FBIの監督特別捜査官が今週、自首した。検察当局は、同氏が連邦捜査下にあった外国人から暗号資産をほぼ100万ドル分盗み取ったと主張している。
バージニア東部地区に提出された裁判資料によると、氏名はパトリック・スティーブン・ヤロック。極秘クリアランスを持つベテラン防諜捜査官として勤務していた。
FBI捜査官による暗号資産窃盗の経緯
検察は、ヤロック容疑者が自身の権限を使い機密事件ファイルへアクセスし、FBIが敵対国とみなす国籍の人物が所有する暗号資産ウォレットのパスフレーズを特定した上で、資産を自身の管理下にあるウォレットへ移したと訴えている。
捜査当局によれば、こうした暗号資産の移動は2024年末から10~12回にわたり行われていた。不正な手口は、FBIがすでに捜査していた人物に関連する口座から密かに資金を引き出したものであった。実際、逮捕時には盗まれた暗号資産のうち92万5426ドル7セントが押収されたと、宣誓供述書で明らかにされた。
ヤロック容疑者は政府の内部アクセスを悪用した容疑をかけられた最初の人物ではない。3月には政府契約業者の息子も米連邦保安局から4600万ドルを盗んだ疑いで逮捕された。6月には元CIA職員が4000万ドル規模の金塊詐欺に関与したとして捜査対象となった。
ChatGPT検索履歴が逃亡計画を示唆
デジタル暗号資産フォレンジック捜査官によると、ヤロック容疑者は逮捕前にAIチャットボットで資産の活用法を検索し、突発的な大金の投資方法やヨーロッパでの居住要件についても質問していたことが判明した。
加えて、ヤロック容疑者はポルトガル行きの旅程を予約し、現地法律事務所から委任状書類も取得していたことが記録されている。捜査当局がブロックチェーン分析でこの不正を発見した事実はなく、7月28日にはSignalで法務省関係者に相談したことが逮捕に直接つながった。
FBIによる事情聴取の際、ヤロック容疑者は行為を認めたという。
「心の中で自分を責め続けていた」パトリック・ヤロック容疑者(宣誓供述書より引用)
この宣誓供述書が公開されると同時に、FBIは即座にヤロック容疑者を解雇し、同氏は連邦当局に勾留されて裁判を待つ身となった。検察は州をまたぐ盗品輸送と盗品受領の罪で起訴しており、有罪となれば数十年の懲役刑が科される可能性がある。
今回の逮捕は、暗号資産を巡る刑事事件が目立つ年の流れと重なる。4月には法務省が東南アジアの詐欺ネットワークから7億ドルを押収し、7月には暗号資産洗浄事件でフェンタニル取引との関連が立件された。さらに、FBIのカシュ・パテル長官が今年、金融開示書を遅れて提出し、自身の部下の窃盗事件への対応にあたっている。
時期的な背景も注目される。TRM Labsによれば、2026年上半期だけで暗号資産業界は207件・9億7200万ドルの被害を記録している。内部関係者による不正は、外部からのハッキング被害だけでは捉え切れない新たなリスクといえそうだ。
ヤロック容疑者の事件がFBIによるウォレットレベルの内部監督強化につながるかは現時点で不透明である。なお、FBIはこれについて公の立場を明らかにしていない。この9億7200万ドルという被害額には、今回のようなFBI内部による事例は含まれていない。









