第27回参議院選挙(投開票は7月20日)を目前に控え、暗号資産業界では各党の税制政策が焦点となっている。「政権選択選挙」と比喩される今回の参院選は日本の国政を大きく動かす可能性のある重要な選挙となりそうだ。そんな中、自民・公明の与党は先の消費税減税の頓挫やトランプ関税交渉がうまくいかず、野党優勢の情勢が強まりつつある。
中でも暗号資産業界が注目しているのが、「雑所得」に分類される暗号資産の課税方法の見直しだ。国民民主党は税制において申告分離課税導入を鮮明に示し、維新や立民も税制改正に柔軟姿勢を見せる。与党が参院で過半数を割れば、税制改正の行方はどうなるのか。
現行課税制度の課題──重税と計算の煩雑さ
日本では暗号資産の売買益やスワップ益、円転益が「雑所得」として総合課税対象だ。最大税率は55%にものぼり、株式やFXで採用される20%・申告分離課税制度との格差が顕著だ。さらに損失の繰越控除が認められず、スワップ課税も発生する煩雑さから、STEPNなどのNFT業界からも強い反発が上がっており、暗号資産業界全体が税制改正を求める声は日に日に高まっている。
Sponsored各党の暗号資産税制政策まとめ
自民党・公明党(与党)
自民党はAI・Web3分野を推進しつつ、暗号資産の税制見直しに言及している。財務省・金融庁は「消極的姿勢」で、金融庁が令和7年度税制改正要望に申告分離課税の検討を含めたことで動きはあるものの明快ではない。公明党は、消費税や燃料税をめぐる減税論議を主導しており、与党全体としては暗号資産税制にも温度感があるものの、具体策は未公表だ。
国民民主党
最も踏み込んだ立場をとる。暗号資産に分離課税(約20%)を導入し、トークン間交換課税も非課税化。ビットコインETF導入やレバレッジ規制緩和も掲げる。代表・玉木氏も強く訴えており、この分野での業界受けは極めて良好と言える。
立憲民主党
明確な数値は示さないが、消費税減税や財政ポピュリズムの流れに追随し、税制見直し姿勢に前向きだ。Web3に関しては具体的内容を提示していないが、じわりと支持を集める余地がある。
Sponsored Sponsored日本維新の会
Web3やAIに前向きな姿勢を表明。暗号資産税制への直接言及は少ないが、他党同様に分離課税などを視野に入れた議論には賛成の立場を示している。維新の候補者には技術重視派が目立ち、この領域での発言力は侮れない。
日本共産党・れいわ新選組など野党諸派
共産、れいわは消費税廃止・減税を積極掲げ、財源確保が鍵となる中で、税制全体の再構築を主張する。暗号資産税制への明示的な言及は少ないが、減税路線に沿った政策転換の可能性がある。
自公苦戦で国民、参政が大幅増か―参院選の見通し
共同通信社は13、14日、有権者4万3000人以上に電話調査を行い、終盤情勢を探った。同調査によれば、自民党は、これまで底堅い支持のあった鹿児島や和歌山でも苦戦が目立つ異常事態となっている。公明党も同様に苦戦が目立ち、与党は非改選を含む過半数(125議席)を維持できるかは微妙だ。
野党に目を向ければ、野党第一党の立憲民主党は堅調で、国民民主党、参政党の勢いは目を見張るものがあり2桁議席を狙えそうな勢いだ。
15日現在、同調査で「投票先をまだ決めていない」とした人は選挙区で15.2%、比例で7.0%となっており、20日の投票日までに情勢が変わる可能性はあるものの野党の議席大幅増という見方は動かない。
Sponsored参院選後の暗号資産政策シナリオ─“課税”に左右されるビットコイン需要
参院選の結果によって、暗号資産政策のシナリオは一定程度変わってくることが考えられる。ここでは、与党が過半数を維持した場合と過半数割れした場合の2つのシナリオについて考察する。
シナリオ① 与党が過半数維持─「慎重改正」で投資需要は様子見か
与党が参議院で過半数を維持した場合、税制改正は限定的なものにとどまる可能性が高い。自民党はこれまでもWeb3振興を掲げ、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の強い働きかけで金融庁がビットコインを含めた暗号資産関連法を改正する検討に入ったものの、あらゆる「減税」に強い懸念を示す財務省との繋がりの強い自民党が政権を担えば、抜本的な改革に至るのは難しいという見方が多い。仮に令和7年度に税制改正が行われ申告分離課税(約20%)が盛り込まれたとしても、スワップ課税や損失繰越控除などの周辺制度の整備には時間を要すると見られる。
この場合、個人投資家層のビットコイン投資需要は限定的な回復にとどまることが予見される。また、税制において、「損益計算の煩雑さ」や「予測不能な高税率」という日本特有の懸念は残る。特に長期保有を志向するホルダーにとって、依然としてリスクは大きく、海外市場への資金流出も続くおそれがある。
シナリオ② 野党が過半数超え─「税制改正」が具体化し、ビットコイン流動性が向上か
与党が参院選で大敗し、野党主導の政局が展開される場合、税制改正は加速する可能性が高い。特に国民民主党が主張する「暗号資産の分離課税導入(20%)」「トークン間交換課税の廃止」「損失繰越控除の導入」などが実現すれば、税務上の障壁は大きく緩和されるだろう。
Sponsored Sponsoredこの結果、ビットコインをはじめとする暗号資産への投資需要が加速し、「国内投資資金の再流入」が起きる可能性がある。現在、税制を理由に香港やシンガポールなど海外取引所を利用する日本人投資家も少なくないが、制度の明確化と簡素化は「国内回帰」を促す大きなインセンティブとなる。
また、ETF承認や金融商品の整備も進めば、機関投資家の参入が現実味を帯びる。これにより、国内市場の流動性は飛躍的に改善し、暗号資産全体に対する信認も高まるだろう。とりわけ、ボラティリティの大きいビットコインにとって、税制の安定化は「短期投機」から「中長期資産」への転換期となる可能性を秘めている。
国際比較からみる期待とビットコイン価格
日本の申告分離課税導入は欧米のルールに近づく動きだ。欧州諸国では分離課税制度を導入し、投資促進に寄与しており、アジアでも韓国では、与党が「デジタル資産基本法案」を提出するなど法制改正が進んできている。日本も参院選の結果を機に遅れを取り戻すチャンスと言える。
日本市場は規制が厳格で、個人金融資産が約2000兆円という世界有数の投資余力を持つ市場だが、高税率や損益計算の複雑さがビットコイン投資への障壁となっている。参院選での野党の議席が増え、暗号資産税制の改正が進めば、国際的な制度整備の連鎖(シグナリング効果)につながり、制度的後押しがビットコインの「デジタル・ゴールド」としての地位を高め、中長期での価格上昇圧力となる可能性がある。
暗号資産税制改革は国民・参政が鍵となるか
野党が参院選で過半数を超えれば、暗号資産税制の改正への議論は本格化し、暗号資産業界が待望する分離課税・繰越控除・非課税スワップといった政策が実現していく可能性が高まる。特に大幅議席増が期待される国民、参政の両党は暗号資産税制改革を主張してきただけに両党の躍進が鍵となりそうだ。しかし、与党が多数を維持した場合、金融庁の慎重姿勢を反映した「小規模修正」に留まるという見方が多数だ。
日本経済新聞などの報道では、世論は「減税」大きく傾いており、暗号資産税制もまた、単なる金銭政策ではなく、デジタル財政のポピュリズムの1つとして捉えられつつある。参院選後も日本のデジタル経済の成長速度を左右する政策議論から目が離せない。