東証スタンダード上場企業クシムは27日、新たにブロックチェーン技術の研究開発組織Kushim Labsを設置し、レイヤー2プロトコルを手掛けるINTMAXとの提携を発表した。日本企業が“研究所型”のWeb3参入を志向する異例の動きは、国内Web3市場の競争構造や技術人材育成の在り方にも示唆を与えようとしている。
なぜ「研究所型」か―クシムの戦略転換
クシムは11月27日付で、ブロックチェーン分野における基盤技術の研究開発を目的とした組織「Kushim Labs」の創設をIRで正式に発表した。従来のWeb3参入企業の多くはアプリケーションの提供やトークン発行によるサービス展開を主眼としていたが、クシムはあえて「基盤層(インフラ)技術」の研究を主軸に据える。これにより、独自インフラの開発、外部技術の実装・検証、あるいは技術ライセンス供与といった中長期的な収益機会の確保を狙う構えだ。
日本において、こうした“研究主導型”のWeb3アプローチは珍しく、従来の「ベンチャーがアプリで勝負」「既存企業のトークンビジネス参入」というフローとは明確に異なる。クシムの今回の決断は、Web3の成熟を見据えた「日本型R&Dモデル」の先鞭をつける可能性を持つ。
INTMAX提携と国内Web3のインフラ競争
Kushim Labsは、すでにレイヤー2プロトコルであるINTMAXとの提携を併せて発表した。INTMAXはスケーラビリティ改善などを目的としたプロトコルで、これを日本国内で実装・展開することで、手数料低減や高速処理など、ユーザー目線でのWeb3実用性向上を目指すという。
この動きは、2025年現在、国内でも増えつつあるWeb3企業群の中で、基盤インフラを自社で手がけようという先行例となる。国内のWeb3スタートアップや既存大企業の参画例を多数紹介した最近の業界リポートもある。
また、政策面でも、ブロックチェーンは次世代インターネット「Web3」の中核技術と位置づけられつつある。政府や関連機関が調査研究を進める中で、企業側からのR&D投資が増えることは、インフラ整備の加速につながる可能性を秘める。
株価反応にみる市場の評価と今後の懸念点
IR発表を受け、27日のクシム株は前日終値229円から終値245円まで上昇し、上昇率は約+6.99%となった。出来高も通常の数倍に膨らみ、投資家の関心の高さが浮き彫りとなった。
しかしながら、基盤技術の研究・開発は容易ではない。まず技術人材の確保と育成が課題だ。日本国内ではWeb3人材の需給ギャップが指摘されており、研究所設立だけでは人材流入の保証はない。さらに、レイヤー2やブロックチェーン基盤での収益化モデルは、ノード運用報酬、ライセンス提供、インフラ受託など多様な選択肢があるが、どれが実効性あるかは未知数である。実用化・普及までに時間がかかる可能性もある。
加えて、国内外で規制や法整備の動きが強まるなか、企業が基盤として扱うネットワークの透明性・セキュリティ・コンプライアンスは今後、重要な論点となる。結果として、クシムのような“研究所型”Web3企業の存続可能性は、単なる技術力だけでなく、ガバナンスや規制対応力にも左右されるだろう。