次世代の金融市場における技術革新や規制の動向を議論するカンファレンス「WebX Fintech EXPO」が22日、大阪市内で開かれ、北尾吉孝SBIホールディングス会長兼CEOと吉村洋文大阪府知事が特別対談を行った。
かつて江戸時代(1730年)に世界初の先物取引となる「米の先物取引」を行っていた大阪。時代は移り、2024年に堂島取引所で堂島コメ平均(米穀指数先物取引)として復活させ、今年7月には、大阪取引所が暗号通貨デリバティブの検討を始めるなど、大阪は今、日本の最先端金融を実践する都市だ。大阪・関西万博も開催され、世界のイノベーターたちの注目を集めている。
関西人だから実現できる”次世代金融”
歴史を振り返れば、「回転寿司」「インスタントラーメン」「自動改札機」「国産ウィスキー」「カラオケ(神戸)」など、今では世界で人気を博す日本のモノやサービスの多くが、大阪発祥であることに気づく。大阪人にはこうしたイノベーションマインドが昔からあると言われている。
ともに関西出身の北尾氏と吉村氏は、大阪をアジアの金融ハブへと成長させる「大阪国際金融都市構想」を2022年に掲げ、さまざまな成果を上げてきた。
大阪府は19年のG20サミット開催をきっかけに、21年、「国際金融都市OSAKA推進委員会」」を立ち上げた。当然、北尾氏も主要メンバーの1人として参加した。
冒頭、吉村氏は、「大阪は(他国とは異なる独特の)エッジの効いた国際金融都市を目指している。大阪を含めた関西人の気質は、新しいことにもどんどん挑戦する特徴がある。その中で、金融においても新しいことに挑戦していく」と語った。
吉村氏は、「東京一極集中ではイノベーションは生まれない」という思いで、新しいものを発明することが得意な関西人気質を金融業界にも取り入れてきた。
海外金融機関27社、スタートアップ650社が大阪に進出
22年に始まった「大阪国際金融都市構想」は今年3年目の節目を迎えた。当初掲げた、「3年間で海外金融機関誘致30社・スタートアップ誘致500社」という目標は今年、海外金融機関27社、スタートアップ650社が大阪に進出することが決まり、大方の目標は達成した。
吉村氏は「北尾会長にも中心メンバーとなっていただき、産官学が一体となって関西人の『なんでもやってみなはれ』という気概が生んだ結果」と強調する。

国際金融都市に向けトークン化とステーブルコインを重視
一方、世界100カ国を渡り歩いてきたという北尾氏は、グローバルな視点から大阪が「アジアの金融のハブ」になる土壌があると考えていた。
2020年、中国は香港に「国家安全維持法」(国安法)を制定し、言論や政治活動等への弾圧を加えた。当時アジアの経済を牽引していた香港は、経済活動への監視も強められ、一国二制度から、一国一制度へと変わった。
北尾氏は当時「金融というものは”自由”とともに繁栄する」という考えから、「今こそ日本が、香港に代わって国際金融都市をもう一度作るチャンスだ」と捉えていたという。
そこで、誕生したのが、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX:21年設立)だ。ODXは、ブロックチェーン技術を用いたセキュリティトークン(ST)の取引市場「START」を日本で初めて運営するなど、最先端技術で日本の金融市場活性化を目指している。
北尾氏は同社の会長に就任し、伝統的資産である上場株式のみならず、ブロックチェーン技術により生まれたセキュリティトークンのPTS(私設取引システム)の運営を通じて、日本で最先端の金融市場を大阪から発信しようと考えた。
すべてのRWAはトークン化されていく
北尾氏は、「東京は過去20年以上、国際金融都市構想を掲げながらも(具体的成果が乏しく)、世界に認められなかった。私は大阪と非常にご縁があった(船場の商家の生まれ)ので、大阪を起点とする西日本経済の活性化に尽力しようと決めて、吉村さんと2つのマーケットを開設した」と語った。
2つのマーケットとは、世界初先物取引の歴史を受け継ぐ堂島取引所と日本で最先端の取引所とされる「ODX」だ。堂島取引所がアジアで初めてビットコイン先物の上場を目指して、2025年3月に金融庁に申請したことは既報の通り。
さらに、SBIホールディングスは同月、うめきたエリア(大阪駅北地区)にフィンテック企業の集積地として「SBI FinTech Center OSAKA」を設立した。

北尾氏は「すべてのリアルワールドアセットはトークン化されていく」と断言し、「ODXはいずれ、すべてトークナイズドされたマーケットにしたい」と構想を明かした。また、同氏は「これからはWebXだけではなく、さまざまなイベントを大阪から発信していく」と語った。
セキュリティトークン(ST)は現在、不動産を中心に取引されているが、近い将来、株式のトークン化を進めていく意向だという。
ステーブルコインの導入も大阪が率先する
先日、日本初のステーブルコインJPYCの発行が認可されたばかりで、日本の金融業界はこの話題で持ちきりだ。もちろん、大阪行政の長であり、政治改革を掲げる国政政党「日本維新の会」の代表でもある吉村氏もステーブルコインに注目している。
大阪で生活する人なら誰でも気づくが、大阪では公立校への納入金や市区役所での支払いといった小口の税金支払いは、いまだに特定の銀行への振り込みや現金のみに限られるなど不便だ。
吉村氏は「とにかく税の支払いのシステムが古い。なにせ(中央の)政治・行政の考えが古いため、進化できない。大阪府では今、電子マネーで支払いできるシステムを進めており、当然その先には、ステーブルコイン決済が考えられる。大阪は次世代の国際金融都市として、東京の真似事をするつもりはない」と語気を強めた。
吉村氏、北尾氏ともに「金融革新が世界中で起きているのに、政治・行政がそれについていけていない」と意見は合致している。
吉村氏は「ODXはまさにそれを覆すもので、ブロックチェーン技術を使ったトークンを必ず流通させて、不動産以外のいろいろなものに使い、投資の対象にしていくことを行政の土台にしていきたい」と抱負を述べた。
フィンテックとともに副首都を目指す
大阪府は現在、東京一極集中を是正し、経済、行政のバックアップを大阪が担う「副首都構想」を掲げている。自然災害大国でもある日本では、2011年の東日本大震災以降、首都機能の分散化の是非が長年、地方行政の議題に上がっては消えていった。吉村氏は「早ければあと2、3か月で大きく動く」と期待をもたせた。
折しも万博の収益黒字化が達成され、万博の経済効果は3兆円と見込まれるなど、大阪の経済は近年、大きく成長している。令和4年度の大阪のGDP成長率は、全国平均のおよそ2倍となり、金融・経済面においても副首都構想の実現に邁進している。
江戸時代より商人の町として栄えてきた大阪は今日、歴史と最先端の技術が融合しつつある。SBIホールディングスほか、さまざまな企業が注目し、フィンテックの分野でも大阪は国際金融のハブとして、大きな一歩を踏み出している。
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