トラスティッド

米国証券取引委員会(SEC)と仮想通貨との関係性は?

26分
投稿者 Shota Oba
編集 Shigeki Mori

ヘッドライン

  • 2025年、政権交代によるSECの方針変更が市場の追い風となり、暗号資産規制の明確化が進んでいます
  • SECの訴訟や規制は、市場に大きな影響を与えます。XRPの裁判勝訴やCoinbase訴訟取り下げのニュースは市場に好感され、大幅な価格上昇を引き起こしました
  • 未登録証券問題や規制強化の発表は市場の急落要因となるため、投資家はSECの動向を注視する必要があります

暗号資産(仮想通貨)業界において、米国証券取引委員会(SEC)の動向は無視できない重要な要素です。特に近年、リップル社のXRPをめぐる「証券」認定問題や、大手取引所Coinbase(コインベース)への規制圧力など、SECと暗号資産業界の衝突が相次いでいました。また、SECのゲンスラー元委員長による厳格な規制姿勢や、政権交代による方針転換など常に暗号資産の話題の中心となっています。

そこで、米SECが暗号資産投資に与える影響や暗号資産そのものとの関係性を解説します。

米国証券取引委員会(SEC)とは?

米国証券取引委員会(SEC)は、1934年に設立された米国の連邦政府機関です。主な役割は、証券市場の監視を通じて投資家を保護し、市場の健全性を維持することにあります。

具体的には、株式や債券、投資信託などを扱う金融機関や上場企業、証券会社に対し、

  • 正しい情報が開示されているか
  • 不正行為が行われていないか

といった点を厳しくチェックする使命を担っています。

強力な権限を持つ市場の監視役

SECは金融市場において強い権限を持ち、違反行為を発見した企業や個人に対して

  • 訴訟を起こす
  • 巨額の罰金を科す
  • 営業停止処分を下す

といった制裁措置を講じることができます。

このため、SECの方針や動向は米国内だけでなく、グローバルな金融市場にも大きな影響を与えます。金融業界の関係者は、SECの動きを最大級の警戒態勢で追い続けています。

関連記事:SEC、暗号資産取引所規制のルール撤廃へ

米国証券取引委員会(SEC)と仮想通貨との関係性は?

SEC議長、ポール・アトキンス、暗号執行

暗号資産は株式や債券とは異なる性質を持ちながらも、投資商品としての側面が強いため、SECは常に「これを証券とみなすかどうか」を検討してきました。例えば、ICO(トークンやコインを新規発行して資金を調達する手法)がブームになった際、多くのプロジェクトが証券に該当するかどうかをめぐりSECと対立しました。

SECが特定の暗号資産を「無登録証券」と認定したり、関係企業に対して訴訟を起こしたりすると、市場参加者が撤退し、大幅な価格下落につながるケースも少なくありません。過去にも、SECの訴訟や規制強化のニュースを受けて、一部の暗号資産が急落した例があります。

SECの規制が暗号資産業界に与える影響

SECは暗号資産事業者に対して、従来の金融商品と同様の情報開示や投資家保護のルールを厳格に求めています。これは投資家にとっては安全対策として評価される一方、新しい技術を急速に発展させたい暗号資産業界にとっては大きな障害ともなり得ます。特にスタートアップや新興プロジェクトにとって、SECの規制が事業の成長を妨げる要因になることもあります。

さらに、SECのスタンスは他の規制当局にも影響を与えます。米国内では、商品先物取引委員会(CFTC)や金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)などが暗号資産の規制に関わっていますが、SECが規制を強化すれば、これらの機関も追随する可能性が高まります。

ETFや金融商品の認可

SECは暗号資産ETFの承認権を持ち、その判断が市場に与える影響は計り知れません。2023年後半には、ブラックロックを含む複数の大手運用会社がETFを申請し、SECの動向によってビットコイン価格が大きく変動しました。SECの決定次第で新たに数兆円規模の需要が生まれる可能性があるため、マーケットは神経を尖らせています。

米国市場の規模と影響力

暗号資産はグローバルな市場ですが、米国は投資家資金量や企業活動の面で最大級のシェアを占めています。そのため、SECの方針が世界の市場心理に直結します。例えば、SECが特定のトークンを証券と認定すると、米国の取引所だけでなく、海外の取引所でも上場停止の動きが広がる可能性があります。実際、XRP訴訟の際には、米国外の取引所でもXRPの取扱停止が相次ぎました。

価格への影響と市場の反応

SECが暗号資産を「証券」と認定した場合、その通貨やトークンを取り扱う取引所が未登録証券の取引を理由に制裁対象となるリスクが高まり、取り扱い停止につながる可能性があります。これが投資家心理に悪影響を及ぼし、売り圧力が強まり、価格の下落を引き起こすこともあります。

一方で、SECが「証券ではない」と判断すれば、その暗号資産に対するポジティブな材料となり、投資家が積極的に買いに動くことで価格が急騰することもあります。SECの決定次第で市場の流れが大きく変わるため、投資家や事業者は常にSECの動向を注視する必要があります。

投資家心理とSEC関連ニュースのインパクト

日付(イベント)SEC動向の内容・ニュース市場の反応・価格への影響
2020年12月22日 「SEC、Ripple社を提訴」XRPは未登録証券と主張しリップル社を提訴。主要取引所がXRP取扱停止。XRP価格が訴訟発表直後から急落し、数週間で約50%下落。提訴から1ヶ月で時価総額3位から5位以下へ転落。
2023年2月9日 「Kraken、SECと和解」KrakenのステーキングサービスをSECが違法証券と指摘し、和解金3000万ドルで合意。Krakenは米国内ステーキング終了。他取引所の独自利回り商品にも縮小圧力。関連するPoS銘柄(ADAやSOLなど)は一時的に下落。
2023年6月5日・6日 「SEC、Binance & Coinbase提訴」世界最大手と米最大手取引所を連日提訴。複数のアルトコインを証券と名指し。市場全体が急落。提訴後1週間でBTCは-5%、ETHは-8%。特に名指しされたSOL -23%、ADA -27%、MATIC -24%と急落。BNBも-18%以上下落。
2023年7月13日 「XRP裁判 判決」裁判所がXRPは二次市場取引において証券でないと判断。業界に大きな前進。XRP価格が当日+75%急騰し、一時1ドルを突破。他のアルトコイン(SOLやADA等)も一斉に二桁%上昇。取引所ではXRP再上場の動きも(Coinbaseが取引再開を表明)。
2024年11月6日 「米大統領選でトランプ氏勝利」新政権での暗号規制緩和期待が高まる。ゲンスラー委員長交代観測。ビットコイン+14%に対し、SEC訴訟で証券視されていたUNI +38%、MATIC +20%とアルトコインが爆発高。ETHも+21%。市場全体の時価総額が数日で10%以上拡大。
2025年3月19日 「SEC、Ripple控訴断念の報」SECがXRP裁判の控訴を取り下げ。4年超の法廷闘争に終止符。XRP価格が報道後に10%以上上昇し、1ドル前後まで回復。業界全体も安堵感から小幅上昇。XRP保有者の法的不安が大きく後退。

SEC関連の発表や訴訟は、投資家の心理を大きく揺さぶります。例えば、2023年6月にSECがCoinbaseとBinanceを提訴した際、ビットコインを含む主要暗号資産は急落しました。一方で、2023年7月のリップル裁判勝訴のニュースではXRPが瞬時に75%急騰し、他のアルトコインも連動して上昇しました。このように、SECの動きは市場の恐怖指数や楽観指数を左右する重要な要素となっています。

関連記事:SECのゲンスラー委員長「暗号資産と証券法に矛盾はない」

これまでのSECの動きと重大イベント

ゲンスラー委員長の強硬路線と背景

2021年4月にSECトップに就任したゲイリー・ゲンスラー氏は、暗号資産を既存の証券法の枠に組み込み、徹底した取り締まる姿勢をとりました。もともとMITでブロックチェーンを教えた経歴から「業界寄りか」と期待された反面、委員長としてはむしろ暗号資産を批判するほど厳しい態度を崩しませんでした。

ゲンスラー氏が特に強調してきたのは、「ビットコインを除くほぼすべての暗号資産は証券だ」という主張です。これが投資家保護を強化する一方で、企業や開発者には“イノベーションの障壁”として映り、米国市場離れを加速させました。

XRP(リップル)訴訟:部分勝利とその余波

SECは2020年末、リップル社の発行するXRPを「未登録証券」とみなし提訴。多くの取引所がXRP上場を停止し、価格が急落する事態になりました。当初からリップル社は「XRPは通貨的機能が中心で、証券には当たらない」と猛反発。どちらの主張が認められるか、暗号資産の法的位置づけを左右する重大訴訟となりました。

部分勝利判決と2025年の決着

2023年7月、地裁は「一般投資家向けの二次市場販売は証券ではない」と判断。これによりXRPは一時70%超も急騰し、市場は“証券リスク”から解放された形となりました。ただし機関投資家向け販売は証券違反に当たると認定され、SECとリップル社の法廷闘争は続行。
しかし2025年3月、SECが控訴を取り下げると報じられ、リップル社CEOも「事実上の終結」と発言。XRPを取り巻く不透明感が大きく払拭され、リップル社は国際送金や金融機関連携の事業を米国で再拡大する方針を打ち出しています。業界ではこれを「turn the tables」と評し、規制の圧力下で落ち込んだプロジェクトが米国回帰を模索する動きが再び高まってきました。

関連記事:SEC、XRPを商品に再分類か

Coinbaseへの圧力:未登録証券問題とステーキング

NASDAQ上場企業でもあるCoinbaseは、米国暗号資産市場の顔とも言える存在。しかし2023年にSECは「無登録証券を仲介している」としてCoinbaseを正式に提訴しました。特にソラナ(SOL)やカルダノ(ADA)など主要アルトコインの取り扱い、そしてステーキングサービスが問題視されました。

Coinbase側は、以前からSECに法的指針を求めていたにもかかわらず、「Regulation by Enforcement」という形で突然訴えられたと強く抗議。CEOのブライアン・アームストロング氏は「何度も協議を申し入れたが、具体的な回答はゼロだった」と公言し、裁判で全面対決を辞さない姿勢を示しました。

2025年の方針転換と米国回帰の兆し

25年2月、SECがCoinbaseへの訴訟取り下げを発表。暗号資産業界は「米国の冬がようやく解ける」と期待をが高まっています。Coinbaseはすでにバミューダなど海外拠点を強化していましたが、訴訟リスクが軽減されるなら本国でもビジネス展開を再開する可能性が高まるとみられています。

関連記事:コインベース、SEC訴訟取り下げで法的障害をクリア

2024年政権交代後のSEC暗号資産に対するスタンスの変化

2024年末の米大統領選挙で政権が交代し、トランプ大統領が復帰したことで、SECの暗号資産に対する厳格な取り締まり方針が大きく緩和されました。

ゲンスラー前委員長の下では、多くの暗号資産を未登録証券と見なす強硬な姿勢が続いていましたが、新政権発足後、ゲンスラー氏は辞任しました。トランプ大統領はポール・アトキンス(元SEC委員)とMark T. Uyeda氏を新たな委員長候補として指名し、承認待ちの間は上田氏がSEC委員長代理に就任しています。

Uyeda氏委員長代理の下、SECはわずか数週間で暗号資産企業に対する高額訴訟を相次いで取り下げるなど、これまでにない寛容な姿勢を示しました。元SEC執行局弁護士のジョン・リード・スターク氏は、この急転換を「SECの執行プログラムを多面的に解体するもので、前例のない変化」と評しています。

同スタンスの緩和は、新政権の方針とも一致しています。トランプ大統領は選挙期間中、「米国を暗号資産の世界的中心地にする」と宣言し、国家戦略としてビットコインの備蓄構築を掲げていました。実際に、就任直後には関連する大統領令に署名し、暗号資産を国家優先事項と位置付けるなど、業界支援的な姿勢を鮮明にしています。これを受け、SECも暗号資産規制でより協調的かつ建設的な路線へと舵を切りました。

暗号資産規制に関する主要な政策変更

2025年1月21日、UyedaSEC委員長代理は「Crypto 2.0」と銘打ち、暗号資産の包括的な規制枠組みを策定するための新たな暗号資産タスクフォースを設立しました。このタスクフォースは、以下の目的を掲げています。

  • 暗号資産の規制範囲の明確化
  • 登録手続の合理化
  • 開示体制の整備

また、業界関係者や専門家の意見を幅広く取り入れる方針を示しており、暗号資産に友好的なヘスター・ピアース委員がリーダーに任命されました。さらに、商品先物取引委員会(CFTC)や州規制当局とも連携し、より実効性のあるルール策定を進めています。

執行頼みのアプローチの見直し

これまでSECは、強制執行(エンフォースメント)による事後規制が中心でしたが、新体制ではこれを見直す動きを見せています。2025年2月には、2017年に設立された暗号資産・サイバー部門を改組し、サイバー・新興技術部門(CETU)へと再編しました。

この新部門は、暗号資産だけを対象にするのではなく、人工知能(AI)、ソーシャルメディア、ブロックチェーンなど、より広範な技術分野における不正行為に取り組む組織となっています。これは、暗号資産だけを特別視した規制方針から一歩引き、よりバランスの取れたアプローチを目指す意向の表れといえます。

業界の声を取り入れる新たな取り組み

SECは、規制の明確化に向けたパブリックコメント(公開協議)の場を設け、業界の声を反映させる動きを始めました。2025年2月21日、ヘスター・ピアース委員は声明を発表し、暗号資産の規制に関する以下のような48項目の論点について広く意見を求めています。

  • 暗号資産の証券該当性
  • SECの管轄範囲
  • トークン発行・流通のルール
  • 市場での二次取引
  • カストディ(資産保管)
  • 暗号資産ETFの扱い
  • トークン化・サンドボックス制度
  • 国際協調の枠組み

ピアース委員は「時間と労力を要するが、投資家・事業者・学界など幅広い関係者の意見を募りつつ、迅速に進めたい」と述べており、規制の透明性向上と業界の健全な発展を目指す姿勢がうかがえます。

ガイダンスの見直しと法解釈の再評価

新政権下のSECは、個別ガイダンスの見直しにも着手しています。例えば、SECの企業財務局(CorpFin)は最近、ミームコインに関する見解を公表し、「ミームコインの提供・販売は投資契約上の共通事業への出資に該当せず、利益期待も合理的とは言えない」と指摘しました。

これは、ミームコインが証券に該当しないとの判断を示したものであり、従来のHoweyテスト(証券性を判断する基準)の適用を見直す動きとも捉えられます。SEC内部では、これまでの法解釈を再評価する兆しが見られ、規制方針の柔軟化が進んでいることがうかがえます。

SEC方向転換の暗号資産業界への影響

SECの規制方針の明確化と緩和が、暗号資産業界全体に追い風を吹かせ、米国市場での事業活動の活性化につながっていると報じられています。規制環境の改善に伴い、米国内での資金調達がしやすくなっている中、一部のプロジェクトが米国市場への参入や事業展開を強化する動きが見られます。

また、ロビンフッドなどの主要な取引所は、ミームトークンをはじめとする新たな銘柄の上場を積極的に進め、サービス拡充を図っています。さらに、銀行や証券会社もカストディ業務やOTCデスクの開設に乗り出しており、暗号資産と伝統金融の融合が着実に進んでいる状況です。

こうした流れから、米国市場が再び主導権を握るとの見方が強まり、ブロックチェーンやWeb3関連ビジネスの競争力回復が期待されています。

まとめ:2025年以降、米国の暗号資産規制は転換期へ

2025年以降、米国の暗号資産規制は大きな変化を迎える可能性があります。政権交代により、SECの厳しい規制姿勢が和らぎ、市場にとって追い風となるでしょう。これまでの曖昧な規制環境がこのまま続くことはなく、最終的にはクリアなガイドラインが示されるとみられています。その過程で市場の変動は避けられませんが、長期的には暗号資産が社会に定着する流れと捉えることもできます。

個人投資家にとって重要なのは、規制を敵視するのではなく、味方につけることです。規制動向を学び、それを投資判断に活かすことで、市場の混乱期でも冷静に立ち回ることができるでしょう。

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国際関係の大学在籍中に国内ブロックチェーンメディアでのインターンを経て、2つの海外暗号資産取引所にてインターントレーニング生として従事。現在は、ジャーナリストとしてテクニカル、ファンダメンタル分析を問わずに日本暗号資産市場を中心に分析を行う。暗号資産取引は2021年より行っており、経済・社会情勢にも興味を持つ。
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