金融庁は26日、暗号資産制度に関するワーキング・グループ(第6回)を開き、新報告書案をとりまとめた。報告書案では、交換業者による「販売所」形式への誘導が生じやすい構造的懸念に対して、制度的な対応を検討する必要性が指摘されている。今後の法整備における論点と見直しの方向性が具体化しつつある。
市場構造と「販売所」誘導の懸念
今回の報告書案では、現行の暗号資産交換業に関して、いわゆる「取引所形式(板取引)」と「販売所形式(販売所方式での売買)」の併存が改めて問題視された。とりわけ、販売所形式ではスプレッド(売値と買値の差)が広く、流動性も限られることから、利用者が不利になる可能性を指摘。「投資者」にとって誤解を招きやすく、単なる流通性確保手段を超えた、収益機会を装った販売所誘導につながりやすい構造的な懸念があるという。こうした指摘は、これまで業界団体による自主規制に頼ってきた流れに対し、公的な制度設計による対応が必要との判断を示すものだ。
この点について、報告書では利用者保護の観点から「顧客適合性の運用強化」を明示。口座開設時のみならず、取引や保有限度額の設定を通じて、過剰な投機を抑える方向が示唆されている。また、暗号資産取引におけるリスクや価格変動の不確実性について、事業者に対して適切かつ明確な情報提供を義務付ける必要性があらためて強調された。
Sponsored金商法移行と自主規制のハイブリッド運営への期待
報告書案では、従来の資金決済法ベースの規制に加え、より厳格な規制枠組みとして金融商品取引法(以下、金商法)への移行案が改めて提示された。これは、単なる資金の媒介ではなく、暗号資産を「投資商品」として取り扱うという認識のもと、不公正取引規制や情報開示義務、内部管理強化などを導入するものだ。
特に、不公正取引(インサイダー取引など)を防止するため、認定自主規制団体であるJVCEAに売買審査機能を持たせ、取引データを収集・分析した上で審査する体制構築を報告書案は求めている。これにより、単なる業界自主規制にとどまらず、公的規制と自主規制のハイブリッドによって、透明性と公平性を確保する狙いがある。
さらに、セキュリティ強化も重視されており、顧客資産を守るためのコールドウォレット管理、責任準備金の積み立て、そして外部専門家を交えたガバナンス体制の強化などが明記されている。こうした制度的な整備は、販売所誘導のような事業者都合の設計がもたらす潜在的なリスクを抑える土台となる。
「販売所」誘導のリスクを制度で封じ込めるか
今回の報告書案は、暗号資産市場の急拡大と投資対象化という現実を踏まえ、従来の自主規制頼みから脱却し、公的な制度設計によって市場構造のゆがみを是正しようとする明確なメッセージを発している。とりわけ販売所誘導という利用者不利の構造を、法令と制度によって封じ込める狙いが浮き彫りとなった。
ただし、この制度移行には課題もある。金商法への移行に伴い、事業者のコンプライアンス負担が増加し、業界参入の敷居が高くなる可能性がある。これは、利用者の選択肢縮小や競争の減少につながる恐れもある。
とはいえ、暗号資産の実質的な市場成熟と健全な発展を目指すのであれば、今回の報告書案が提起するような制度・ガバナンスの強化は避けて通れない。とりわけ「販売所」誘導のような利用者不利の設計を是正する制度設計は、国内暗号資産市場の信頼性を高めるうえで重要なステップとなるだろう。