暗号資産市場において、グレイスケールは機関投資家の動向を示す重要な存在です。世界最大の暗号資産運用会社である同社は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を裏付けとする信託商品を提供し、投資家に規制に準拠した投資機会を提供しています。
本稿では、ETF承認において鍵を握る主要企業であり、そのポートフォリオも市場に大きく影響を与えるグレイスケールの概要について解説します。
暗号資産運用会社グレイスケールとは?
グレイスケールは世界最大の暗号資産運用会社です。アメリカのグレイスケール・インベストメンツ(Grayscale Investments)は、暗号資産(仮想通貨)に特化した資産運用会社であり、親会社はデジタルカレンシーグループ(DCG)です。2013年に設立され、ビットコインやイーサリアムなど暗号資産を裏付け資産とする信託商品を提供し始めました。
代表的な商品であるビットコイン投資信託(GBTC)は、世界最大のビットコイン投資ビークルとして知られ、2025年初頭時点で発行済みビットコインの約3.16%(推定65万BTC超)を保有し、本稿執筆時点で165.5億ドルのAUMを誇ります。グレイスケールは米国の証券規制の枠組みに沿った形で暗号資産への投資機会を提供し、「誰もがデジタル経済へのアクセスを持つべき」という理念の下で事業を拡大してきました。
なぜ暗号資産投資家はグレイスケールに注目するのか?

グレイスケールの動向は暗号資産市場の流れを読む上で欠かせない要素であり、投資家にとって常に注視すべき存在です。グレースケールが暗号資産投資家に注目される理由は以下の通りです。
- 市場規模と影響力
- グレイスケールは暗号資産運用の最大手であり、市場供給の数%に相当するビットコインを保有しています。資金流出入や商品変更は、相場の流れを読む上で重要な指標となります。
- 機関投資家の動向を示す指標
- プレミアムやディスカウント率は、機関投資家の需要を示すバロメーターとなっています。2021年のプレミアムは強気市場を、2022年のディスカウントは弱気転換を示唆しました。
- 規制動向の先行指標
- グレイスケールはSECとの争いを経て、現物ETFの承認を獲得しました。その判例や規制当局の対応は、他の暗号資産商品の承認可否にも影響を与えています。規制環境の変化を把握する上で、グレイスケールの動向は重要な情報源となっています。
- 市場への直接インパクト
- 新規信託候補リストに入った銘柄は「将来買われる可能性がある」として注目される一方、大量保有銘柄は売却懸念が生じることもあります。「グレイスケール効果」により、一部銘柄の価格変動が発生することもあります。
- 伝統市場との架け橋
- グレイスケールは、ウォール街と暗号資産市場を繋ぐ役割を果たし、機関投資家の市場参入を促進しました。これにより、暗号資産が金融ポートフォリオに組み込まれる流れが加速しました。
- 投資機会と教訓
- プレミアム期には裁定取引、ディスカウント期には価値投資のチャンスを提供してきました。一方で、3ACの破綻のように流動性リスクを軽視すると大損失に繋がる事例もあり、リスク管理の重要性を示しています。
グレイスケールの主な投資商品

グレイスケールの投資信託(トラスト)は、ビットコインなどの暗号資産を裏付けとする金融商品です。基本的な仕組みは、グレイスケールが投資家からの資金(現物の暗号資産を拠出する場合もあります)を集めて信託を組成し、その信託が暗号資産を保有します。信託は株式のような証券として扱われ、投資家はその信託の持分(シェア)を売買することで間接的に暗号資産に投資できます。信託が保有する暗号資産の評価額に基づき純資産価値(NAV)が計算されますが、解約(償還)に対応しておらず市場での売買のみが可能なため、市場価格がNAVに対してプレミアム(上乗せ)やディスカウント(割引)で取引される場合があります。実際にグレイスケールの信託は長らく解約を受け付けずに運用されており、この構造が価格乖離を生む要因となっていました。
グレイスケールはビットコインをはじめ多数の暗号資産信託を展開しています。その主要な投資信託商品は以下のとおりです。
グレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)
2013年設立の旗艦ファンドで、ビットコインを唯一の投資対象とする信託です。2020年にSEC報告会社となり、長らく店頭市場(OTCQX)で公開取引されてきましたが、2023年以降の市場環境の変化や投資家ニーズの高まりに伴い、徐々にETFへの転換が進められ、2024年後半には正式にETFとしての取引が開始されました。信託報酬は年率1.50%で、世界最大のビットコイン保有ファンドとして知られています。2021年の暗号資産ブーム時にはプレミアムで取引され巨額の資金流入を呼び込みましたが、2022年の市場低迷で価格が純資産価値(NAV)を大幅に下回り、一時は基準価値比で50%近いディスカウントとなりました。
ETFへの転換により、新規発行と償還(解約)が可能となり、市場価格と基準価値(NAV)の乖離は解消されました。2024年1月時点で運用資産は約290億ドルに達していましたが、同時期に低コストの競合ETFが登場したことで、グレイスケールETFから資金流出が発生しました。特に、高い管理報酬(1.50%)がブラックロックのETF(0.25%)と比較され、解約の要因となりました。2024年3月には一週間で19億ドルが流出し、FTX破綻による清算売りも影響を与えました。運用資産残高は暗号資産価格変動と資金流出入の影響で増減しますが、2024年10月時点で約140億ドルと推定されています。保有ビットコイン数は60万BTC前後で、市場に流通するビットコインの約3%に相当する規模です。
グレイスケール・イーサリアム・トラスト(ETHE)
イーサリアム(ETH)を投資対象とする信託で、2017年に創設されました。世界最大のイーサリアムファンドとして、長らく店頭市場で取引されていました。2021年の市場好調期にはプレミアムが付くなど人気化しましたが、その後は市場価格がNAVを下回るディスカウント状態となっていました。
しかし、従来OTC市場で取引されていた信託がETFに転換され、上場と同時に解約・新規創造プログラムが導入されたことで価格乖離が解消されました。ETF転換時には手数料が年率2.5%に据え置かれましたが、他社のイーサリアムETF候補(0.6%前後)と比べて高水準であり、将来的な引き下げが期待されています。2025年2月時点の運用資産は約28億ドルで、引き続き世界最大のイーサリアム運用商品となっています。
グレイスケール・デジタル大型ファンド(GDLC)
グレイスケール・デジタル大型ファンドは、複数の主要暗号資産に分散投資するバスケット型の信託商品です。2018年2月に私募として立ち上げられ、2019年11月から店頭市場で取引が開始されました。その後、近年の市場環境の変化に伴い、投資家のニーズに応える形でETFへの転換も模索されましたが、現在も基本的にはバスケット型信託として運用されています。ファンドは、ビットコイン、イーサリアム、およびその他上位アルトコインでポートフォリオを構成し、時価総額上位約70%をカバーするよう定期的にリバランスが行われています。信託報酬は年率2.5%で、2025年初頭時点の運用資産残高は約6億3000万ドルに達しており、暗号資産市場全体の動向に連動して安定した分散投資を実現しています。
その他派生商品
- グレイスケール・ビットコイン・ミニETF(BTC)
- 2024年7月にNYSE Arcaへ上場しました。GBTCの10%をスピンオフし、小口投資向けに設計されたETFです。手数料は0.15%と低コストで、上場から半年で純資産残高は40億ドルに成長しました。
- グレイスケール・イーサリアム・ミニETF(ETH)
- 2024年7月にNYSE Arcaへ上場しました。ETHEのスピンオフ版で、小口投資向けに設計されています。手数料は0.15%と低く、上場後半年間は一部手数料免除のキャンペーンも実施されました。上場時の総資産は10億ドル規模です。
- グレイスケール・ビットコイン・マイナーズETF(MNRS)
- 2025年1月に上場しました。ビットコイン採掘関連企業の株式に投資するテーマ型ETFです。暗号資産そのものではなく、マイニング産業への投資手段として設計されており、ビットコインの価格変動とは異なるリスク・リターン特性を持っています
商品一覧
2024年から2025年にかけて、アルトコインを対象とした新規の単一資産信託や、ETF(上場投資信託)の提供も進めています。以下の表は、主な最新の商品をまとめたものです(2025年初頭時点のデータ)。各商品の投資対象銘柄、運用資産額(AUM)および管理手数料を示しています。
商品名(ティッカー) | 種別 | 投資対象 | 運用資産額 (AUM) | 管理手数料 |
---|---|---|---|---|
Grayscale Bitcoin ETF (GBTC) | ETF(NYSE上場) | ビットコイン(BTC) | 約2兆4,615億円(約164億1,000万ドル) | 年率 1.50% |
Grayscale Ethereum ETF (ETHE) | ETF(NYSE上場) | イーサリアム(ETH) | 約1兆円(約67億ドル) | 年率 2.50% |
Grayscale Solana Trust (GSOL) | 信託(私募・ETF申請中) | ソラナ(SOL) | 約201億円(約1億3,420万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale XRP Trust | 信託(私募・ETF申請中) | XRP(リップル) | 不明(新規設定・2024年9月再開) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Dogecoin Trust | 信託(私募・ETF申請中) | ドージコイン(DOGE) | 不明(新規設定・2025年1月開始) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Filecoin Trust (FILG) | 信託(OTCQX上場) | ファイルコイン(FIL) | 約94億5,000万円(約6,300万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Chainlink Trust (GLNK) | 信託(私募) | チェーンリンク(LINK) | 約256億8,000万円(約1億7,120万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Zcash Trust (ZCSH) | 信託(OTCQX上場) | ジーキャッシュ(ZEC) | 約218億5,000万円(約1億4,570万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Sui Trust | 信託(私募) | スイ(SUI) | 約193億2,000万円(約1億2,880万ドル) | 年率 2.5% |
Grayscale Avalanche Trust | 信託(私募) | アバランチ(AVAX) | 約25億2,000万円(約1,680万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Aave Trust | 信託(私募) | アーベ(AAVE) | 約20億円(約1,330万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Bittensor Trust | 信託(私募) | ビッテンソル(TAO) | 約10億円(約670万ドル) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale MakerDAO Trust | 信託(私募) | メーカーDAO(MKR) | 不明(新規設定・2024年8月) | 年率 2.5%(推定) |
Grayscale Future of Finance ETF (GFOF) | ETF(NYSE上場) | 暗号資産関連株式の指数 | 約141億円(約9,400万ドル) | 年率 0.70% |
Grayscale Bitcoin Miners ETF (MNRS) | ETF(NYSE上場) | ビットコインマイニング企業株 | 不明(2025年1月新規上場) | 年率 0.75%(推定) |
注: 上記のAUM(運用資産額)は2024年末〜2025年初頭時点の概算値です(1ドル=150円換算)。円換算)。
ただし、グレースケールの信託商品は、主に米国の適格投資家および認定機関投資家を対象に提供されています。適格投資家とは、個人の場合、年間20万ドル以上の収入、もしくは配偶者と合わせて年間30万ドル以上の収入、または100万ドル以上の純資産を保有することが条件となります。事業体としては、500万ドル以上の流動資産を持つか、実質的な事業所有者全員が適格投資家である必要があります。
日本の一般投資家がこれらの信託商品を直接購入することは難しい状況です。また、日本の金融庁は仮想通貨ETFを含む仮想通貨デリバティブ商品の上場を認めておらず、海外で上場しているビットコインETFも日本の一般投資家は直接購入できません。
関連記事:ドージコインETFはいつ承認されるのか?
グレイスケールの動きによる投資家への影響

近年、暗号資産の現物ETF申請が発表されると、該当銘柄の価格が急騰する傾向が強まっています。さらにグレイスケールは、その保有資産規模の大きさから市場に対して強い影響力を持ちます。例えば、2020~2021年の強気相場では、グレースケールがビットコインを大量に買い増し、流通供給が減少したことで価格上昇を後押ししました。また、「Drop Gold」キャンペーンを通じて、新規投資資金を市場に呼び込みました。
暗号資産市場での高騰事例
- ドージコイン(DOGE): 2024年末、グレイスケールがDOGE現物ETFを申請し、SECが審査を開始すると、日本市場で約6%急騰し、0.28ドルに達しました。
- XRP: 2024年9月、グレイスケールがXRP信託を再開すると、発表直後に8%急伸。
- メーカーDAO(MKR): 2024年8月、グレイスケールの信託組成発表後に約25%の価格上昇。
- Sui(SUI): 2024年8月にグレイスケールが信託を設定後、年末までに+428%の急騰。
- ソラナ(SOL): 2024年末、グレイスケールがソラナ信託をSOL現物ETFに転換すると発表し、日本円建て価格が急伸。
このようにグレイスケールのETF申請は米国市場の話題ですが、日本の投資家心理にも大きく影響し、「ETF承認=機関投資家マネー流入期待」と捉えられて買いが集まりやすい傾向があります。
関連記事:SEC、グレースケールのXRPとDOGE ETFに向け前進
日本の投資家がグレイスケール情報を活用するポイント
- 速報への素早い反応
米国のETF申請や承認に関するニュースは、BeInCryptoが早く報じることが多いため、英語のニュースをチェックするとタイムリーな判断が可能です。グレイスケールのプレスリリースや公式X(旧Twitter)も有用な情報源となります。 - 過剰な期待に注意
ETFの申請が承認されるとは限らず、SECの審査には時間がかかるうえ、却下のリスクもあります。高騰局面では短期的な投機資金が流入し価格変動が激しくなるため、飛び乗り買いには注意が必要です。また、噂による急騰後に反落するケース(「噂で買って事実で売る」)も少なくありません。 - 国内市場と海外市場の価格差を確認
日本市場だけが突出して高値となる場合、裁定取引によって価格が修正される傾向があります。グローバル市場では価格がそれほど上昇していない場合、遅れて買うと高値掴みのリスクがあるため、海外相場との価格差も確認しましょう。
一方でグレイスケールが強気のレポートを発表した銘柄であっても、実際に採用や信託の組成に至らなければ、期待外れに終わる可能性があります。投資家はグレイスケールの情報に敏感であることが重要ですが、同時に自身のリサーチを徹底し、分散投資を意識しながら、中長期的な視点で各アルトコインの本質的価値を見極めることが求められます。
グレイスケールの財務状況

グレイスケールは、DCGグループ内で最も重要な収益源の一つであり、2021年にはGBTCの管理報酬だけで約6億1500万ドルを稼ぎ、DCG全体収益の約3分の2を占めています。強気相場の2021年には、年間収益が10億ドル近くに達しました。
しかし、2022~2023年の弱気相場では暗号資産価格の下落とGBTCのディスカウント拡大により新規流入が減少。DCG全体の財務が圧迫されました。それでもグレイスケールは2023年時点でも四半期1億ドル超の収益を維持し、2024年第1四半期にはDCGの総収益2億2900万ドルのうち1億5600万ドルを稼ぎ出しました。これは前年同期比でほぼ横ばいであり、ETF転換後の資産流出をビットコイン・イーサリアムの価格上昇が補った形となっています。
ただし、ETF化により他社との競争が激化し、GBTCから数十億ドル規模の解約流出が発生。2024年初頭には運用資産が50%近く減少しました。しかし、それでもグレイスケールの収益規模は依然として大きく、2024年10月時点でもブラックロックの同種ETFの5倍の収益を上げていると分析されています。これはGBTCの管理手数料(1.50%)がブラックロックのIBIT(0.25%)より高いためです。
また、DCG傘下の貸付事業「ジェネシス」が2023年に破綻した際、DCGは債権者への支払い手段としてグレイスケール信託の保有分を活用する可能性が注目されました。2024年2月にはジェネシス保有のGBTC約3500万株(16億ドル相当)やETHE約800万株の売却が裁判所に承認され、市場動向を見ながら段階的に売却を行なっています。
関連記事:ソラナ(SOL)ETFはいつ承認されるのか?将来性や特徴も解説
まとめ:グレイスケールの動向をキャッチして投資に役立てよう

グレイスケールは世界最大の暗号資産運用会社であり、特にビットコインやイーサリアムを裏付けとする投資信託で市場に大きな影響を与えています。その動向は機関投資家の動きを示す指標となり、ETF承認や資金流出入が相場に直接影響を及ぼすことも少なくありません。近年では信託商品のETF転換が進み、価格乖離の解消や流動性向上が見られる一方、高額な管理手数料が競争を激化させています。日本の投資家にとっては、グレイスケールの発表や規制動向を把握することで、価格変動を先読みする手がかりとなるでしょう。
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