米司法省が投資詐欺とマネーロンダリングで訴追したカンボジア最大手「プリンス・ホールディング・グループ」のチェン・ジー会長(37)が、東京・港区の高級タワーマンションに住居を構えていることが判明した。
暗号資産を悪用した「詐欺園区(詐欺専用の強制労働キャンプ)」の首領が日本に潜伏する異例の事態に、国内取引所は2023年改正資金決済法における「制裁対象スクリーニング」に基づき、関連ウォレットの監視を強化している。
Sponsored港区に住居 米が起訴したプリンスグループ会長
米司法省は2025年10月、カンボジアの華人系企業プリンス・ホールディング・グループとチェン・ジー会長ら39人を、投資詐欺、マネーロンダリング、人身売買などの罪で起訴した。グループは表向きは不動産開発、金融、銀行、カジノ事業を展開する同国最大手で、総資産は数百億円規模に上る。しかし、裏ではカンボジア北西部やラオス国境付近に「詐詐園区」を運営し、被害者を監禁してオンライン投資詐欺に従事させていたとされる。被害総額は数十億ドル、被害者は世界数十カ国に及ぶ。
共同通信が17日に報じたところによると、チェン氏は東京都港区の六本木または麻布台ヒルズ近辺に高級マンションを所有し、頻繁に日本に滞在していたことが判明した。1987年中国・福建省生まれのチェン氏は、バヌアツ国籍(パスポート番号RV047996)を取得し、査証免除での入国を繰り返していたとみられる。
米財務省は既にグループ関連の銀行口座や暗号資産アドレスを凍結対象に指定。取引企業に対しては「制裁違反で二次制裁を受けるリスクがある」と警告を発している。
Sponsored日本法人設立は詐欺資金の洗浄目的か
プリンスグループは2022年以降、日本に少なくとも3社を設立していたことが、登記簿と関係者取材で確認されている。具体的には、2022年にチェン氏自身が代表のPrince Group Japan(東京都)、2023年にPrince Japan(東京都渋谷区、不動産投資コンサル)、2024年にCanopy Sands Development Japan(東京都千代田区、不動産開発)を設立した。資本金は各3000万円程度で、役員にはチェン氏の親族やカンボジア在住の中国人らが名を連ね、いずれも実質的な事業実態はほぼないペーパーカンパニーとみられる。これらの法人を通じて、詐欺収益を日本の不動産や暗号資産に転換していた疑いが強い。
これらの法人を通じて、詐欺収益を日本の不動産や暗号資産に転換していた疑いが強い。業界筋によると、グループはUSDTやXMRなど匿名性の高い暗号資産を多用し、OTC取引やミキサー経由で資金を洗浄していたという。米制裁発表後、国内大手取引所は「プリンス関連アドレス」とされる数百のウォレットをブラックリストに追加し、KYCを通過していた口座についても遡及調査を進めている。
この対応は2023年改正資金決済法のAML/CFTガイドラインに基づくもので、金融庁は取引所に対し、OFACリスト照合と継続モニタリングを義務付けている。ある取引所のコンプライアンス担当者は「制裁対象者との取引が発覚すれば、即座にライセンス剥奪の可能性がある」と危機感を露わにした。
カンボジア拠点詐欺との連続性も浮上
プリンスグループを巡っては、2025年10月に警視庁が摘発したカンボジア拠点の特殊詐欺事件とも深い関連が疑われている。同事件では中国人夫婦が指示役として逮捕され、70代〜80代の日本人約300人から総額50億円以上を騙し取った。被害者は「暗号資産投資で確実に儲かる」と誘われ、指定口座に日本円やUSDTを送金。資金の一部がプリンス関連の銀行口座や暗号資産アドレスを経由していたことが、捜査で判明している。
東南アジアでは現在もシアヌークビルやゴールデントライアングル地区に数十の詐欺園区が存在し、プリンスはその中核と位置づけられている。被害者の多くは「高額報酬の求人」に釣られて東南アジアに渡り、パスポートを取り上げられた上で詐欺行為を強制される。
首領が東京の高級住宅街に潜伏していた事実は、国内におけるマネーロンダリングリスクの深刻さを改めて浮き彫りにした。業界関係者は「これまで制裁対象者の日本滞在はほぼ例がなかった」と驚きを隠せず、捜査当局が今後、チェン氏の出入国記録調査や資産凍結に動くかどうかが焦点となっている。