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暗号資産の税金には抜け道がある?正しい節税方法と注意点

23 mins
更新 Shota Oba

ヘッドライン

  • 日本の暗号資産取引の税制は「雑所得」に分類され、累進課税が適用されるため、最高税率は55%に達し、税負担が重い点が特徴です
  • 法人化や損益の活用などの合法的な節税手段がある一方、完全な税金回避は不可能で、取引履歴の正確な管理が求められます
  • 他国と比べて日本の暗号資産税制は複雑かつ高税率で、投資家流出や競争力低下を招く要因となっており、改革が求められる状況にあります

暗号資産の利益が想像以上に多くなった際、「税金の負担が重すぎる」と感じることは少なくありません。日本の税制が暗号資産取引にどのように適用されるのか、抜け道は存在するのか、合法的な節税方法は何かなどの疑問を持つことは必然的と言えるでしょう。

本稿では、暗号資産取引における税金の抜け道の有無や、適切な納税や節税の方法について解説します。また、海外取引所利用時のリスクや日本と海外の税制比較、さらに今後の税制改正の可能性についても触れ、最新情報をお届けします。

暗号資産全般の課税対象と仕組み

暗号資産は「雑所得」に分類される

日本では、暗号資産取引で得た所得は原則「雑所得」として扱われます。この所得区分により、他の所得(給与所得や事業所得など)と合算され、累進課税が適用されます。所得税率は5%から45%、さらに住民税10%が加算され、最高税率は55%に達します。

暗号資産の課税対象となるのは以下のような場合です:

  • 暗号資産を売却して得た利益
  • 他の暗号資産(仮想通貨やNFT)との交換による利益
  • 暗号資産を使用して商品やサービスを購入
  • ステーキング報酬、レンディング報酬、エアドロップ報酬などの受け取り

関連記事:仮想通貨の税金計算方法と、おすすめツール

NFT(非代替性トークン)の課税

NFTは仮想通貨とは異なり、特定のデジタル資産(アート、音楽、ゲームアイテムなど)を表すトークンです。しかし、日本の税法上では、NFTも暗号資産と同様に扱われ、課税対象になります。

具体的な課税ポイントは以下の通りです:

  • 購入時の課税:NFTを仮想通貨(例:ETH)で購入する際、仮想通貨の時価評価額が課税対象となります。たとえば、1ETHを50万円の時点でNFTに交換した場合、購入時点でのETHの取得額との差額が課税されます。
  • 売却時の課税:NFTを売却して得た利益も課税対象です。購入価格と売却価格の差額が所得として計算されます。
  • ロイヤリティ収入:クリエイターがNFTの販売や2次流通で得たロイヤリティも課税対象となります。

NFTに関しては、仮想通貨以上に取引履歴の正確な記録が必要です。OpenSea、Raribleなど異なるプラットフォーム間での取引が増えると、記録の統合が煩雑になります。取引データを定期的にダウンロードし、帳簿として整理することが重要です。

累進課税と実際の納税額

暗号資産取引の所得には累進課税が適用されます。税率は所得額に応じて5%から45%まで段階的に増加し、さらに住民税10%が加算されます。ただし、課税対象は利益そのものではなく、控除や経費を差し引いた後の「課税所得」が基準となります。

課税所得金額(円)税率控除額
1,000~1,949,0005%0円
1,950,000~3,299,00010%97,500円
3,300,000~6,949,00020%427,500円
6,950,000~8,999,00023%636,000円
9,000,000~17,999,00033%1,536,000円
18,000,000~39,999,00040%2,796,000円
40,000,000以上45%4,796,000円

関連記事:暗号通貨の税金が発生するタイミングと注意点

課税額の計算例

以下は、年収700万円の給与所得者が暗号資産取引で300万円の利益を得た場合の例です。

  1. 合計所得:
    700万円(給与所得) + 300万円(暗号資産取引の利益) = 1,000万円
  2. 課税所得:
    1,000万円 – 各種控除(例: 200万円) = 800万円
  3. 所得税額:
    • 所得税率: 23%
    • 所得税額: 800万円 × 23% – 控除額(63.6万円) = 120.4万円
  4. 住民税:
    • 税率: 10%
    • 住民税額: 800万円 × 10% = 80万円
  5. 合計納税額:
    120.4万円(所得税) + 80万円(住民税) = 200.4万円

注意点

この例では、利益全額に税金がかかるように見えますが、実際には控除や経費の計上により、課税対象となる金額は利益の一部に限定されます。そのため、納税額は利益よりも低くなるケースが一般的です。

世界的な税率の概要

Coincubの報告書によれば、長期保有による個人の暗号資産利益に対する平均税率は11.12%、短期保有では17.3%となっています。これは、従来の投資に対する平均的なキャピタルゲイン税率19.6%を下回っています。しかし、国によって税制は大きく異なります。2023年の推定によれば、北米は約20億ドル、ヨーロッパは約15億ドル、アジアは約8億ドルの暗号資産関連の税収を上げています。特に、インドは暗号資産利益に対して一律30%の税率を課し、昨年は3億ドル以上の税収を上げたと推定されています。

関連記事:新経連、暗号資産を含む税制改正案を政府に提言

暗号資産(仮想通貨)の税金の抜け道はある?|正しい節税方法とは

基本的に税金に抜け道などは存在しませんが、合法的に税負担を軽減する方法はいくつかあります。

節税方法1:含み損の活用

暗号資産の価格が購入時よりも下落している場合、その損失を確定させることで他の利益と相殺し、課税所得を減少させることが可能です。

節税方法2:利益確定の分散

利益を一度に確定させるのではなく、複数年に分散することで累進課税の影響を和らげることができます。たとえば、年間20万円以下の利益に抑えることで、確定申告を不要にすることも可能です。

節税方法3:経費計上

暗号資産取引にかかった費用を経費として申告することで課税所得を減らせます。経費として認められる主な項目は以下の通りです。

  • 取引手数料
  • 仮想通貨関連の書籍代
  • パソコンやウォレットの購入費用

節税方法4:法人化

取引規模が大きい場合、法人化することで税率を低く抑えることが可能です。法人税率は約30%であり、個人所得税(最大55%)よりも低く設定されています。ただし、法人化には設立費用や維持コストがかかる点に留意する必要があります。

関連記事:米デトロイト市、税金や公共料金の支払いで暗号資産を受け入れへ

海外取引所を使った場合のリスクと課税ルール

海外取引所を利用しても課税は不可避

「海外の取引所を使えば税金がかからないのでは?」という誤解を持つ方がいますが、課税されるのは居住国(どこに住んでいるか)が対象となり、日本国内外を問わず日本に居住している間に所得した金額に課税されます。。特に日本は、多くの国と租税条約を締結しており、海外取引所での取引履歴も税務当局が確認できる可能性があります。

日本の国税庁と租税条約の影響

租税条約に基づき、日本はOECD加盟国を中心に、多くの国と情報を共有しています。このため、シンガポールやセーシェル共和国などの仮想通貨取引所所在地も税務調査の対象地域に含まれます。さらに、取引履歴を通じて国内の銀行口座に資金が流入する際にも、その記録が調査対象となる可能性があります。

ブロックチェーン技術の透明性と影響

暗号資産の取引は、ブロックチェーン上に記録され、透明性が高いため、取引追跡が容易です。これにより、海外取引所や分散型取引所(DEX)を利用した取引も税務当局によって把握されるリスクがあります。

また、OECDは、2026年から48か国の暗号資産サービスプロバイダー(CASP)に対し、詳細な取引情報の収集と報告を義務付けるCARFを導入します。これにより、国際的な税務当局間での情報共有が進み、透明性が向上します。この新たな枠組みは、個々の投資家に対しても、従来の金融機関と同様の厳格な報告義務を課すことになります。24年11月現在、個人の暗号資産投資家のうち、税制を積極的に遵守しているのは2%未満とされています。しかし、CARFの導入により、世界的な執行が強化され、遵守率は50%以上に上昇する可能性があります。

関連記事:金融庁、KuCoin、Bybit、Bitgetなどに無登録営業警告

暗号資産の税金の抜け道はない!|国税庁は取り締まりを強化

国税庁は「令和5事務年度 所得税および消費税調査等の状況」を公表し、暗号資産に関連する税務調査の現状が注目を集めています。この報告では、インターネット取引の調査対象として暗号資産が取り上げられ、国税庁がこの分野を重点的に監視している姿勢が浮き彫りになりました。

暗号資産取引に関する税務調査の推移を過去数年分のデータから見ると、令和2・3事務年度は新型コロナウイルスの影響で調査件数が大幅に減少しました。しかし令和4事務年度にはその反動として調査件数が急増し、監視が強化されました。その後、令和5事務年度では再び調査件数が減少傾向を見せていますが、これは監視の緩和を意味するものではありません。

調査が行われた際の脱税指摘率の高さは顕著であり、9割以上の確率で何らかの不備が指摘され、これは国税庁が調査前に情報収集や分析を徹底する姿勢を示していると言えるでしょう。これらの状況を受け暗号資産に精通した村上ゆういち税理士は以下のように指摘しています:

国税庁が公表した税務調査の資料を見ていますが、暗号資産(仮想通貨)は通常の個人の追徴税額よりも2.4倍の追徴税額とのこと。 つまり、仮想通貨は高額な脱税が多いってことですね。 今後はAI活用も進んでいくだろうから、仮想通貨の少額の脱税も調査に入ってくると思います。

村上ゆういち|税理士

同氏はこれらの状況から、暗号資産の税務調査件数が減少していることをもって安全だと考えるのは危険と判断できると指摘しました。

また、国税庁は、AI技術を活用した所得隠しの摘発を強化した結果、昨年度の所得税追徴税額が過去最高となる1398億円に達したことを明らかにしました。特に、2022年度から本格導入されたAIによって、調査件数を抑えつつ追徴税額を増加させるという効率化が進んでいることが伺えます。その中でも暗号資産取引に関連する追徴税額は35億円に達し、デジタル経済領域における監視の厳しさを象徴しています。AIの導入により税務調査の精度と効果が向上し、これまで見逃されていた取引や所得が明確に浮かび上がるようになっています。

日本の暗号資産税制と海外との比較

画像:Coincub

各国の税制比較

  • シンガポール: 暗号資産取引は基本的に非課税。
  • ドイツ: 1年以上保有した暗号資産の売却益は非課税。
  • アメリカ: キャピタルゲイン税が適用され、保有期間によって短期(高税率)・長期(低税率)に分かれる。
  • 韓国: 2027年から暗号資産取引の利益に20%の課税を予定。年間2,500万ウォン(約250万円)の非課税枠が設けられる予定。
  • ドバイ(UAE): 暗号資産取引に対する課税はなく、取引環境が非常に優遇されている。

日本の課題

日本の暗号資産税制における主な課題は以下の通りです:

  1. 高税率
    暗号資産取引の利益は累進課税が適用され、所得に応じて最大55%(所得税+住民税)に達する。
  2. 損益通算の制限
    他の所得(例: 株式や不動産所得)と損益通算ができないため、暗号資産取引での損失を活用しにくい。
  3. 分離課税が適用されない
    金融所得課税と異なり、一律の分離課税(例: 20%)が採用されていないため、課税負担が増大しやすい。
  4. 国際的な競争力の低下
    他国が税率の低さや非課税の制度で暗号資産取引を促進する中、日本の高税率と複雑な税制が投資家や企業を海外に流出させる一因となっている。

日本は他国に比べて税制が厳しく、暗号資産取引の環境整備において遅れを取っているのが現状です。このような状況を改善するためには、分離課税の導入や損益通算の拡大といった制度改革が求められています。

関連記事:イタリアの暗号資産税、42%から28%に引き下げへ

日本の暗号資産税制改革の動き

1. 分離課税への移行

これまでも述べてきたように暗号資産の最高税率は55%に達します。これに対し、株式や投資信託の譲渡益は一律20%の分離課税が適用されています。この差異から、業界団体や投資家は暗号資産取引にも一律20%の分離課税を適用するよう強く求めています。分離課税への移行が実現すれば、暗号資産取引の税負担が大幅に軽減され、投資環境の改善が期待されます。

2024年現在、金融庁や経済産業省は暗号資産に関する税制改正の要望を提出しています。しかし、分離課税への移行に関しては、正式な改正には至っておらず、引き続き議論が行われています。一方で、2024年度の税制改正では、以下の2点が暗号資産に関する重要な変更点として挙げられます。

  • 第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外
    • 法人が保有する暗号資産は、期末時点での時価評価に基づき課税されます。しかし、譲渡制限などの条件が付された暗号資産については、原価法または時価法のうち法人が選定した評価方法で評価することが認められました。これにより、特定の条件を満たす暗号資産は期末時価評価課税の対象から除外され、企業の税負担が軽減されることが期待されます。
  • 非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備
    • OECDが策定した「暗号資産等報告枠組み(CARF)」に基づき、国内の暗号資産取引業者等に対し、非居住者の暗号資産取引情報を税務当局に報告することが義務付けられました。これにより、各国の税務当局間で非居住者の暗号資産取引情報が自動的に交換され、税の透明性が向上することが期待されます。

今後の展望

分離課税への移行に関しては、業界団体や投資家からの要望が続いており、政府内でも検討が進められています。しかし、2024年10月時点で、日本の金融庁は暗号資産に対する慎重な姿勢を維持しており、暗号資産ETFの承認などについても消極的な立場を取っています。そのため、分離課税への移行が実現するまでには、さらなる議論と時間が必要と考えられます。

関連記事:日本ブロックチェーン協会、「暗号資産に関する税制改正要望(2025年度)」を政府に提出

まとめ:適切な節税を行うことで納税額を減らそう

暗号資産取引で発生する税金負担を軽減するためには、適切な節税対策が不可欠です。

日本の税制では暗号資産は雑所得として扱われ、最大55%の累進課税が適用されますが、適切な経費計上や損益の活用によって課税所得を抑えることが可能です。

例えば、価格下落時に損失を確定させて利益と相殺する方法や、利益を複数年に分散させることで累進課税の影響を和らげる手法があります。また、取引手数料や関連設備費用を経費として申告することも重要です。

法人化を検討することで税率を抑える選択肢もありますが、維持費用や手続きの複雑さを考慮する必要があります。適切な節税を行うことで、合法的に納税額を減らし、長期的に安定した投資を続けることが可能になります。

最新の税制変更や規制にも注目し、戦略的な対策を講じることが賢明でしょう。

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Shota Oba
国際関係の大学在籍中に国内ブロックチェーンメディアでのインターンを経て、2つの海外暗号資産取引所にてインターントレーニング生として従事。現在は、ジャーナリストとしてテクニカル、ファンダメンタル分析を問わずに日本暗号資産市場を中心に分析を行う。暗号資産取引は2021年より行っており、経済・社会情勢にも興味を持つ。
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