作詞家・プロデューサーの秋元康氏が、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のブロックチェーン開発チームと協業し、新たな暗号資産(トークン)を発行することが20日、明らかになった。同プロジェクトは、日本のエンターテインメントコンテンツをブロックチェーン技術で国際展開することを目的としており、トークン発行会社として株式会社AKBT(Akimoto Base Token)を設立した。
発行されるトークン「AYET」(AKIMOTO YASUSHI ENTERTAINMENT TOKEN)は、既存のファンクラブやコンテンツビジネスの収益モデルを一新する「新しいファン体験のインフラ」として機能することを目指す。エンタメ業界の第一人者と米大学の技術チームが連携することで、日本のコンテンツ市場におけるWeb3.0導入の動向が注目される。
「AYET」を通じた国際展開の戦略
AYETトークン発行を担う株式会社AKBTは、UCLAブロックチェーン「BC48Chain」開発チーム(代表 Cheryl Asahi氏)と暗号資産事業で協業する日本直販株式会社が設立した。秋元氏はこのプロジェクトへの参画を快諾、AKBTは同氏を中心としたエンタメ関連事業を展開する計画だ。
Sponsored調達した資金は、映画やテレビ番組との連携、ショート動画の制作・配信、そしてNFT等のWeb3.0コンテンツの提供といった広範な国際展開に充当される。特に、米国など海外でのエンターテインメント系イベントへの出演支援も視野に入れる。
秋元氏はAYETについて、投機を目的としたものではなく、作品づくりやクリエイターを継続的に応援できる基盤づくりに資するものだと説明している。
さらに、日本直販が抱える1,200万人の顧客ネットワークに対し、AYETによる商品購入が可能な決済システムを構築する構想も示している。これは、AYETを単なるファントークンに留めず、実用性の高いユーティリティトークンとして市場に定着させようとする強い意図が窺える。既存の大規模ECネットワークと暗号資産決済を直結させる試みは、日本市場において革新的な事例となる可能性を秘めている。
Web3.0市場の現状と先行事例
近年、日本の「推し活」市場は8000億円超と推計され、デジタル技術の普及に伴い、ファンビジネスにおけるWeb3.0の導入が加速している。アイドルやコンテンツ分野では、既に「ニッポンアイドルトークン(NIDT)」のような先行事例が存在し、ブロックチェーン技術を用いた新たな資金調達やコミュニティ形成が進められてきた。
しかしながら、国内で発行されるエンタメ系トークンの多くは、流動性の低さや明確なユーティリティ(実用性)の欠如が課題として指摘されてきた経緯がある。AYETプロジェクトが掲げる、日本直販の顧客層への決済システム導入は、このユーティリティの課題克服に向けた具体的な戦略であり、実需に基づくトークン経済圏の構築を目指すものとして、その成否が注目される。
プロジェクトが成功するためには、ファンエンゲージメントをいかに維持し、トークンの利用機会を継続的に提供できるかが鍵となる。また、同氏が手がける多岐にわたるエンタメコンテンツとの連携を速やかに実現し、トークンホルダーへの明確な価値還元を示すことが求められる。
法規制と技術提携の背景
AYETが暗号資産として機能するにあたり、発行会社であるAKBTは、日本の厳しい金融商品取引法(金商法)および資金決済に関する法律(決済サービス法)に準拠したスキームを構築する必要がある。トークンが投資性を帯びる場合や、不特定の第三者への譲渡を可能とする場合、厳格な規制対象となるため、プロジェクトの透明性やコンプライアンス体制が重要となる。特に、投機目的ではない「インフラ」としての利用を目指すという秋元氏のビジョンを法的に実現するためには、高度な設計が不可欠である。
今回、UCLAのブロックチェーン開発チームが技術的なバックボーンを担う点は特筆に値する。BC48Chainの具体的な技術仕様は公表されていないものの、世界的に権威のある米国の学術機関との連携は、プロジェクトに対する技術的な信頼性と国際的な認知度を高める効果が期待できる。これは、将来的なグローバル展開や、米国を中心とする国際市場でのコンプライアンス対応を見据えた布石であると見られる。日本の著名プロデューサーと米国の技術力が融合することで、Web3.0時代におけるコンテンツビジネスの新たな国際標準が確立されるか、市場の関心が高まっている。