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米国のビットコイン準備金は2025年に導入されるのか?

23 mins
更新 Shota Oba

ヘッドライン

  • 米国はビットコインを国家備蓄資産とする計画を進め、最大100万BTCの保有を目指す。トランプ政権は2025年前半に大統領令で施行する可能性があります
  • 同政策は、財政安定やインフレ対策、中国との競争力強化を目的とする一方、市場の価格変動リスクや政府の介入による影響が懸念されています
  • 法案は議会承認と大統領令の2つのルートで成立可能です。大統領令は迅速な導入が可能だが、政権交代で撤回のリスクがあるため、長期的な影響が注目されています

世界経済が急激に変化する中、米国は新たな金融戦略としてビットコイン(BTC)の国家備蓄を検討し始めています。ドナルド・トランプ氏が提案した「国家戦略ビットコイン準備金」は、約36兆ドルにも及ぶ国債問題の解決策の1つとして、政府がビットコインを戦略的資産として保有する計画です。専門家などの予想によれば、法案は2025年前半にも大統領令によって施行される可能性があり、議会承認ルートを経る場合でも2026年後半には成立する見通しです。

本稿では、米国のビットコイン準備金の背景や目的、今後の見通しや導入時期について初心者にもわかりやすく解説します。

そもそも戦略的備蓄とは何か?

トランプ

戦略的備蓄とは、危機や供給途絶時に備えて確保される重要な資源のストックを指します。代表的な例として、米国戦略石油備蓄(SPR)があり、1973~74年のアラブ石油禁輸措置による経済打撃を受け、1975年に設立されました。

歴代の米国大統領は、戦争時やハリケーンなどによるインフラ被害時にSPRを活用し、市場の安定を図ってきた経緯があります。また、他国における戦略的備蓄の例としては:

  • カナダ:世界唯一のメープルシロップの戦略的備蓄を管理
  • 中国:金属、穀物、豚肉製品などの備蓄を保持

戦略的備蓄は、エネルギーだけでなく、食料や貴金属などの経済的に重要な資源にも適用され、国家の安定を支える重要な役割を果たしています。

関連記事:ビットコインを政府の準備金として採用?|今後のシナリオは?

米国のビットコイン準備金政策とは?

ドナルド・トランプ大統領が発表した「国家戦略ビットコイン準備金」は、米国の経済戦略の一環として提案された構想であり、ビットコインを金融システムに統合し、約36兆ドルに及ぶ国債問題の解決策を模索するものです。

この計画では、連邦政府が5年間にわたり毎年最大20万BTCを取得し、最終的に100万BTC、つまりビットコインの総供給量の約5%を保有することを目指しています。さらに、政府が犯罪関連で押収したビットコインを売却せず保有し続けることで、既存の約20万BTCを基盤とし、戦略的な国家準備金として活用する方針です。同計画では最低でも20年のBTCの継続的保有を目的としています。トランプ氏は同計画に関して以下のように語っています:

ビットコイン備蓄は、中国との競争が激化する中で、米国がグローバルなビットコイン市場を支配するのに役立つでしょう

ドナルド・トランプ大統領

この提案は、シンシア・ルミス上院議員が導入した「ビットコイン法」と連携しており、米国財務省が管理する分散型ビットコイン保管ネットワークの構築を含んでいます。同議員は、自身のビットコイン準備金法案に両党の支持を得ており、州レベルの代表者も賛同していると述べています。また、同議員は11月に、トランプ大統領の再選を契機に、最初の100日以内に国家ビットコイン準備法案を通過させると明言しました。ロイター通信によれば、同氏は個人的にも5ビットコインを保有しています。

支持者は、この準備金が米ドルの基軸通貨としての地位を強化し、経済的不安定性へのリスクヘッジ(回避手段)として機能すると考えています。また、米国の財政健全性の向上や国家債務の削減に貢献する可能性があると期待されています。

ビットコイン準備金を設立する米国各州の進展 出典: Bitcoin Laws

暗号資産担当官のデイビッド・サックス氏によると、新たに設立されたデジタル資産作業部会の最優先課題は、ビットコイン準備金の導入計画の評価です。本稿執筆現在、米国内の15州がビットコインを戦略的準備資産として採用するプロセスを進めており、トランプ政権の重要政策の一環として、国家レベルでのビットコイン準備金の構築が進められています。米国のビットコイン採用の動きは準備金だけではなく、各州の年金機構らのETFを通じた投資なども行われています。

関連記事:サックス暗号資産特命官が記者会見=ビットコイン準備金、ステーブルコインなどについて語る

ビットコイン準備金備蓄のメリットとデメリット

項目メリットデメリット
国際競争力米国がビットコイン市場での優位性を確保し、競争力を強化できる。ビットコインは実体経済で不可欠な資源ではなく、内在的価値が乏しい。
財政政策長期的な価格上昇を前提に、増税せずに政府の債務を削減可能。価格変動が激しく、政府の取引が市場に過度な影響を与える可能性がある。
インフレ対策ビットコインの保有により、通貨価値の下落を防ぐ効果が期待される。政府が大量に保有・売却することで、市場の安定性を損なう危険がある。
米ドルの地位維持米ドルの信頼性を強化し、国際金融市場での地位を維持できる。2008年に誕生した新しい資産であり、長期的な価値保証がない。
対外交渉力中国やロシアとの競争において、米国が有利な立場を確保できる。暗号資産ウォレットはハッキングの標的になりやすく、資産流出のリスクがある。

米国のビットコイン準備金は2025年に導入されるのか?

米国のビットコイン準備金法案は、議会承認ルートと大統領令の2つの方法で成立する可能性があります。議会を通す場合、上院と下院の審議や調整が必要となり、通常1〜2年かかるため、早くても2026年後半の成立が見込まれます。一方、大統領令を活用すれば、議会の承認を待たずに2025年前半にも施行可能ですが、政権交代などが発生した場合にリスクが伴います。2024年7月に提出された「BITCOIN Act of 2024」は現在委員会審議中であり、トランプ政権は1月にデジタル資産作業部会を設立し、準備金制度の評価を進めています。

1月20日時点で分散型予測市場PolyMarketでは就任100日以内での同法案の承認を予測している人は59%までに上っています。起業家のイーロンマスク氏は同プラットフォームの制度について、金銭が絡んでいることから、正確性は高いと指摘していました。

暗号資産関連大統領による影響

2025年1月24日、トランプ大統領は「デジタル資産市場に関する大統領作業部会」の設立を命じる大統領令に署名しました。この作業部会は、戦略的国家デジタル資産備蓄(仮称)の導入可能性を検討することを含め、暗号資産(仮想通貨)とデジタル資産市場全般に関する新たな政策策定を目的としています。

作業部会の主な任務

本作業部会は、デジタル資産市場の発展と規制のバランスを取るため、以下の課題に取り組みます。

  • デジタル資産の包括的な連邦規制枠組みの構築
    ステーブルコインを含むデジタル資産の市場環境を整備し、明確なルールを策定。
  • 戦略的国家デジタル資産備蓄(仮称)の可能性を検討
    政府が暗号資産を備蓄する意義や方法、財務的な影響を評価し、提案を行う。
  • 既存の規制の見直しと仮想通貨市場への圧力緩和
    過去の規制や行政命令の中で、「技術革新を阻害している」とされる要素を撤回または修正。
  • CBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行禁止
    連邦政府機関に対し、CBDCの開発・推進を禁止する方針を明確化し、仮想通貨政策に関する勧告を義務付ける。

作業部会の構成と参加メンバー

同作業部会は、ホワイトハウスのAI・仮想通貨政策責任者であるデビッド・サックス氏を議長とし、以下の主要機関の幹部が参加します。

  • 財務長官
  • 証券取引委員会(SEC)委員長
  • 商品先物取引委員会(CFTC)委員長
  • 連邦準備制度理事会(FRB)代表

さらに、政策の専門性を高めるため、民間セクターから10~100名規模の専門家が招致される予定です。これには、暗号資産業界のリーダー、規制の専門家、学識経験者などが含まれる見込みです。同大統領令により、ビットコイン準備金法案可決へのプロセスが明確かつ簡素化される可能性もあります。

関連記事:トランプ氏、デジタル資産備蓄の大統領令に署名

米国ビットコイン準備金法案の承認プロセスとタイムライン

米国の法案は通常、以下のような手続きを経承認されます。

ステップ内容想定期間
法案提出2024年7月31日、上院に「BITCOIN Act of 2024」が提出されました。即日
委員会審議銀行・住宅・都市問題委員会で公聴会が開かれ、必要に応じて修正が加えられます。数ヶ月~1年
上院本会議での採決上院全体で審議・採決が行われ、可決されれば下院へ送付されます。数週間~数ヶ月
下院での審議・採決下院でも同様の手続きを実施し、可決されれば最終調整へ進みます。数週間~数ヶ月
合同委員会(必要時)上下院で異なる内容がある場合、合同委員会で調整し統一案を作成します。数週間
大統領署名両院で可決された法案が大統領に送付され、署名を経て法律として成立します。即日~数週間

委員会での審議が最も時間を要する可能性があり、法案成立のボトルネックとなることが多いです。また、上下院での内容調整が必要な場合、合同委員会での協議に時間がかかることがあります。

行政命令による代替手段

法案の可決を待たずに、大統領が行政命令(Executive Order)を発することで、議会承認なしにビットコイン準備金を設立することも可能です。この場合、通常数ヶ月以内に施行され、最短で2025年前半にも実施される可能性があります。ただし、次期政権で撤回されるリスクがあるため、法的安定性は低いと考えられます。

タイムラインの見通し

承認方法想定期間実施時期の見込み安定性
議会承認ルート1〜2年(審議・調整次第)最短2026年後半高い(法律として成立)
行政命令ルート数ヶ月以内最短2025年前半低い(政権交代で変更・撤回の可能性あり)

議会を通じた立法手続きでは、審議や政治的交渉の影響を受けるため、1〜2年を要することが一般的です。ただし、これは通常の法案承認プロセスに基づいた目安であり、政治的な優先度や合意の進み具合によって前後する可能性があります。一方、行政命令を活用すれば大幅に短縮され、2025年前半にも実施される可能性があります。

関連記事:ビットコイン投資を行うメタプラネットとは?

ビットコイン準備金に関する専門家の見解は?

ロバート・キヨサキ ビットコイン

元ホワイトハウス広報部長のアンソニー・スカラムーチ氏は、戦略的ビットコイン準備金構想が今後2年以内に議会を通過する可能性がある予測しています。

その根拠として、

  • 下院議員の任期が2年であり、再選を狙う議員が仮想通貨支持層を意識する可能性
  • 40~50代を中心に仮想通貨支持派の議員が増加し、超党派の支持を得る見込み
  • トランプ政権の初期100日間での大統領令発令により、法整備が加速する可能性

これらを挙げ、2025年11月までに法案が成立する可能性が高いと述べています。

サイバー法・デジタルメディア弁護士のアンドリュー・ロッソウ氏は、米国の戦略的ビットコイン準備金の設立について、今後2年以内(2027年まで)に議会を通過する可能性がある予測しています。

BITCOIN法案は、特に強い反対がなければ、10~12か月以内に承認される可能性があります。しかし、議会での政治的な駆け引きや優先事項の変化により、2年ほどかかる可能性もあります

アンドリュー・ロッソウ|サイバー法・デジタルメディア弁護士

懸念の声も

世界中央銀行は24年9月、各国政治家の相次ぐビットコイン準備金政策の表明を受け懸念を表明しました。同行はブログで以下のように語っています

中央銀行が保有する外貨準備資産としては、現時点で暗号資産は適していない。外貨準備資産は、経済的・金融的安定を保つための「保険」として機能し、安全性や流動性が最も重要視される。暗号資産はこれらの基準を満たしておらず、中央銀行が求める保守的な投資方針には適合していない状況だ

世界銀行

資産運用最大手のブラックロックは、ビットコイン準備金の構想に対し慎重な姿勢を示しています。Foxビジネスの記者であるエレノア・テレット氏によると、同社はこの計画に対して懐疑的な見方を持っていると報じられています:

ブラックロックに近い情報筋によれば、最近の報告にもかかわらず、同社は米国の戦略的BTC準備を支持していないとFoxビジネスに伝えられています

エレノア・テレット氏|Foxビジネス

関連記事:VanEck、ビットコイン準備の国家戦略を推進=ブラックロックは懐疑的

暗号資産関連法の専門家であり、ケーヒル・ゴードン&ラインデル法律事務所のパートナーを務めるルイス・R・コーエン氏は、BeInCryptoの独占インタビューで次のように語りました:

正直なところ、暗号資産を米国で戦略的準備資産として使うというアイデアに幅広い支持が得られるかどうかについてはかなり懐疑的で、それが良いアイデアだとも確信していない。もし私がビットコイン支持者だったら、政府が大量のビットコインを管理することを一番望まないだろう

ルイス・R・コーエン氏

コーエン氏は、トランプ氏が現在ビットコインを支持していたとしても、次の政権が同様の姿勢を取らなければ、大量のビットコインが市場に放出され、価格の急落や混乱を引き起こす可能性があると指摘しています。

関連記事:トランプ2.0の暗号資産規制展望 – トップ弁護士が解説

まとめ:ビットコイン準備金法案の行方に今後も注目

ドナルド・トランプ クリプト業界 ブラジル、トランプメディア

米国の「国家戦略ビットコイン準備金」は、経済安定や国際競争力強化を目的とした新たな試みとして注目されています。法案は2025年前半にも大統領令で施行される可能性があり、議会承認ルートを経る場合は2026年後半が見込まれています。賛否が分かれる中、政府の市場介入がもたらす影響や、長期的な価値の保証が問われています。今後の政治動向や市場の反応が、米国の暗号資産政策の方向性を左右することになるでしょう。

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国際関係の大学在籍中に国内ブロックチェーンメディアでのインターンを経て、2つの海外暗号資産取引所にてインターントレーニング生として従事。現在は、ジャーナリストとしてテクニカル、ファンダメンタル分析を問わずに日本暗号資産市場を中心に分析を行う。暗号資産取引は2021年より行っており、経済・社会情勢にも興味を持つ。
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