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トヨタの巨大ブロックチェーンラボ開設:完全ガイド

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著者:
Shigeki Mori

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編集:
Shota Oba

22日 9月 2025年 20:01 JST
Trusted-確かな情報源
  • トヨタは2025年9月25日にブロックチェーン統合型スマートシティを開設し、最初の住民は360人である。
  • ERC-4337スマートアカウントは、トークン化された車両使用権とピアツーピアのエネルギー取引システムを可能にする。
  • プロジェクトは、モビリティサービスと都市インフラ管理における実際のブロックチェーン応用を試験する。
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トヨタ自動車は今週木曜、ウーブン・シティのスマートシティ実証を開始する。現地では、モビリティサービス、P2Pエネルギー取引、デジタルIDに用いるERC-4337スマートアカウントなどのブロックチェーン応用を検証し、住民が実地テストに参加する。

加えて、本プロジェクトは日常の都市運営に分散型台帳を組み込む初期事例の一つとなる。テスト環境では、ブロックチェーンが都市インフラや住民向けサービスといかに統合され得るかを検証する。

トヨタのウーブン・シティとは何か

ウーブン・シティは富士山麓の旧東富士工場跡に整備する「生きた実験場」である。敷地は約175エーカー(約70万8,000平方メートル)。段階的に開発を進め、日経報道によればフェーズ1は完了し、初期住民は約360人。将来は約2,000人規模を見込む。モビリティ、エネルギー・マイクログリッド、人と機械のインターフェース、都市サービスの各領域を、広域展開前に制御環境で検証する計画だ。環境・技術性能の両面で持続可能性や認証目標の達成も重視する。

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本プロジェクトは、複数の利害関係者とサービス提供者が関与する都市システム運用における分散型台帳のテストベッドを提供する。

トヨタのウーブン・シティ 出典: Toyota Woven City

戦略的タイムライン:ビジョンから実行へ

トヨタのブロックチェーン開発は2019年4月のトヨタ・ブロックチェーン・ラボ設立に端を発する。グループ各社で11カ月の検証を経て、2020年3月に活動を公表。初期発表後に頓挫する例が多い中で、トヨタは機能拡張と提携を継続してきた。

基盤インフラは通信大手NTTとの協業で整備が進んだ。両社は2017年3月にコネクテッドカーで提携を発表、2020年3月に業務・資本提携の覚書を締結。2024年10月31日にはモビリティとAI/通信の共同イニシアチブを始動した。

ERC-4337の拡大: MOA革命

トヨタのモビリティ指向アカウント(MOA)は、イーサリアムのERC-4337を大規模に活用する先進事例の一つである。車両の使用権をNFTとしてトークン化し、資産管理を複数の利害関係者間でプログラム的に実装できるようにする。

アーキテクチャは高度なDeFi機能に通じる。マルチシグによるリカバリー、権限委任、プログラム可能なアクセス制御などを備え、所有者は機能への一時的アクセスを付与可能。スマートコントラクトが時間制限、ジオフェンス、利用条件を自動執行する。

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従来の鍵管理から「プログラム可能な資産」への本質的進化を示す。暗号資産コミュニティにとっては、アカウント抽象化が実務のUX課題を解きつつ、セキュリティと分散性をどう両立し得るかを示す好例だ。

企業向けインフラ要件

NTTとの連携は、都市規模でのブロックチェーン展開に不可欠な要件を示す。エッジコンピューティング、低遅延ネットワーク、5G統合は、リアルタイム認証、IoT協調、クロスベンダー決済を担う基盤として必須だ。

この投資姿勢は、ブロックチェーンを投機技術ではなく、既存の都市システムと同等の信頼性を要する社会インフラと捉える姿勢を示す。理論上の能力と運用要件のギャップという企業導入の弱点を埋めにいくアプローチでもある。

トークン化モデル:投機を超えて

価格上昇に軸足を置く案件が多いなか、ウーブン・シティは明確な効用を持つユーティリティトークンを重視する。スマートコントラクト経由でP2Pエネルギー取引を試行し、再エネ保有世帯が余剰電力を近隣へ直接販売できる仕組みを検証する。

トークンは投機的建玉ではなく実体価値(電力量kWh)を表す。取引偏重からの転換を模索する暗号資産業界にとり、実体資源の交換に根差したトークンエコノミクスの雛形となる。

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適用範囲はモビリティにも広がる。トークン化した使用権により、柔軟なカーシェア、利用実績連動の保険、自動運転のアクセス制御が実装可能となる。各トークンは特定の権限・資源を表し、従来は市場化が難しかった資産に流動性を付与する。

規制対応: コンプライアンス優先のアプローチ

トヨタはトークン発行で拙速を避ける。まずインフラとガバナンス枠組みを整え、規制の明確化に歩調を合わせて機能拡張を図る。消費者向け暗号通貨の先行発行を避ける姿勢は、伝統産業の規制要件への深い理解を反映する。

投機より効用、スピードよりコンプライアンスを優先する方針は、企業のブロックチェーン統合における実務的な道筋となり得る。トヨタ、NTT、居住者、必要に応じて行政も関与する多者ガバナンスにより、既存制度の枠内で分散化の利点を活かす運用像を示す。

市場への影響:企業向けブロックチェーンの検証

投資家や開発者にとって、ウーブン・シティの始動時期は重要だ。機関投資家の関心が高まる一方、実装例はなお限定的。ここでの成果は、マルチパーティ調整、サプライチェーンの可視化、デジタル資産管理に課題を抱える産業で、企業導入の加速を促す可能性がある。

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自動車産業はブロックチェーン応用の巨大なアドレス可能市場である。車両サプライチェーンは多国・多数の供給網から成り、トレーサビリティの価値が高い。Vehicle-as-a-Serviceの普及には柔軟な所有・利用管理が不可欠で、ブロックチェーンは適合度が高い。

トヨタが、都市インフラの複雑性・規模・信頼性要件にブロックチェーンが耐え得ることを示せば、他の自動車メーカーや先進都市プロジェクト、産業IoT展開からの関心が一段と高まろう。

技術アーキテクチャ:本番環境対応システム

多くのブロックチェーン案件が隔離環境で完結するのに対し、Woven Cityは既存の都市インフラ、制度、生活者の期待との統合が前提となる。技術設計は、理論上の分散度最大化よりも、相互運用性、UX、運用信頼性を優先する。

ERC-4337やERC-721といった標準を採用し、既存のイーサリアム開発資産と互換性を確保。アカウント抽象化を重視することで、一般利用の障壁となってきたUX課題の低減を図る。

機能とコンプライアンスをイデオロギーよりも重視する実務志向は、企業ブロックチェーン実装の将来像を示し得る。

トヨタのWoven Cityは、ブロックチェーンを投機的資産から社会インフラへと進化させる試金石となる。実装上の課題、規制順守、UXに焦点を当てることで、主流採用に向けた有効性の検証が期待される。

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