡る課題が浮き彫りになっている。
暗号資産マイニングによる電力窃盗が拡大
マレーシアの電力会社テナガ・ナショナル(TNB)は、暗号資産マイニング施設による大規模な電力窃盗の影響で、過去数年間にわたり累計10億ドル超の損失を計上した。不正行為は、住宅や倉庫の電力メーターを改ざんし、無許可で高負荷の電力を引き込む手法が中心とみられる。暗号資産価格の上昇が利益機会を広げた一方、電力料金の安さや地域ごとの監視強度の差が、不正を誘発した要因と指摘されている。
Sponsored海外メディアは「2018年以降、マレーシアにおけるビットコインマイニングの電力窃盗は300%増加している」と指摘している。
TNBは確認されたケースの多くで、変圧器の異常発熱や供給線の損傷など設備への負荷増大も確認しており、単なる未収電力以上の損害が発生している。
TNBと当局が取り締まりを強化
TNBは、警察やエネルギー規制当局と共同で取り締まりを強化している。特にスマートメーターの導入や電力消費データの分析を通じ、不自然な負荷パターンを自動検出する取り組みを拡大した。政府も電力供給法に基づく罰則の強化を検討しており、メーター改ざんや違法接続に対して刑事責任を問う姿勢を鮮明にしている。
また、違法マイニング拠点は地域経済に影響を与え、停電や設備故障のリスクを高める点が問題視されている。TNBによれば、これらの不正が送電網の安定性を損なうことで、一般消費者の電気料金や設備更新計画にも潜在的影響が及ぶ可能性がある。
電力インフラと暗号経済の課題が浮上
今回の事例は、電力コストが暗号資産マイニングの収益性を左右する産業特性を示す一方、規制環境の差が不正の温床となり得ることを明らかにした。東南アジアでは補助金制度により電力料金が比較的安価である国も多く、マレーシア同様の問題が他地域に拡大する可能性がある。
TNBは不正の検知システムを高度化し、監視網の整備を継続するとしているが、電力需要の急増に対応するためには、マイニング事業者との協調やエネルギー政策の再設計が課題となる。暗号資産市場が拡大する中、電力インフラと新興産業の接点に生じるリスクへの対処が一段と重要になっている。