ビットコイン(BTC)は、ブロックチェーン技術を基盤とした代表的な暗号資産ですが、決済速度が遅く、手数料も割高という課題を抱えています。こうした問題を解消すべく登場したのが、オフチェーン技術の「ライトニングネットワーク」です。近年注目されているライトニングネットワークは、迅速かつ低コストでビットコイン取引を可能にすると期待されています。
本稿では、ビットコインのライトニングネットワークの特徴とその将来性について初心者にもわかりやすく解説します。
ビットコインのライトニングネットワークとは?
ライトニングネットワーク(LN)は、ビットコインのスケーラビリティ問題を解決するために開発されたレイヤー2ネットワーク(セカンドレイヤー)です。
LNの取引は即座に確定し、ほぼ手数料ゼロで行えるため、以下の用途に特に適しています。
- マイクロペイメント(極小額決済)
- リアルタイムでの少額送金
ライトニングネットワークの仕組みとメリット
LNでは、チャネルを開設する際と終了する際の2回のみがビットコインのブロックチェーンに記録され、それ以外の取引は全てオフチェーンで処理されます。これにより以下のメリットが得られます。
- 高速性:即時に取引が完了し、オンチェーン取引に必要な承認時間が不要。
- 低コスト:1回あたりの送金手数料は数十サトシ(1円未満)に抑えられ、極めて安価。
- 高いプライバシー:チャネル内の取引は公開ブロックチェーンに記録されず、プライバシーが保護されます。
ライトニングネットワークの実用性と具体的な導入例
ライトニングネットワークの登場により、ビットコインは「価値の保存手段」だけでなく、日常の決済手段としての用途が広がりました。従来は高額なオンチェーン手数料が障壁だった以下のようなユースケースが可能になりました。
- カフェや小売店での少額支払い
- オンラインサービスのチップ送金
- 国際送金(リミッタンス)
実際にLNを利用した国際送金では平均手数料が約0.1円程度と非常に低く、従来の銀行送金や他のブロックチェーンを大幅に上回る効率性を実現しています。また2023年の調査によると、LNでの決済成功率は99.7%に達しており、マイクロペイメントにおいても非常に高い信頼性が証明されています。
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ビットコインのライトニングネットワーク注目を集めている理由

ビットコインのライトニングネットワーク(LN)が近年注目されている背景には、大きく2つの理由があります。
ビットコインのスケーラビリティ問題を解決
従来のビットコインブロックチェーンは1秒間に約7件程度の取引しか処理できず、混雑時には取引承認に時間がかかり、高額な手数料が必要でした。
ライトニングネットワークは、この課題を「オフチェーン」というブロックチェーン外の仕組みで解決しています。二者間で事前に開設するペイメントチャネル内で取引を即座に処理し、手数料も非常に低く抑えます。
これにより、取引速度は数秒以内、手数料は1円以下にまで抑制可能です。CoinbaseやSquareなどの大手企業もライトニングネットワークを積極的に採用しています。
マイクロペイメントの実現
ライトニングネットワークは、従来困難だった少額決済(マイクロペイメント)を可能にしました。
オンチェーンのビットコイン取引では、小額でも高額な手数料が発生し、実質的にマイクロペイメントが困難でした。しかしライトニングを用いると手数料が大幅に抑えられ、1円未満の決済も経済的に行えます。
具体的な利用例としては、
- オンラインゲームでのアイテム購入
- 動画配信サービスでのチップ送付
- コンテンツや記事への都度払い
といった新たなビジネスモデルが展開されています。
また、アメリカのファストフードチェーン「Steak ‘n Shake」が全米店舗で導入したほか、Lightspark社は米墨間でのクロスボーダー送金を数秒単位で実現するなど、実際の活用も広がっています。
こうした具体的な導入実績から、ライトニングネットワークはビットコインの実用性を大きく向上させ、日常的な決済手段としての可能性を現実化しています。
ビットコインのライトニングネットワークのメリット

ビットコインのライトニングネットワークのメリットについて解説します。
- 高速な取引
- 低コストな取引
- プライバシー保護の強化
- スケーラビリティ向上
- 先進的な技術進展
高速な取引
ライトニングネットワークを使うと、ビットコインの通常取引(オンチェーン)に比べて処理速度が格段に向上します。オンチェーンでは数分〜数十分かかる取引承認が、LNでは数秒以内で完了します。この高速性により、日常の決済手段として実用的です。
低コストな取引
LNはブロックチェーンに記録されない「オフチェーン取引」を利用するため、手数料が非常に低く抑えられます。特にマイクロペイメント(極小額取引)の手数料は数十サトシ(約1円未満)程度にまで下げられ、小額送金の普及を促進します。
プライバシー保護の強化
LN上での取引内容は公開ブロックチェーンに直接記録されません。これにより、利用者の取引履歴が一般公開されず、匿名性が保たれるという利点があります。
スケーラビリティ向上
ビットコインの通常のブロックチェーンは取引処理能力に限界がありますが、LNはオフチェーン取引を採用しており、理論的には取引量が無制限に拡張可能です。このため、多くの利用者が同時に取引をしても、処理能力が低下しにくくなっています。しかし、ライトニングネットワークでは、大量の取引が効率的に行えるため「ビットコインの普及」においては非常に重要な要素になります。
先進的な技術進展
最近の技術的進展として「Splicing(スプライシング)」が注目されています。これは取引チャネルを閉じずに容量を変更できる機能で、より柔軟で使いやすいLNを実現しています。また「Watchtower(ウォッチタワー)」という仕組みも導入され、不正取引や不正なチャネル閉鎖を検知して防止するセキュリティ機能も強化されています。
ビットコインのライトニングネットワークのデメリット

ビットコインのライトニングネットワークのデメリットについて解説します。
- セキュリティリスク
- 大量の支払いには適していない
ライトニングネットワークのデメリット①:セキュリティリスク
LNではチャネルを常時オンラインにしておく必要があるため、サイバー攻撃に対して一定のリスクがあります。また、LNの技術自体がまだ進化の途中であり、未知の脆弱性が発見される可能性もあります。
ライトニングネットワークのデメリット②:大量の支払いには適していない
LNは小額決済を前提とした技術であるため、大口送金には適していません。チャネルには事前に資金を入金する必要があり、その額以上の送金はできません。このため、大規模な資金移動には制約があります。
ライトニングネットワーク最新統計(2025年6月)
ライトニングネットワーク(LN)は2025年現在も順調に拡大しており、ビットコイン決済の実用化が進んでいます。
最新の主要指標
指標 | 値(2025年6月時点) |
---|---|
公開ノード数 | 約11,411ノード(前月比+0.15%) |
開設チャネル数 | 約42,030チャネル(前月比-0.2%) |
総容量(パブリック容量) | 約4,112 BTC(約4億3,080万ドル相当) |
BTC供給に占める割合 | 約0.0196%(2億1千万分の1) |
平均ノード容量 | 約0.360 BTC(約37万円) |
平均チャネル容量 | 約0.098 BTC(約10万円) |
ライトニングネットワーク上のBTC総容量は全供給量の約0.02%で、2023年には一時5,000 BTCを超えましたが、現在は約4,100 BTC前後で推移しています。ただしドル換算では過去最高水準を維持しています。
チャネル数も4万以上あり、初期ビットコインのフルノード数に匹敵する規模で、グローバルなオフチェーン決済網としての地位を確立しています。
課題と対応策
しかし成長に伴い、いくつかの課題も指摘されています。
- インバウンド流動性問題:他者から送金を受ける際に必要な余剰キャパシティを小規模ノードが確保しにくく、普及の妨げになっています。
- 中央集権化の兆候:BinanceやOKXなどの大規模ノードが容量の3〜4割を占め、分散化に課題が残っています。
これらへの対応として、LSP(Lightning Service Provider)による流動性提供、スプライシング技術の普及、ルーティングアルゴリズムの改善が進んでいます。特に、Block社の「c=」のようなサービスによって、小規模ユーザーでも容易にLNを利用できる環境が整備されつつあります。
実用性と利用拡大
業界・企業名 | 導入事例・用途 |
---|---|
Coinbase | ビットコイン送金での利用拡大 |
Square | キャッシュアプリで小口決済を提供 |
Steak ‘n Shake | 全米店舗での即時決済導入 |
Lightspark | 米墨間の高速クロスボーダー送金 |
- 決済成功率は年々改善し、2023年には99.7%を達成しました(River調査)。
- マイクロペイメント分野の成長が顕著で、ゲームやストリーミングがLNトランザクション増加の27%を占めています。
- 国際送金利用が急拡大しており、Voltage社によると、2022年から2024年の間に送金量が2,424%増加しました。
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ビットコインのライトニングネットワークの将来性について

ライトニングネットワークは、まだ開発途中であり、セキュリティや利便性などの課題もありますが、その利用はここ10年間で急増しています。2023年には、ライトニングネットワーク上で送金されるビットコインの量やユーザー数が過去最高を記録しています。
ライトニングネットワークは2025年時点で大きな技術的進展を遂げており、特にスプライシング、ウォッチタワー、Taproot Assets、形式的検証が重要です。以下ではこれらを詳しく説明します。
スプライシングによるチャネル容量の動的拡張
スプライシング(Splicing)は、チャネルを閉じることなくオンチェーンの資金を出し入れし、チャネル容量を柔軟に調整する技術です。従来、チャネル容量を変更するには一度チャネルを閉鎖して再開設が必要でしたが、スプライシングによりダウンタイムや手数料の無駄を防げます。
主な進展は以下の通りです。
- 2024年にはCore Lightning(CLN)とEclairの相互運用テストが成功。
- Block社のLightning Development Kit(LDK)への統合が進み、ウォレットアプリが簡単にスプライシングを利用可能に。
- Dusty Daemon氏が「Splice Script」を開発し、複数トランザクションの一括処理を自動化。CoinJoinやPayJoinと連携してプライバシー向上にも貢献。
スプライシングは、ライトニングネットワークの利便性とプライバシーを同時に改善する革新的技術です。
ウォッチタワーによるセキュリティ強化と不正防止
ウォッチタワー(Watchtower)は、ライトニングノードの不正(古い取引状態をブロックチェーンに公開する行為)を監視し、即座にペナルティを実行する第三者監視システムです。
特徴は以下の通りです。
- チャネルブリーチ(不正なチャネル閉鎖)を即時検知し、罰則トランザクションで不正者の資金を没収。
- プライバシー配慮設計により、ウォッチタワーはユーザーの残高や取引内容を把握できない仕組み。
- 代表的な実装には、Sergi Delgado氏の「Eye of Satoshi」があり、LNDやCLNで対応済み。
2025年現在では主に無償で運営されていますが、将来的には経済的インセンティブ導入も検討中です。
Taproot Assetsプロトコルによるマルチアセット対応
Taproot Assetsプロトコルはビットコインブロックチェーン上で様々なトークンを発行・送受信可能にし、ライトニングを真のマルチアセットネットワークへ進化させています。
主なポイント:
- Lightning Labsが2024年にメインネット版をリリース。
- 米ドル連動のステーブルコインなどがライトニング経由で瞬時かつ低コストで送金可能に。
- 既存のライトニングインフラをそのまま活用できるため、新規ネットワーク構築が不要。
- Tether社が2025年にUSDTをビットコイン上・ライトニングに対応し、国際送金やマシン間決済(AIエージェント間取引)などの活用が期待されています。
ライトニングラボのエリザベス・スタークCEOはBeInCryptoに対してこうしたUSDTなどのマルチアセットの対応に関して以下のように述べています:
USDTをビットコインに導入することで、ビットコインのセキュリティと分散化をライトニングの速度とスケーラビリティと組み合わせる。これにより、何百万人もの人々が最もオープンで安全なブロックチェーンを使ってドルを世界中に送ることができる。すべてはビットコインに戻る
ステーブルコイン需要の急増により、Taproot Assetsプロトコルはビットコインの利用拡大を大きく後押ししています。
関連記事:テザー、USDTをビットコインのライトニングネットワークと統合
形式的検証によるプロトコルの安全性強化
ライトニングネットワークのセキュリティ向上には形式手法(Formal Methods)が導入され、プロトコルの数学的検証が進んでいます。
主な進展は以下の通りです。
- 2019年にはエジンバラ大学がライトニングの安全性を数学的に証明し、ビットコイン本体と同等の安全性を確認。
- 2024年には米ノースイースタン大学などがモデルチェックでプロトコルの詳細を検証し、未知の脆弱性「ペイアウトレース攻撃」を発見し改善に寄与。
- 2025年にはワルシャワ大学などが包括的な機械検証を行い、ライトニングが全シナリオで資金を保護することを証明。
形式的検証は、ライトニングネットワークの信頼性を高め、実装上のバグや攻撃リスクを減らす重要な役割を果たしています。
これらの技術進歩により、2025年のライトニングネットワークは利便性、セキュリティ、マルチアセット対応のすべてで飛躍的に進化しています。
日本の規制動向とライトニングへの影響

日本は2017年、世界に先駆け暗号資産を法的枠組みに導入し、交換業者の登録制を整備しました。ライトニングネットワーク(LN)自体への規制はありませんが、2023年以降の法改正により間接的な影響を受けています。
2023年資金決済法改正(ステーブルコイン規制)
2023年の改正で「電子決済手段(EPI)」が導入され、法定通貨連動型のデジタルマネー(ステーブルコイン)の発行主体は銀行や登録金融機関に限定されました。さらにステーブルコイン移転の仲介にも新たな登録制度が設けられました。
LNへの影響
LNでUSDTなどのステーブルコインを扱う場合、国内での認可・登録が求められます。現在、テザー社(USDT)は日本で未認可ですが、制度上は海外発行ステーブルコインの流通も可能になっています。LN上のステーブルコイン利用が広がれば、トラベルルール適用や新業者区分の議論が必要となるでしょう。
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ビットコイン自体の規制とLNの位置付け
ビットコインの個人保有・送金は自由ですが、第三者の資産管理や送金を仲介する場合は登録が必要です。LNノード運営は自己管理のため規制外ですが、他人向け送金代行サービスは規制対象になりえます。
2025年の規制改正動向
金融庁は2025年に暗号資産の送受信仲介業者向けライセンス区分を新設する方針で、LNでの送金代行や流動性提供事業がより簡易な手続きで可能になる見込みです。
国内のLN活用と課題
日本ではLN特化コミュニティ「Diamond Hands」が実証実験を進め、ビットフライヤーなど取引所も支援を続けています。規制当局もWeb3推進政策でレイヤー2技術や分散型インフラの重要性に言及しています。
LNは現時点で直接規制されていませんが、特にステーブルコインを利用する場合は法的明確性が重要となります。日本におけるLNの健全な発展には規制整備と技術コミュニティ間の継続的な対話が不可欠です。
まとめ:ライトニングネットワークは、ビットコインの普及を進める技術革新

ライトニングネットワーク(LN)は、ビットコインが抱える決済速度や手数料の課題を劇的に改善し、日常決済に利用可能な暗号資産としてのポテンシャルを高めています。LNの登場によりマイクロペイメントや少額国際送金など新たな利用シーンが広がっています。一方、規制環境や技術的課題も残っており、今後の普及には制度面・技術面での継続的な改善が求められます。
よくある質問
ライトニングネットワーク(LN)とは、ビットコインのスケーラビリティ問題を解決するために開発されたオフチェーン型の高速・低コストな送金技術です。
取引速度の向上、手数料の大幅削減、高いプライバシー保護、そしてスケーラビリティの改善が主なメリットです。
現状では一定のセキュリティリスクが存在します。特にオンライン状態を保つ必要があり、未知の脆弱性にさらされる可能性があります。
ライトニングネットワークは少額決済向けに最適化されているため、大口送金には向いていません。大量の資金を送る場合はオンチェーン取引が適しています。
ライトニングネットワーク自体への直接的な規制はありませんが、他人向けの送金代行やステーブルコイン(USDTなど)の利用には国内規制(資金決済法など)に従った登録や許可が必要となる場合があります。
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