長年にわたる貯蓄の喪失がアルゼンチン国民にドル買いを教えた。経済学者マルティン・テタス氏は、インフレが収束した後でもペソへの信頼回復には数年を要すると指摘する。
アルゼンチンの預金者は、銀行で10年利息を得ても購買力の半分以上を失う可能性がある。政府がインフレの改善を発表しても、この経験は簡単に忘れられない。
BeInCrypto Intelligenceの Exodus Economy によれば、ペソ建て定期預金の購買力は2016年6月から2026年6月までに開始時の44%に留まった。1万ドル相当のペソ現金を保有していた場合、10年後には約114ドル相当の価値しか残らなかった。
BeInCryptoの取材に対し、アルゼンチンの経済学者で元下院議員の マルティン・テタス氏 は、ドルへの執着が生じた背景について語った。
「ドル需要は実質的に保険の購入と同じだ。自動車保険を買うのと似ている。この習慣は身につくものであり、やめるには時間がかかる。」
このレポートが示す10年間の比較は、なぜ預金者が他の選択肢を探したのかを明確にする。アルゼンチンではドル現金が購買力の74%を維持した。
米国債の短期利回りに連動するドルは購買力の94%を維持した。一方、ブラジルのCDI連動型預金は現地購買力を50%増やした。
ドル現金も10年間で購買力を減らしたが、アルゼンチンではペソの選択肢がさらに悪化した。
ペソ復権の可能性
ハビエル・ミレイ大統領の下、2024年4月の約289%というピークを大きく下回る水準まで年間インフレ率は低下している。 INDECの直近データ によれば、2026年7月時点の年率は33.8%。月次インフレ率も6月の1.9%から7月には2.1%へやや上昇し、依然として価格の上昇圧力が残る。
テタス氏は、こうした改善後もドル選好がしばらくは続くとみている。
「まずインフレを抑える必要がある。その後インフレがなくなっても、安定が定着するまで少なくとも7~8年は、ドル需要が高止まりするだろう」とテタス氏は述べた。
それが信頼が回復するまでに必要な期間という。同氏は、国民が今回の改善が政権交代後も続くと信じられるようになった時点で、長期的な資金の預け入れを再開すると見ている。
ドル購入の容易化
レポートはもう一つの大きな変化を示している。公式レートと並行市場でのドル購入コスト差は、2023年の150%超から2026年7月には約2%まで縮小した。
これにより、事実上ドル入手コストが低下したことになる。ただしこの縮小だけでは、ドル保有志向がどの程度弱まったかを直接示すものではない。
危機に起因するドル需要が一部で和らいでいる兆候はある。a16z cryptoが8月30日に 公表 したDeel給与データによれば、米ドル連動ステーブルコインUSDCで報酬を受け取るアルゼンチン人請負業者の割合は、インフレの落ち着きとともに減少し、その後横ばいとなった。このデータはDeel利用者の一部であり、全国的にペソ預金が戻っているとは断言できない。
デジタルドルがいかに身近になったかもレポートは示している。アルゼンチンのウォレット「Lemon」では、2026年上半期の平均出金額が544ドル、月間中央値は150ドルから270ドル。これは一般的な所得層でも手が届く水準だ。
テタス氏は、ペソが安定すれば日常用途の一部は取り戻せるとみる。
「安定が戻れば、短期・中期の契約はすべてペソ建てに戻り、経済全体の多くのドル建て契約も解消されるだろう」
同氏は、住宅ローンのような長期契約ではインフレ連動型の仕組みが残る可能性を指摘。ドル収入層はドル建て賃貸を引き続き選ぶ可能性が高いとみている。
したがって、アルゼンチンはすべての国民にドル放棄を促さなくても、ペソへの信頼を部分的に回復できる。家計にとって「来月の支払い」へのペソ利用は「10年の貯蓄」を委ねるよりもはるかに小さな決断となる。









