ドナルド・トランプ大統領はかつて暗号資産(仮想通貨)を「詐欺」「空気に基づいた通貨」と酷評していましたが、2024年の大統領選キャンペーンを機に急速に支持へと転換しました。この劇的な変化は、単に個人的な信念の変化だけではなく、政治的戦略や自身の事業利益、さらには対中政策など複数の要素が絡んだ結果でもあります。
本稿では、トランプ大統領が仮想通貨政策を支持するようになった真の理由や背景を包括的にわかりやすく解説します。
トランプ氏が暗号資産(仮想通貨)を「詐欺」から政策転換までの経緯
ドナルド・トランプ元大統領は当初、暗号資産に強い不信感を抱いていました。2018年、トランプは当時の財務長官、スティーブン・ムニューシンに対し、「ビットコインを徹底的に追跡せよ」と命じています。これは暗号資産を「テロ資金やマネーロンダリングに使われる脅威」と捉えていたからです。
翌2019年7月には、トランプは自身のX(旧Twitter)で以下のように批判を展開しました。
「ビットコインや他の暗号資産はお金ではなく、その価値は極めて不安定で、文字通り空気に基づいている。」
これは暗号資産が米ドルの競合となり、通貨主権を脅かすことへの懸念の表明でした。
2021年、大統領職を退任した後も、トランプの姿勢は硬化したままでした。同年6月のFOXビジネスのインタビューでトランプは、ビットコインを明確に「詐欺」と呼び、「米ドルに対する深刻な脅威」として否定しました。
さらにこの期間、証券取引委員会(SEC)は暗号資産業界への監視を厳しくし、計62件もの法執行措置を行っています。この環境はトランプ政権の暗号資産に対する警戒心を反映したものでした。
しかし、2022年末から2023年にかけて、トランプ氏の暗号資産へのスタンスはNFTプロジェクトの開始をきっかけに大きく変化します。
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NFTプロジェクトでの成功体験
トランプ氏は、NFT市場への参入を通じてブロックチェーン技術への理解と関与を深めました。
第一弾:Trump Digital Trading Cards(2022年12月)
- 内容:自身の肖像をデジタルアートとして表現したNFT、全45,000枚
- 価格:1枚あたり99ドル
- 使用ブロックチェーン:Polygon(低コスト・高速取引が特徴)
- 成果:初回販売で約440万ドル(約6億円)の収益、短時間で完売
この成功はトランプ氏にとって初めての本格的な暗号資産関連プロジェクトであり、NFTの市場性を認識するきっかけとなりました。Polygonチェーンを採用したことで、初心者でも簡単にNFTを入手でき、支持層の拡大にも寄与しました。
第二弾:Trump Digital Trading Cards Series 2(2023年4月)
- 発行枚数:47,000枚(前回より2,000枚増)
- 価格:99ドル(1枚あたり)
- 限定特典:
- 15枚以上購入者に「トランプ氏が討論会で着用したスーツ入りの物理カード」
- 75枚以上購入者に「フロリダ州のトランプ氏プライベートクラブでのガラディナー招待」
- 成果:24時間以内に完売、約465万ドルの売上を記録
シリーズ2の迅速な完売は、NFT市場におけるトランプ氏の影響力をさらに証明しました。また、このNFTプロジェクトは政治的支持基盤の拡大や、選挙活動の新たな資金調達手段としても成功を収めました。
選挙キャンペーンでの転換(2024年)
NFTでのブロックチェーンへの参入を契機に2024年の大統領選挙キャンペーンで、トランプは突如として暗号資産への態度を一変させました。
2024年5月、フロリダ州マー・ア・ラゴで開催したNFT(非代替性トークン)のイベントでトランプ氏は「暗号資産に賛成なら、私に投票するしかない」と発言し、バイデン政権がこの業界へ規制のメスを入れていると批判しました。
2024年6月、トランプはフロリダ州で開催した大規模集会で「米国を暗号資産の世界首都にする」と宣言。この発言は世界中で大きく報道されました。トランプは具体策として「国家的なビットコイン備蓄」の設立を公約に掲げ、米国経済にとって暗号資産が欠かせないものであると主張しました。
この劇的な政策転換の背景には、共和党内の親暗号資産派であるヴィヴェク・ラマスワミーやJ.D.ヴァンスらの影響がありました。特にラマスワミーは、SECによる規制を緩和し、「ビットコインを商品として明確化する」法案を主張しました。また、フロリダ州知事のロン・デサンティスが中央銀行デジタル通貨(CBDC)の禁止を州レベルで打ち出すなど、党内で暗号資産支持が強まったことも大きな要因でした。
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仮想通貨の国家戦略としての採用(2025年以降)
2025年にトランプ政権が始まると、暗号資産は国家戦略として本格的に推進されました。
2025年1月、トランプは早速大統領令に署名し、以下を命じました。
- 暗号資産に関する規制緩和と見直し
- 国家的なビットコイン備蓄の検討
- 中央銀行デジタル通貨(CBDC)の禁止
同年3月にはホワイトハウス史上初となる「Crypto Summit」を開催。ここで正式に「戦略的ビットコインリザーブ」の設立を表明しました。これにより政府保有のビットコイン(推定17億ドル規模)を用いて金融政策や経済安全保障を強化する方針が示されました。
さらに、銀行サービスへのアクセス改善や規制障壁の撤廃により、暗号資産業界全体が成長できる環境整備を進めました。
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トランプの暗号資産事業への直接関与

政策転換と同時にトランプ自身も暗号資産ビジネスに積極的に関与し、その象徴となったのが自身のコイン発行やNFTプロジェクトでした。
トランプコイン(TRUMP)(2025年1月)
トランプは「TRUMP」という自身の名前を冠した仮想通貨を発行しました。発行直後、コインの価格は急騰し、一時的に総価値は数十億ドル規模に達しました。このメムコインは単なる資金調達の手段を超え、政治的支持者の獲得を目的とした戦略的施策でもありました。
特に注目を浴びたのは以下の施策です。
- 保有者の上位220人を自身所有のゴルフクラブで開催する特別ディナーに招待
- 上位25人にはVIP専用レセプション参加権を提供
これにより、トランプの支持者は暗号資産と政治活動が密接に結びついた新たな体験を得ました。
World Liberty Financial(WLFI)への参画
さらにトランプファミリーは分散型金融(DeFi)プラットフォーム「World Liberty Financial(WLFI)」を立ち上げました。トランプ自身は「Chief Crypto Advocate」として公式に名を連ね、その息子であるエリック・トランプとドナルド・トランプ・ジュニアはそれぞれ「Web3 Ambassador」として参加しています。
WLFIのプロジェクトの成果:
- 独自トークン「$WLFI」を発行し、総額約590億円(4億ドル以上)の資金調達に成功
- 米ドルに連動するステーブルコイン「USD1」の発行を計画し、ドルの国際的競争力を強化する戦略を明確に示した
トランプのこうした直接的な事業への関与は、自身の政策転換を単なる政治的パフォーマンスではなく、経済的利益と戦略的目的が絡み合った本格的な取り組みとして示すこととなりました。
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トランプ大統領が暗号資産(仮想通貨)を支持する理由とは?:選挙戦略と政治的文脈

トランプ氏が暗号資産支持に転じた背景には、2024年米大統領選での戦略的計算があります。
バイデン政権下の厳しい規制
バイデン政権下では、SEC(米証券取引委員会)のゲンスラー委員長が中心となり、仮想通貨業界への厳しい規制強化や主要取引所への訴追が相次ぎました。2023年にはホワイトハウスも超党派の暗号資産擁護法案への拒否権を示唆するなど、民主党政権は一貫して厳しい態度を取っていました。
トランプ陣営の戦略的メッセージ
トランプ氏はこうした状況を「民主党は仮想通貨業界を潰そうとしている」と位置づけ、自身を「暗号資産の防波堤」としてアピールしました。実際、トランプ陣営は以下のメッセージを打ち出しています。
- 「バイデンのビットコイン嫌いは中国やロシア、急進左派を利するだけだ」
- 「米国内でビットコインを採掘し、『Made in USA』のビットコインでエネルギー主権を確立する」
これは、対中強硬姿勢やエネルギー安全保障を重視する保守派有権者に訴えやすいテーマです。またトランプ氏は、「暗号資産支持者は私に投票を」と明確に述べ、暗号資産を保有する若年層や有色人種層の支持を狙いました。実際、パラダイム社の2023年調査では、暗号資産保有者の支持率はトランプ氏48%、バイデン氏39%とリードしています。
リバタリアン層へのアピール
さらにトランプ氏は、リバタリアン(自由至上主義者)層へのアピールも強化しました。その象徴が、シルクロード創設者ロス・ウルブリヒト受刑者への恩赦検討という公約です。「当選すればウルブリヒト氏を減刑する」と明言し、政府介入への反発心が強い層からの支持を狙いました。
共和党の潮流と暗号資産
共和党全体の文脈から見ても、トランプ氏の転向は自然な流れです。近年共和党はビットコインなど暗号資産に寛容な姿勢を示しており、民主党進歩派の規制強化主張と対照的になっています。共和党有力候補のデサンティス知事も上記で述べたように、CBDC(中央銀行デジタル通貨)を「個人監視につながる」と批判し州法で規制する動きを取ってきました。
2024年選挙での影響
トランプ氏はこの党内潮流を利用し、自身を「暗号資産の味方」「民主党政権の過剰規制からの盾」として支持拡大を図りました。この戦略によって、2024年大統領選で「仮想通貨」が主要な政争テーマの一つに浮上する異例の展開となりました。
民主党内部にも、「争点を共和党に独占させるな」と規制緩和を唱える議員が現れ、トランプ氏の狙い通り論戦が活発化しました。ただし、FTX破綻や詐欺事件などで暗号資産に対する一般有権者の信頼が揺らいでいたため、この戦略の成功は未知数です。それでもトランプ氏は選挙を通じ、「暗号資産=アメリカの繁栄と自由、民主党=敵」という明確な図式で自身への支持拡大を狙い続けています。
対中国・グローバル金融支配 vs Web3の自由
トランプ氏が暗号資産を支持する背景には、「対中国・反グローバリズム」の地政学的視点があります。その1つとして米国がビットコインのマイニング産業を主導することで「エネルギー覇権」を握るべきと主張しています。
2021年、中国がマイニング禁止を打ち出し、その後の米国の世界的シェア拡大をトランプ氏は米国のチャンスと位置づけました。同氏は民主党の環境規制が米国の主導権を奪い、中国を利すると警告しています。また共和党の一部は、ビットコイン採掘を化石燃料産業の需要創出手段と見なしています。
トランプ氏は、民主党左派や規制派を「急進的共産左派」と非難し、「暗号資産=自由 vs 規制=抑圧」の構図を作り出しています。
反CBDC政策:プライバシーと主権の重視
トランプ氏はまた、国際金融エリートやCBDC推進勢力に対抗し、「デジタル通貨の未来は各国民が決めるべき」と主張しています。この「アメリカ第一主義」は、暗号資産を通じて自由や主権を守る立場につながっています。
トランプ氏は「CBDCは国家による資産監視と統制のツール」と断言し、2025年1月にCBDC導入禁止の大統領令を発令しました。バイデン政権下で進められていたCBDC研究プロジェクトを全て中止し、民間主導のステーブルコイン推進を明確に打ち出しています。
共和党もこの動きを後押しし、「No CBDC法案」を再提出し、CBDCを恒久的に禁止する姿勢を示しています。トランプ政権にとって反CBDC政策は支持基盤への「自由とプライバシー」のアピールとして重要な政策となっています。
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暗号資産業界との関係:支援と利益相反

業界からの支援と密接な関係
トランプ氏の暗号資産支持には、業界側からの積極的な働きかけが大きく影響しました。暗号資産業界は政治献金やロビー活動に数千万ドルを投じ、共和党(特にトランプ陣営)を支援し、有力な政治勢力となりました。業界団体Blockchain Associationも、トランプ氏の前向き発言を歓迎しています。
就任後、トランプ大統領はベンチャー投資家デービッド・サックス氏を「暗号資産・AI担当特別補佐官」に任命し、業界寄りの政策(規制緩和や法的枠組み整備)を進めています。
暗号資産ビジネスとトランプ政権の利益相反問題
トランプ政権が推進する暗号資産政策に対し、大統領本人と家族が深く関与しているビジネスとの利益相反の疑惑が浮上しています。特に民主党や倫理団体からは、政策推進がトランプ一家自身の利益に直結しているとの批判が相次いでいます。
さらに、業界内部でも「トランプ氏が個人的なビジネスに過度に肩入れしている」との不満があり、「実務的な規制改革に集中すべき」との声が上がっています。政権と業界の近さを巡る論争は今後も続く見通しであり、利益相反への監視が求められています。
トランプ一家が関与する主な暗号資産事業
トランプ一家が展開する暗号資産ビジネスには複数のプロジェクトがあります。
- ワールド・リバティ・フィナンシャル(WLF)
- TRUMPとMELANIA
- トランプ報酬ポイントプログラム
トランプブランドの顧客向けロイヤリティポイントを暗号資産化する計画を進めています。 - ビットコインマイニング事業
次男エリック・トランプ氏が主導し、関連企業の株式上場を計画しています。
これらのビジネスは複雑な企業構造を通じて一家が多額の利益を享受可能であり、利益相反の懸念が高まっています。
最も問題視される「夕食会イベント」
トランプコイン保有量上位220名を、トランプ氏所有のゴルフクラブで開催される特別な夕食会に招待するキャンペーンが大きな波紋を呼びました。さらに上位20名にはVIPレセプション、25名にはホワイトハウス特別ツアーが提供され、これが「大統領へのアクセスを暗号資産で販売している」との批判を招いています。
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政治・倫理面での反発と民主党の対抗措置
民主党はこの状況を深刻に捉え、以下のような措置を講じています。
- 大統領や議員、その家族が暗号資産を発行・宣伝することを禁止する法案を提出。
- マキシン・ウォーターズ議員らが暗号資産規制の公聴会を退席する抗議行動を実施。
ただ、上下両院が共和党多数の状況下では民主党の抵抗は限定的であり、政策変更を強いることは難しい状況です。
トランプ政権側の反論
ホワイトハウスは利益相反の存在を全面否定し、トランプ氏自身もインタビューで「自分のコインは問題ではない」と疑惑を一蹴しています。
露骨な利益相反が指摘されるトランプ政権の暗号資産政策ですが、民主党の対応は議会の構造上限界があります。結局、問題解決は有権者の判断、すなわち世論次第という状況にあります。
トランプ政権下の米国暗号資産政策の今後

ポジティブな展望
トランプ政権再登板により米国は暗号資産政策を大きく推進する見込みです。規制の明確化が進み、機関投資家が市場に本格的に参入しやすくなる状況が整いつつあります。スポットビットコインETFの承認は、市場への新規資金流入を促進し、暗号資産の市場規模を一層拡大すると期待されています。
また、証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)といった規制機関が暗号資産業界に対して前向きな政策やルールメイキングを採用しており、法的な透明性と規制環境の予測可能性が高まっています。さらに、税制改革や取引規制の簡素化が進み、企業や個人投資家が暗号資産市場に参加しやすい環境が整備されつつあります。
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懸念されるリスク
一方で、急激な規制緩和に伴い詐欺事件や取引所破綻が再発する可能性が高まっています。過去にFTXの破綻など重大な事件が発生した背景には、十分な規制と監視が不足していたことが挙げられます。また、ビットコインマイニングの大幅な拡大に伴い、エネルギー消費の急増や環境負荷の増大が懸念されており、地域社会との軋轢が予想されます。
国際的にも、米国が暗号資産規制を緩和すれば、他国の規制にも乱れが生じ、「リーガル・アービトラージ」(規制差を利用した利益獲得行動)が拡大する恐れがあります。また、中国やロシアなどがこれを口実に自国のデジタル通貨の推進を加速し、金融秩序に影響を与える可能性もあります。
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まとめ:今後のトランプ大統領の仮想通貨政策に注目

2025年現在、トランプ氏は暗号資産支持へと劇的に舵を切りました。その背景には米中覇権争いや「自由対専制」の理念、選挙戦での戦略的意図など複雑な要素が絡んでいます。氏の政策転換は業界に歓迎されつつも、米国内外で激しい議論を巻き起こしています。日本においても米国の政策変動に柔軟に対応し、市場発展と規制のバランスを取ることが今後の課題です。
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