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ジャック・ドーシーの「Bitchat」、Bluetooth経由のビットコイン送金を実現

23分
投稿者 Shota Oba
編集 Shota Oba

ジャック・ドーシーは、まったく新しい仕組みを持つ画期的なベータ版アプリ『Bitchat(ビットチャット)』をリリースしました。このアプリは、インターネットや携帯電話の通信網を一切必要とせず、完全オフラインでビットコインの送受信やメッセージのやりとりを可能にします。

本稿では、この新しいアプリの基盤技術や暗号資産業界に与える影響、潜在的な脆弱性などを詳しく解説します。

KEY TAKEAWAYS(重要ポイント)
➤ Bitchatは、Bluetoothを使い、インターネットや携帯通信網なしで暗号化されたビットコインとメッセージの送信を可能にします。
➤ メッセージはBluetoothメッシュネットワーク上で中継され、中央サーバーやアカウント、固定識別子を必要としません。
➤ 現状のベータ版では、メッセージの到達はユーザー密度に依存しており、配信確認や経路最適化がありません。
➤ Bitchat自体はウォレットや署名ツールではなく、ビットコイン取引はリレー端末がインターネットに接続した際に初めてブロードキャストされます。

Bitchatとは?

Bitchatはオフラインかつ暗号化されたチャットアプリで、Bluetoothメッシュネットワークを使い、インターネットやサーバー、アカウント、メールアドレス、電話番号などを一切使わずにメッセージをやり取りします。

技術的には、BitchatはBluetooth Low Energy(BLE)によるピアツーピアのメッシュネットワークを構築し、Bitchatを搭載したすべてのスマートフォンがクライアントと中継ノード両方の役割を果たします。これにより、暗号化されたメッセージを通常のBluetooth通信距離(約30メートル)を超えて中継可能にします。

簡単に言えば、あなたのメッセージは自動的に近くのスマホを次々と渡り歩き(最大7回のリレーが可能)、遠く離れた受信者へ届けられます。このオフライン重視の設計は、ビットコインに対する古典的な批判に直接的な回答となっています。

「『電気がなくなったらどうするんだ?』というのは、ビットコイン懐疑論者のよくある懸念だ。ジャック・ドーシーのBitchatは、安価で簡単に入手可能なメッシュネットを使ってこの問題を解決する。」と、ビットコインの先駆者であるMax Keiser氏はBeInCryptoに語っています。

Dorseyは、このシステムを現代的な暗号化技術を搭載した「昔ながらのIRCチャットルーム」と例えていますが、中央サーバーはありません。また、アカウントの作成も携帯電話の通信網も必要ありません。

Bitchatの仕組み

アプリを起動すると、端末にエフェメラル(一時的)なIDが生成されます(プライバシー保護のため毎回変えることも可能です)。ユーザーはハッシュタグで区別されたチャットルームに参加したり、個人に直接メッセージを送ることができます。

すべてのメッセージはエンドツーエンドで暗号化されているため、想定した受信者だけが内容を読むことが可能です。例えば、仮に誰かがBluetoothの信号を傍受しても、復号鍵なしでは内容は意味をなさないものになります。

encryption in Bitchat

Bitchatには「ストア・アンド・フォワード(保存して転送)」機能があり、端末がオフラインの時でもメッセージを一時的にキャッシュし、端末が再び接続範囲内に入ったら配信します。

Bitchatは署名済みのビットコイントランザクションのデータを中継できますが、あくまで暗号化されたデータパケットとしての取り扱いになります。 トランザクションの生成や署名は行わず、ビットコインネットワークへのブロードキャストも行いません。利用者は別のビットコインウォレットでトランザクションを生成・署名し、Bitchatを介してBluetooth経由でデータを送る必要があります。

ビットコイントランザクションが成立し、ブロックチェーンに記録されるには、インターネットに接続された端末が最終的にブロードキャストし、ビットコインのmempoolに受理される必要があります。

特筆すべきは、Bitchatはメッセージを端末メモリにしか保存しない点です(クラウドストレージはありません)。配信後または有効期限が過ぎたら、メッセージは完全に削除されます。 この特徴はプライバシーを重視するユーザーには好まれますが、後から過去のメッセージを参照するのは不可能になるため、二面性があります。

さらにアプリには便利な追加機能があり、例えばパスワードで保護されたグループチャットを作成できます。ルーム名がアクセス用のハッシュタグとして機能します。

また、端末同士の通信のためにブロードキャストビーコンや一時的な「メッシュハブ」を使用し、近くにある端末を検知してメッセージを転送します。さらに「パニックモード」という、緊急時にすべてのメッセージを即座に消去する機能も検討されています(活動家などを考慮した機能です)。

Bitchatの内部構造(技術的詳細)

Bitchatの中心的なプロトコルは、BLE(Bluetooth Low Energy)の広告および接続上で動作するカスタムバイナリフォーマットを基礎としています。このプロトコルは、圧縮ヘッダー構造、メッセージの重複排除、および短いペイロードを効率よく処理するためのフラグメンテーションを使用しています。

各端末はビーコンをスキャンし、定期的に暗号化された接続を確立して、キューに保存されたメッセージを交換します。各ユーザーは、匿名性を強化するために頻繁に変更される公開鍵から派生したIDで識別されます。

Bitchatは、エンドツーエンド暗号化にX25519を用いた鍵交換とAES-GCMを用いています。 メッセージのメタデータ(送信者・受信者のIDなど)も暗号化されるため、受信者のみが誰からのメッセージであるかを確認できます。

Bitchatのホワイトペーパーによると、プライバシー向上のためにダミートラフィック(ランダム化された暗号化パケット)にも対応しています。このダミーパケットは本物のメッセージと同じように見えるため、本当の会話と偽装メッセージを区別することが難しくなります。

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配信されていないメッセージは端末のメモリ(ディスクではありません)に最大12時間保持され、「お気に入り」に設定したメッセージはさらに長期間保存可能です。メッセージは配信または期限切れ後に削除されます。グローバルなルーティングは行わず、配信は確率的で、ノードの密度や移動に依存しています。

もうひとつ重要なのは、端末のバッテリーへの影響です。Bitchatのホワイトペーパーでは、バッテリー消費はデューティサイクル、適応的スキャン間隔、非アクティブ時の自動省電力によって最小限に抑えられていると述べています。プロトコルはiOSとAndroidの両方でフォアグラウンドとバックグラウンドの動作をサポートしています。

関連記事:ジャック・ドーシー、2030年までにビットコインが100万ドルを超えると予測

Bitchatの主な仕様一覧(表形式)

機能・項目説明
ネットワークタイプBluetooth Low Energy(BLE)メッシュネットワーク
インターネット接続不要(完全にオフラインで動作)
アカウント登録不要(電話番号や個人識別子も不要)
メッセージ保存方法端末のローカルメモリのみ(一時的な保存)
暗号化方式(個人間)X25519鍵交換 + AES-256-GCM
暗号化方式(チャネル)Argon2idパスワード導出 + AES-256-GCM
メッセージ認証Ed25519デジタル署名
前方秘匿性各セッションごとに新しい鍵ペアを生成
メッセージルーティングTTLベース(最大7ホップ)
現在の到達可能範囲約300メートル(メッシュリレー使用時)
パケット形式1バイトのタイプフィールドを含むコンパクトなバイナリ
メッセージ圧縮LZ4(100バイト以上のメッセージを約30–70%圧縮)
バッテリー最適化適応型パワーモード、バックグラウンド効率化
プライバシー機能ダミーメッセージ(偽装トラフィック)、緊急ワイプ機能
グループチャットハッシュタグ形式の「ルーム」(パスワード保護も可能)
オフライン時のメッセージ配送ストア・アンド・フォワード方式(オフライン端末用キャッシュ)
対応プラットフォームiOS、macOS(ネイティブ)Androidクライアントも可能
今後の機能拡張予定Wi-Fi Directによる通信速度と範囲の向上
ライセンスパブリックドメイン(Unlicense)

Bitchatの欠点や脆弱性は?

Bitchatの最大の制約は、近接性に依存することです。 多数のユーザーが近距離に密集している場合、例えばデモやフェスティバルのような環境では効果的に機能します。しかし、ユーザー密度が低い地域や人がまばらな場所では、メッセージが外に到達できない可能性があります。Bluetoothの通信範囲は短く、最大7ホップのリレーを介しても、実効範囲はかなり限定されるでしょう。

また、信頼性も懸念されています。現時点のベータ版では、Bitchatはメッセージの配信確認機能を持っていません。そのため、メッセージやビットコインのトランザクションを送信しても、相手が別の手段で返信しない限り、それが届いたかどうかはわかりません。また、特定のルーティングロジックを持たないため、密度が高い環境ではメッシュネットワークが輻輳し、遅延やメッセージ喪失のリスクがあります。

セキュリティ面では、暗号化自体は堅牢ですが、Bluetoothそのものが妨害やスパム攻撃に弱いという点もあります。理論上は、攻撃者が大量の偽のメッセージを送信したり、信号を完全にブロックしたりする可能性があります。さらに、ビットコインのトランザクションを実際にブロードキャストするには、最終的にインターネット接続を持つ端末が必要です。

要するに、インターネット接続を持つ端末や衛星リンクがない場合、転送は局所的なものでとどまり、トランザクションは完了しません。

帯域幅もまた大きなボトルネックになり得ます。Bluetoothはテキストメッセージのような軽量なデータには適していますが、大きなデータには不向きです。

まとめると、初期段階ではBitchatはメインストリームのメッセージングやビットコイン送金の代替手段というよりも、緊急時や特殊なケースにおけるバックアップ手段として最も有効に機能する可能性があります。

Bitchatは暗号資産以外でも役立つか?

端的に言えば、「イエス」です。

ビットコインのトランザクションをオフラインで中継する機能がBitchatの大きな注目を浴びていますが、より広い意味では、オフラインコミュニケーションの手段としての価値が非常に大きいと言えます。

たとえば、自然災害、民主的抗議活動、政府によるインターネット遮断などの状況下で、携帯基地局やWi-Fiなしに近隣の端末と情報を共有できます。 この特性は、救援活動の調整、位置情報の送信、単なる連絡手段など、非常時の生命線として役立つ可能性を秘めています。

さらに、インフラが整っていない遠隔地でも有効に活用できる可能性があります。たとえば学校、フィールド調査チーム、援助活動スタッフが、コストがかかり不安定なネットワークに依存せずに、手軽にメッセージをやり取りできます。また、Bluetoothを使用しているため、特別な機器も必要なく、普段使っているスマートフォンで利用できます。

こうした観点から、Bitchatは今後、従来のネットワークが機能しない場所や状況で、安心で安全なローカル通信手段として発展する可能性があります。

Bitchatは単なる誇大広告か、それとも真の革新か?

理論的には、Bitchatがもたらす潜在的影響は非常に大きいものです。オフライン環境でビットコインを送受信できるようになれば、緊急事態や大規模な停電時でも暗号資産の利用が可能となります。

また、主流のウォレットやアプリ開発者たちが、オフラインでの利用を意識した設計を考えるきっかけになるかもしれません。過去にはgoTennaLochaMeshなどのプロジェクトが同様の試みを行っていましたが、Bitchatは通常のスマートフォンで動作するモバイルアプリとしてこのアイデアを実現した、最初の事例の一つと言えます。 また、ジャック・ドーシーという著名人がプロジェクトを率いているため、信頼性や注目度も非常に高くなっています。

そのため、短期間で革命的な変化をもたらすことはないにしても、Bitchatは中央集権的なインフラに依存せず暗号資産を利用できる未来への第一歩となる可能性があります。そして何より重要なのは、インターネットが使えない状況でもユーザー自身が主導権を握れることです。

よくある質問(FAQ)

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国際関係の大学在籍中に国内ブロックチェーンメディアでのインターンを経て、2つの海外暗号資産取引所にてインターントレーニング生として従事。現在は、ジャーナリストとしてテクニカル、ファンダメンタル分析を問わずに日本暗号資産市場を中心に分析を行う。暗号資産取引は2021年より行っており、経済・社会情勢にも興味を持つ。
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