日本取引所グループ(JPX)が暗号資産を事業の中核とする上場企業への規制強化を検討していることが明らかになった。株価急落により個人投資家が損失を被った事態を受けた措置となるもよう。
一方、金融庁は暗号資産を金融商品として位置づけ、投資家保護と市場育成を両立させる制度改正を2026年に向けて進めている。取引所による自主規制強化と、国による法整備という二つの動きが、日本の暗号資産規制の転換期を象徴している。
SponsoredJPXが検討する規制強化の背景と具体的内容
ブルームバーグが13日、報じたところによると、東京証券取引所を傘下に持つJPXは、暗号資産トレジャリー企業に対する規制強化を検討している。具体的には、バックドア・リスティング(裏口上場)の防止を目的とした不適切な合併などに対するルールの厳格化や、新たな監査義務の導入が選択肢として挙げられている。ただし、現時点で具体的な方針は確定していない。
この検討の背景には、国内の暗号資産トレジャリー企業の株価急落がある。国内上場企業で最もビットコインを保有するメタプラネットの事例が象徴的である。同社は2024年にビットコイン投資事業を開始し、今年6月には株価が過去最高値の1,895円を記録した。しかし、12日の終値は425円となり、高値から75%以上下落した。年初からは約420%急騰した後の急落であり、多くの個人投資家が大きな損失を被る事態となった。
報道によれば、JPXの意向を受けて、すでに日本の上場企業3社が9月以降、暗号資産の購入計画を保留したという。これらの企業は、デジタル資産を保有する場合、資金調達能力が制限される可能性があると伝えられたとされる。JPXの担当者は、暗号資産への投資や保有について一律の規制は設けられていないものの、株主・投資家保護の観点から、リスクやガバナンスの点で懸念がある企業には引き続き点検を行うと述べた。
アジアの他の取引所が同様の企業の設立に慎重な姿勢を示す一方で、日本ではビットコイン保有上場企業が14社でアジア最多となっており、その特異な立ち位置が注目されている。JPXは投資家保護の観点から、こうした急成長分野に対する市場管理の在り方を再検討している段階である。
Sponsored Sponsored企業側の対応とガバナンス体制の主張
報道で社名が挙げられたメタプラネットのサイモン・ゲロヴィッチ最高経営責任者(CEO)は11月13日、自社のガバナンス体制について説明する投稿をX(旧ツイッター)で発表した。同氏は、報道で懸念点として触れられた裏口上場や不十分なガバナンス手続きについて、自社はこれに該当しないと明確に主張した。
ゲロヴィッチ氏によると、メタプラネットはこの約2年間で計5回の株主総会を開催してきた。事業目的をビットコイン・トレジャリー事業へ改めるための定款変更、ビットコイン取得に充当するための授権株式数の増加、新たな種類株式(優先株式)の授権など、すべての重要な事項について株主の承認を経て進めてきたと説明した。
これらのプロセスは、事業転換前から継続する経営陣の下で、一貫して適正な手続に基づき実施されているとし、「メタプラネットにおいて、コーポレートガバナンスはすべての意思決定の基盤である」と強調した。同社は公正かつ透明なガバナンス体制を維持していると主張し、JPXが検討する規制強化の対象とは異なる立場を明確にした形である。
Sponsored Sponsored金融庁による規制改革の現状
JPXによる自主規制強化の動きと並行して、金融庁は暗号資産の規制体系を抜本的に見直す作業を進めている。2025年3月に資金決済法の一部改正案を国会に提出し、6月には同法が成立した。この改正では、暗号資産交換業者の破綻時における利用者保護措置の強化や、信託型ステーブルコインの裏付け資産の管理・運用の柔軟化、暗号資産等取引に係る仲介業の創設などが盛り込まれた。
さらに金融庁は4月、暗号資産を金融商品として法的に位置づけるため、「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」と題したディスカッション・ペーパーを公表した。5月までパブリックコメントを募集し、6月には金融審議会総会で暗号資産制度に関するワーキンググループの設置が承認された。
同ワーキンググループは7月末に第1回会合を開催し、9月までに3回の会合を重ねた。9月の会合では、暗号資産を金融商品取引法の枠組みで規律する方向性が示され、情報提供規制、業規制、市場開設規制、不公正取引規制などについて具体的な検討が進められている。金融庁は2026年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針である。
Sponsored主な改正内容としては、インサイダー取引規制の新設、暗号資産の仕組みや技術等に関する情報開示規制の強化、投資助言業務に対する登録義務の導入などが挙げられる。また、断定的判断の禁止、不招請勧誘の禁止、勧誘受諾意思の確認義務、再勧誘の禁止といった行為規制も導入される見通しである。
2026年法改正に向けた展望
規制強化と並行して、市場育成に向けた環境整備も進められている。2024年12月の与党税制改正大綱では、投資家保護のための法整備を前提に、暗号資産の税率を現行の総合課税(最大55%)から申告分離課税(20%)への見直しを「検討する」と明記された。金融庁は2026年度の税制改正要望で、暗号資産を分離課税にするよう求める方針である。
金融庁が提示する規制の枠組みでは、暗号資産を「資金調達・事業活動型」と「決済・投資型」の2つに分類し、それぞれの性質に応じた適切な規制を適用することが検討されている。暗号資産を用いた上場投資信託(ETF)の解禁も視野に入れられており、投資家保護を強化しつつ市場の成長を促す「規制と緩和の両立」が目指されている。
JPXによる自主規制強化の動きは、こうした国全体の制度改革の流れの中で、取引所として投資家保護の観点から先行的に対応を検討しているものと位置づけられる。金融庁の法整備とJPXの市場管理が連携することで、健全な暗号資産市場の育成が期待される。