イーサリアム(ETH)が再び注目を集めています。今回は価格変動やガス代の問題ではなく、間もなく実施される「Pectra(ペクトラ)アップグレード」に関する話題です。これは単なる小規模なアップグレードではなく、ステーキングの仕組みやウォレットの挙動、取引の根本的な仕組みにまで影響を及ぼす大規模な更新です。
Pectraアップグレードについて押さえておくべきポイント:
➤Pectraアップグレードは、イーサリアムの実行層とコンセンサス層を統合したもので、プロトコル全体の性能向上を実現します。
➤このアップグレードにより、ウォレットの高度化やステーキングの円滑化、バックエンドの効率改善が進みますが、ユーザーが普段イーサリアムを使う上で特別な変更は必要ありません。
➤レイヤー1のガス代自体を直接下げるものではありませんが、将来的なアップグレード、とりわけレイヤー2の進化による手数料削減に向けた土台作りとなります。
Pectraアップグレードとは?
EthereumのPectraアップグレードは、実行レイヤー(取引処理)とコンセンサスレイヤー(合意形成)の両方を対象とした複合的なアップデートです。実行レイヤー(Prague)とコンセンサスレイヤー(Electra)が一体となり、「Pectra」という大規模なアップグレードを形成しています。
実行レイヤーは、ウォレットやスマートコントラクト、トークンなどが実際に動作する場所です。一方のコンセンサスレイヤーは、取引内容を承認し、ネットワークの正当性を維持します。Pectraは両レイヤーを同時に改善することで、処理速度やステーキングの効率、ウォレットの使いやすさを向上させます。
ご存じですか?今回、イーサリアムが「Prague」と「Electra」という二つのアップグレードを一つにまとめてリリースするのは初めてのことです。これは単なる効率向上だけにとどまらず、コアクライアント間で起きやすい同期トラブルの回避にも役立っています。
Ethereumが都市だとすれば、Pectraはインフラの大規模改修のようなもので、道路の拡張や信号の改善などが行われ、従来よりスムーズに利用できるようになります。

Pectraアップグレードの主なEIP
Pectraアップグレードの中心には、Ethereum Improvement Proposals(EIPs)と呼ばれる複数の提案が含まれています。これらはEthereumの速度、セキュリティ、使いやすさを向上させるための小さなコード変更ですが、大きな影響をもたらします。
EIP-7702:ウォレット機能の強化
一般的なウォレット(MetaMaskやCoinbase Walletなど)の使い勝手が大幅に改善されます。EIP-7702により、これらのウォレットが一時的にスマートコントラクトウォレットのように機能し、複数の操作を一度に承認できるようになります。
EIP-7702では、EOA(外部所有アカウント)が取引の間だけスマートコントラクトウォレットのように機能します。これにより、スワップ、ステーキング、ブリッジなど複数の操作を一度にまとめて承認したり、他の人にガス代を負担してもらうことさえ可能になります。ウォレットの種類を切り替えたり、拡張機能を追加したりする必要はありません。
EIP-7251:ステーキング上限の引き上げ
従来のステーキングでは32ETH単位でのバリデータ運用が必須でした。320ETHをステークする場合、10個のバリデータが必要で、その分ハードウェアや同期処理の手間が増えていました。
EIP-7251により、バリデータ1台あたりのステーキング上限が2,048ETHに拡大されます。機関投資家や大口ステーカーにとって、管理コストや負担が軽減され、パフォーマンス向上が見込めます。なお、イーサリアムのセキュリティモデル自体に変更はありません。
リスク要因として、バリデータ1つあたりの上限を2,048 ETHに引き上げると、取引所やカストディアンのような大規模ステーキング事業者への権力集中が進む可能性があります。運用効率が上がるというメリットはあるものの、少数のバリデータがネットワークの大部分をコントロールしかねないため、中央集権化や意思決定の多様性低下が懸念されます。このバランスはイーサリアムコミュニティが注視すべきポイントです。
EIP-6110:新規バリデーターの迅速な参加
イーサリアムは「実行層」と「コンセンサス層」の2層で動いています。従来のステーキングは、ETHの入金処理が実行層を経てからコンセンサス層へ同期されるため、登録完了まで時間がかかりました。
EIP-6110はこのデータをコンセンサス層へ直接送信できるようにし、バリデータの参加手続きを高速化します。特にステーキングが集中する時期に発生する遅延やボトルネックが解消されます。
EIP-6780:「SELFDESTRUCT」の制限
古いスマートコントラクトには、「SELFDESTRUCT」というブロックチェーン上から自身を削除する機能がありました。これはガス代節約や未使用コントラクト削除に利用されてきましたが、意図しない削除や監査上の混乱、将来的なアップグレードとの非互換性が問題視されていました。
EIP-6780では、デプロイ後のSELFDESTRUCTの使用が制限され、イーサリアムの安全性と予測可能性を高めます。
EIP-5656:データコピーの効率化
スマートコントラクトがデータをコピーする際、これまでの仕組みは非効率的でガス代が高くなりがちでした。
EIP-5656は新たに「MCOPY」という関数を導入し、EVM(イーサリアム仮想マシン)内部のメモリコピー処理を効率化します。これにより、複雑なDApps利用時のガス代削減やパフォーマンス向上が期待できます。
ファクトチェック:Pectraアップグレードは、明確にガス代を下げたりスケーラビリティを大幅に改善するわけではありません。主な目的は、ウォレット機能の改善、ステーキングの効率化、プロトコル基盤の技術的なアップグレードなど、インフラ面の強化にあります。ただし、EIP-5656など一部のEIPはスマートコントラクトの処理効率を高めるため、特定のDAppsにおいてはコストが若干下がる可能性があります。
EIP-7002:実行層経由でのステーキング解除を簡単に
現在バリデータがステーキングを解除するには、イーサリアムのコンセンサス層を通す必要があり、これが遅延や混乱の原因となっています。
EIP-7002はバリデータが通常のETH取引と同じ「実行層」経由で直接ステーキング解除を行えるようにします。これにより、バリデータが離脱する際のプロセスがスムーズになり、遅延やエラーのリスクも減ります。
EIP-7685:レイヤー間の連携を改善
EIP-7685は、実行層とコンセンサス層、特にステーキング処理に関わる連携を改善します。これにより処理速度が速まり、トラブルの発生頻度も少なくなります。
EIP-7549:投票処理の効率化
イーサリアムのバリデータは定期的に投票を行い、チェーンの状態に合意しています。現在この投票処理には非効率な部分がありますが、EIP-7549はそのプロセスをより効率化し、バリデータの負担を軽減します。ステーキングが増え、バリデータ数が拡大するほど、この改善のメリットが大きくなります。
ここまでで重要なEIPのすべてを紹介したわけではありません。次は、レイヤー2のスケーリングに関係した、より専門的なBlob関連のアップグレードを見ていきましょう。
EIP-7691:Blob容量を倍増
現在イーサリアムは、各ブロックにつき3つのBlob(OptimismやArbitrumなどのロールアップがレイヤー1と同期を保つために使用するデータパケット)の制限を設けています。EIP-7691はこれを6つに引き上げ、ロールアップの処理能力を事実上2倍にします。
Blobの容量が増えると、レイヤー2がより迅速かつ低コストでデータを公開できるため、BaseやzkSyncなどのレイヤー2を利用しているユーザーはガス代の低下を実感できるでしょう。
EIP-7623:Calldataのコスト引き上げ
現在も一部のDAppsではCalldataが使われていますが、これは効率が悪くネットワークの混雑を引き起こします。EIP-7623はこのCalldataのコストを引き上げ、開発者が代わりにBlobを使用するよう促します。
これは、交通渋滞の激しい裏道から、よりスムーズな高速道路へと人々を誘導するようなものです。この仕組みによって、イーサリアムはより軽量化され、長期的なスケーラビリティ(拡張性)向上につながります。
EIP-7840:Blob容量を柔軟に調整可能に
このEIPでは、Blob容量を固定数で永久的に決めるのではなく、ネットワークの状況に応じて柔軟に調整できるようになります。
これは小さな変更ですが、イーサリアムが需要増加に対してより柔軟に対応できるようになる重要な一歩です。さらなるスケーリングが必要になった場合でも、大規模なフォークを行うことなく調整できます。
次に、ZK(ゼロ知識証明)やクロスチェーンのためのアップグレードを紹介します。
EIP-2537:暗号証明の高速化
ZKロールアップやクロスチェーンブリッジでは、取引の正当性を証明するため複雑な数学的処理が使われています。このEIPにより、そうした処理が高速化されます。
EIP-2537はBLS署名や証明検証の高速化に対応しています。これは表立った変化ではありませんが、プライベート取引やクロスチェーンスワップといった処理を、より安価でスピーディにする縁の下の力持ちです。
EIP-2935:ブロック履歴の保持期間延長
現在イーサリアムは、直近のブロックデータを限られた期間しか保持していません。EIP-2935はこの期間を27時間に延長します。これにより、ロールアップやクロスチェーンブリッジ、アーカイブノードの動作が安定し、同期が改善されます。また、開発者が直近のネットワーク状況をデバッグするための時間的な余裕も生まれます。
Pectraアップグレードがバリデーターやステーカーに与える影響とは?
EIP-7251によるステーキング上限の引き上げや、EIP-6110を用いたバリデーター登録の効率化など、Pectraアップグレードの要点は既に紹介しました。ここでは、ETHのステーキングやノード運営をするユーザーが受ける具体的なメリットを整理します。
Pectraアップグレードにより、バリデータの管理がこれまでより簡単かつスケーラブルになります。大口のステーカーは、少額のバリデータを何十個も立ち上げる必要がなくなるため、ハードウェア負荷や運用コストが大幅に軽減されます。同時に、新規バリデータのオンボーディングもスムーズになり、ネットワークが混雑している際でもミスが起きにくくなります。単独でステーキングしている方でも、プールを通じている方でも、システムはより柔軟になり、複雑な処理が減ることでトラブルのリスクも低下します。
ウォレット側のアップグレードがもたらす利便性向上:
Pectraにより、EthereumのウォレットはモバイルアプリやWeb2プラットフォーム並みの直感的な体験へと進化します。主な改善点は以下の通り:
- ワンタップスワップ:従来の「承認→確認」ループが消え、簡単なワンタッチ取引が可能に。
- バンドルアクション:ボールトへの入金、借入、トークン交換などをワンクリックで一括処理。
- ウォレット制限と支出上限設定:安全のために、DAppsの使いすぎや無制限の権限取得を防ぐ。
- シードフリーのリカバリー:アクセスを失っても、モバイル認証やパスキーでウォレットを復元可能。
- ガス代のトークン払い:ETH以外のステーブルコインなどでもガス代支払いが可能に。
- 生体認証による承認:Face IDや指紋認証でトランザクション署名が可能になり、煩雑な拡張機能が不要に。
ガス代への影響(L1・L2):
PectraはL1ガス代を直接的に下げる仕様ではありません。ただし、特にブロブ関連のEIPを含むため、Arbitrum、Optimism、BaseなどのL2では効率化による手数料削減効果があります。
ご存じですか?すでにロールアップのガス代はレイヤー1と比較して10〜100倍も安くなっています。今回のEIP-7691のようなアップグレードにより、レイヤー2のコストはさらに下がることが予想されます。たとえレイヤー1の基本ガス代が変わらなくても、一般ユーザーがイーサリアムをもっと手頃に使えるようになるでしょう。
Pectraアップグレードに伴うリスクや課題:
アップグレードには常にリスクがつきもので、Pectraも例外ではありません。特に実行レイヤーとコンセンサスレイヤーの両方に影響を与えるため、ノード運営者やバリデーターは移行期間中、普段以上の注意が必要です。一般ユーザーへの影響は軽微ですが、取引所やステーキング業者、インフラ事業者は一時的な停止や同期トラブルが起こる可能性があります。また、EIP-7702によるウォレットロジックの変更で、ウォレット提供者も慎重な対応が求められます。
PectraアップグレードがEthereumの未来に与える影響
Pectraは派手な変更ではありませんが、Ethereumの基盤を強化し、将来的に数百万人規模のユーザーやアプリを安定的に支えるために不可欠な改良です。
よくある質問
Pectraアップグレードとは?
Pectraアップグレード前に何か準備する必要はありますか?
イーサリアムはなぜ頻繁にアップグレードを行うのですか?
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