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暗号資産におけるハードペッグとは?

22分
投稿者 Takashi Higashi
編集 Shigeki Mori

金融業界において「ペッグ」とは、通貨間の為替レートを固定化し、通貨の安定性を確保しようとすることです。あらかじめ比率を決めて設定されたレートのことを「固定レート」と呼びます。暗号資産市場においても、この考え方は同じで、国と国との間のフィアット通貨(法定通貨)の固定レートの代わりに、ステーブルコインの価値は外部資産と結び付いて固定されています。こうした価値は、ハードペッグ(固定為替相場制)においては変動することはありません。

では、暗号資産において「ハードペッグ」はどういう意味でしょうか? この記事では、暗号資産におけるハードペッグの役割、ソフトペッグとの違い、デペッグとは何か、ステーブルコインの種類、規制の動向、ハードペッグが必要な理由などについて解説します。

暗号資産におけるハードペッグとは?

暗号資産におけるハードペッグの意味を理解するには、まず「ペッグ」の仕組みについて理解する必要があります。暗号資産市場では、極端な価格変動によって、企業や投資家が取引や国境を越えた決済などのタスクを暗号資産でおこなうことが難しく場合があります。ステーブルコインは、価格変動の大きい市場において、安定した価値を維持する暗号資産を提供する目的で作られました。ステーブルコインは、フィアット(法定通貨)、その他暗号資産、コモディティなどの実世界の資産にペッグされています。

ステーブルコインを支える資産は安全に保管され、準備金という形で担保の働きをします。これにより、ステーブルコインは当該資産と1対1の比率になるため、1USDTステーブルコインは、たとえば1ドルのような1通貨単位と交換できます。

この1:1の比率は、暗号資産のハードペッグを示す例ですが、価値の変動は認められていません。このとき暗号資産の価値は、ペッグされている資産と常に同じ価値のままであることに注意してください。このため、ハードペッグは信頼性が高く、透明性の高い取引環境をもたらします。

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ハードペッグとソフトペッグの比較

通貨は、最初は固定レートでスタートしますが、時間が経つにつれ、市場の状況に応じて自由に変動し始める場合がよくあります。通貨の変動は当たり前のように起きるので、暗号資産の価値を安定させる方法として、準備通貨に対して一定の幅を持たせた価値を与える場合があります。これがソフトペッグと呼ばれるものです。

ハードペッグとは逆に、暗号資産におけるソフトペッグは、ペッグされた暗号資産の価値とそのペッグ主体との間に、ある程度の柔軟性を認める為替レートの形態です。世界の通貨の中でその最も良い例は、中国の人民元です。1994年から2005年まで米ドルにペッグされていましたが、その後、米ドルに対して2.1%切り上げられました。

豆知識:Tether(USDT)はハードペッグとソフトペッグの両方の性質を持つと考えられています。ハードペッグは1ドルで、ソフトペッグは2%の上下幅が認められています。

暗号資産におけるデペッグとは?

暗号資産におけるペッグには課題があります。それは、暗号資産の裏付けとなる準備金が、発行されたすべてのトークンを裏付けるのに十分でない場合があるということです。

例えば、多くの人が米ドルで裏付けられたステーブルコインを売ってドルに換えた場合、すべてのトークンの裏付けとなる米ドルが不足すると、ペッグの維持が困難になります。これが暗号資産における「デペッグ」です。

最もよく知られているデペッグの事例は、2022年にTerra(UST)で起きました。このステーブルコインは、LUNAをペッグの裏付けに使い、1ドルの価値の維持を前提にしていました。その後、両コインは崩壊し、需要と供給の関係、LUNAの供給増とTerraのデペッグが重なって、最終的にLUNAの価値はなくなりました。

下図のチャートは、デペッグ以降のこのステーブルコインの価格の下落を示しています。チャートの終わりでは0.014ドルで取引されています。

TerraUSDの対USD比価格:CoinMarketCap

デペッグに陥る原因には、以下のようなものがあります:

  • 準備金不足:発行主体がペッグを維持するのに十分な裏付けとなる準備金を保てない場合、先の事例のようなデペッグが発生します。しかし、こうした問題は一般に公開されているとは限らないので、市場においてこのアンバランスがよく認識される必要があります。
  • 過度の市場パフォーマンス:デペッグが発生するもう1つのシナリオは、市場がアルゴリズムを上回る場合です。スマートコントラクトによって需要と供給のバランスが保たれ、資産の通貨ペッグが確保できますが、それもある範囲までです。市場が急に暴落したり、スマートコントラクトのアルゴリズムを上回ると、通貨のデペッグを招くことがあります。Terra USTで起こったことはこれに当たります。

ステーブルコインにはどんな種類があるか?

多くの人は、米ドルなどの実際の通貨にペッグされたステーブルコインを思い浮かべるでしょう。しかし、暗号資産はほかの手段でも裏付けられます。最も一般的なステーブルコインは、法定通貨や暗号資産、コモディティに裏付けられたコイン、またはアルゴリズムに基づくコインです。

ステーブルコインの種類:Medium

フィアット担保型ステーブルコイン

フィアット担保型ステーブルコインは、その名が示すように、フィアット通貨に裏付けられています。それはたいていの場合米ドルです。フィアットに等しい準備金が1:1の比率でステーブルコインを担保しています。これは、1個のステーブルコインが、それがペッグされているフィアット通貨1単位と交換できることを意味します。フィアット担保型ステーブルコインは、市場において一番シンプルかつ最も中央集権的なタイプのコインで、Tether(USDT)、バイナンスUSD(BUSD)、USDコイン(USDC)が人気上位となっています。

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暗号資産担保型ステーブルコイン

ステーブルコインの中には、ほかの暗号資産に裏付けられた、暗号資産担保型と呼ばれるものがあります。これは、他のブロックチェーン上で基礎となる暗号資産を立ち上げる目的でしばしば発行されます。注意すべき点は、これらのステーブルコインには過剰担保が多いことです。言いかえれば、多くの場合でステーブルコインの価値を大きく上回る余剰の準備金が存在します。暗号資産担保型ステーブルコインの好例としては、MakerDAOの(DAI)が挙げられます。これは米ドルにペッグされていますが、ETHや他の暗号資産に裏付けられています。

コモディティ担保型ステーブルコイン

ステーブルコインは、そのすべてが他の通貨に裏付けられているわけではありません。コモディティ担保型コインは、他の有形資産の価値に依拠しています。コモディティは、金や銀などの貴金属の形で提供されるものです。また、ステーブルコインの裏付けとなるもう1つの有形資産は、原油です。Paxos Gold (PAXG)は、実物の金準備にペッグされたステーブルコインです。

アルゴリズム型ステーブルコイン

アルゴリズム型ステーブルコインは、他の資産に裏付けられるのではなく、コンピュータプログラム上で実行される、あらかじめ設定された計算式によりコインの安定が保持されます。コンピュータのアルゴリズムが、基本的にスマートコントラクトを介してコインの需要と供給を制御するので、コインの全体的な市場価値に影響を及ぼします。アルゴリズム型ステーブルコインは、中央集権的な準備金によって必ずしも裏付けられるものではないので、分散型とみなされます。TerraUSD(UST)は、ペッグを失う前のアルゴリズム型ステーブルコインの代表格でした。

次のグラフは、主なステーブルコインの総供給量の推移です:

ステーブルコインの総供給量:Glassnode

ステーブルコインをめぐる今後の展開

ステーブルコインは、FTXのような中央集権的な取引所の崩壊、ステーブルコインのデペッグ、銀行の閉鎖など市場の混乱が巻き起こる中、高まる規制の動きに直面しています。米国の上院と下院は2023年5月時点で、複数の法案を打ちだし、ステーブルコインに対して多くの規制基準を設けることを提案しています。

PaxosはSECとの訴訟に直面する可能性があり、CircleのUSDCをめぐる問題も精査されているため、ステーブルコイン市場の安定は今なお確保されていません。また、デペッグ(が起きる事態)は、ステーブルコインで安定的価値が得られるプラットフォームに依存しているDeFi(分散型金融)プロトコルにとっても脅威となります。TetherとBitfinexのパオロ・アルドイノ最高技術責任者は、DeFiはその90%がUSDCのみに依存していると主張しています。

「規制当局は、ステーブルコインの運用方法とその準備金について、もう少しガイダンスを示すべきだと思う。自分にとってはそれがきわめて重要だ。というのも今現在、ステーブルコインの準備金に関するガイダンスを提供している相応の管轄機関は見当たらないからだ」

Tether CTO、パオロ・アルドイノBeInCrypto

なぜ暗号資産においてハードペッグが必要か

暗号資産市場、そしてDeFi全般は、暗号資産における(ステーブルコインが)ソフトペッグかハードペッグかを問わず、ステーブルコインがもたらす価値に依存していることは明らかです。ステーブルコインは、暗号資産にはびこる市場のボラティリティがいくらか解消されれば、投資家や機関にある程度の信頼と保証を与えるのに役立ちます。取引環境は、ハードペッグの導入によりより安全かつスムーズになるはずです。

ステーブルコインが成功を収めるには、安定性が確保されることが極めて重要です。中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、中央銀行の支援を受けた暗号資産として登場しましたが、今後のデジタル資産の世界に向け、ステーブルコイン導入という新時代の火ぶたを切ることになると、多くの人が予想しています。こうした流れの中で、ステーブルコインのハードペッグの実現は、各国のデジタル通貨だけでなく、暗号資産とDeFi市場全体の発展につながると考えられます。

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よくある質問

ステーブルコインは常にフィアットに裏付けられているのですか?

市場で最も人気の高いステーブルコインは何ですか?

ステーブルコインに対する規制は、暗号資産市場にどのような影響を与えるでしょうか?

暗号資産のソフトペッグとハードペッグとは何ですか?

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国際広報、海外の先端技術調査、海外企業との提携等をこれまで行ってきました。ここ数年、暗号資産に関心を持ってウオッチしています。
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