イーサリアム(ETH)は人気の仮想通貨ですが、ネットワークが混雑すると処理速度が落ち、手数料(ガス代)が高騰する「スケーラビリティ問題」を抱えています。この課題解決に有効な手段として注目されているのがLayer2(レイヤー2)ソリューションで、特に仮想通貨アービトラム(ARB)とオプティミズム(OP)は取引の高速化やコスト削減を実現する代表的な技術です。しかし、初心者にとっては両者の違いや使い分け方が分かりにくいでしょう。
本稿では、アービトラム(ARB)とオプティミズム(OP)の技術アーキテクチャやトークン設計、さらに日本の規制面も含めて詳しく解説します。
プロジェクト概要: ArbitrumとOptimismとは?

Arbitrum(アービトラム)とOptimism(オプティミズム)は、イーサリアムの代表的なOptimistic Rollup型L2ソリューションです。ただし、両者の開発元や特徴、用途に若干の違いがあります。
Arbitrum(アービトラム)の基本情報
ArbitrumはOffchain Labs社が開発したL2プラットフォームです。2021年8月にメインネット「Arbitrum One」が公開され、イーサリアムの主要スケーリングソリューションの一角として急成長しています。
開発チームはEthereum財団の元研究者らで構成され、高いEVM互換性に加え、「Arbitrum Nitro」という独自技術を採用。これは取引データの圧縮技術や効率的な紛争解決メカニズムを備えています。
またArbitrumには用途別に2つのチェーンがあります。
- 汎用用途の「Arbitrum One」
- ソーシャルやゲーム用途の「Arbitrum Nova」(一部中央集権型のデータ管理により手数料を大幅に削減)
2023年3月にはガバナンストークン「ARB」をエアドロップし、現在は分散型ガバナンス(Arbitrum DAO)への移行を進めています。
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Optimism(オプティミズム)の基本情報
OptimismはOptimism PBC(現在のOP Labs)が開発したL2ソリューションで、2022年に本格稼働しました。最大の特徴は、Ethereumとの親和性とシンプルな設計を重視していることです。
特に開発初期には「Optimistic Virtual Machine(OVM)」を導入し、Ethereum上の既存dAppを最小限の変更で移植できるよう配慮しました。そのため、合成資産プラットフォーム「Synthetix」やDEX(分散型取引所)「Uniswap」など、主要DeFiプロジェクトが早期に採用しています。
2022年5月にはガバナンストークン「OP」をエアドロップし、トークンベースの独自ガバナンス「Optimism Collective」を導入しました。これは「トークンハウス」と「シチズンハウス」の二院制で運営されています。
またOptimismは「OP Stack」というモジュラー型のソフトウェアを公開。Coinbaseが展開する独自チェーン「Base」など、他プロジェクトが独自L2を構築できる仕組み(スーパーチェーン構想)を推進しています。
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ARBとOPトークンの基本スペック比較
項目 | ARB(Arbitrum) | OP(Optimism) |
---|---|---|
初回発行時期 | 2023年3月 | 2022年5月 |
初期供給量 | 100億枚 | 約42.94億枚 |
発行上限 | なし(年2%上限で要DAO承認) | なし(年2%を基本とし変更可能) |
主な用途 | DAOガバナンス投票権 | ガバナンス投票権(RetroPGF含む) |
ガス用途 | なし(ガス代はETH) | なし(ガス代はETH) |
トークン配分の特徴と違い
共通する特徴
- ARB・OPともにガバナンス専用トークンで、取引手数料(ガス代)支払い用途には使われません(ETHで決済)。
- トークン配分では投資家に約15~20%、開発チームに約20~27%を割り当てており、構造が似ています。
主な違い
- ARB(Arbitrum)
初回エアドロップではユーザーに約11.6%、DAO資金に約35.3%、開発チームに約27%、投資家に約17.5%、財団に約7.5%を割り当てました。
初回以降のエアドロップや新規配布は現状未公表ですが、将来的にDAO主導の追加配布が可能です。 - OP(Optimism)
初回エアドロップでユーザーに5%、その後2023年までに累計19%を段階的に配布済みです。また、エコシステムに25%、公共財還元枠(RetroPGF)に20%、チームに19%、投資家に17%を配分。特に公共財還元に積極的で、継続的なエアドロップ計画があります。
Optimismは公共財への還元を明確に打ち出しており、ArbitrumはDAO主導で柔軟に資金配分できる特徴があります。
ArbitrumとOptimismの基本概要(2025年時点)
比較ポイント | Arbitrum | Optimism |
---|---|---|
日次アクティブユーザー数・取引回数 | Optimismの約2倍 | Arbitrumの約半分 |
DeFi資産総額(TVL) | 約22~25億ドル | 約8.5~9.5億ドル |
ユーザー資産ロック数(両者合計) | 150万人以上(両チェーン合計) | 150万人以上(両チェーン合計) |
注目点 | 2023年、一時的にイーサリアム本体を超える取引数を記録 | 「挑戦者」としての立ち位置、伸びしろに期待 |
技術アーキテクチャと検証方式の違い(ARB vs OP)

オプティミスティックロールアップの仕組み

ArbitrumとOptimismはどちらもオプティミスティックロールアップという技術を使っています。この方式では、多数の取引をまとめてイーサリアム(L1)に送信し、基本的に「正しい取引である」と仮定します。ただし、不正があった場合には「不正検証(fraud proof)」を通じて訂正します。
不正検証方法の違い
- Optimism(シングルラウンド検証)
- 不正が疑われた際、L1で一括して全取引を再実行。
- 利点:手順が単純で迅速。
- 欠点:全再実行のためL1でのガス代が高くなる。
- Arbitrum(マルチラウンド・対話型検証)
- 問題が指摘された場合、段階的(バイナリーサーチ方式)に取引の一部分だけを検証。
- 利点:コストが低く効率的。
- 欠点:検証完了までにやや時間がかかる。
セキュリティと分散化(信頼性)の比較
Layer2を選ぶ際、セキュリティや分散化の状況は特に重要です。ArbitrumとOptimismはどちらも最終的にはイーサリアムL1のセキュリティに依存しますが、現状は中央集権的な要素がまだ残っています。
一方Optimismは、当初は5名の署名者が7名のマルチシグで管理する体制で、不正検証自体も一時停止して中央管理型でした。2024年以降「Cannon」というシステムを導入し、誰もが参加可能な検証方式へ移行したため、現在では両チェーンのセキュリティ水準に差はほぼありません。
しかし、両チェーンともに、ブロックの生成(シーケンサーの運用)は公式シーケンサー1つに依存する状況です。Optimismではこのシーケンサーが停止すると資金の移動が即座に止まりますが、Arbitrumは約7日経てばイーサリアムL1から資金を引き出すことが可能になるというバックアップ機能を備えています。この点においてArbitrumの方がリスクに対する備えが厚いと言えるでしょう。
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ブロック生成間隔と処理性能

- Optimism
- ブロック生成間隔:約2秒(高速設計)。
- 短い待ち時間で即時性が高く、ゲームや頻繁なトレードに有利。
- Arbitrum
- ブロック生成間隔:約13秒(Ethereum本体に近い)。
- Optimismより取引確定までやや長いが、日常利用で支障はない。
両チェーンとも処理容量(TPS)は最大約4,000TPSとされ、通常利用では性能面での差を感じることはほとんどありません。処理速度はどちらのL2もL1より遥かに高速で、数秒以内に取引は仮確定します。Optimismは約2秒間隔でブロックを生成し、即時性に優れています。Arbitrumは取引量に応じて数秒ごとの生成ですが、体感速度に大差はありません。
一方、最終的に取引が完全確定するまでには「チャレンジ期間」(約1週間)を要します。この期間を経過して初めてEthereum L1で完全に確定します。ただし、この期間中でもL2内の資金運用やサードパーティによる即時出金サービスなどがあるため、実用面での不便はありません。
仮想マシン(VM)とEVM互換性
- Optimism
- 当初は独自のOVMを使用、その後2022年に完全なEVM等価性を達成。
- Ethereumのスマートコントラクトをそのままデプロイ可能。
- Arbitrum
- 初期は独自AVMを採用、2022年のアップグレード「Nitro」でEVM等価性を実現。
- さらに、2024年から「Arbitrum Stylus」を導入し、RustやC/C++といった多言語対応による開発環境拡充を進めています。
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両者の技術的特徴の整理
- 共通点
- 基本的な技術(オプティミスティックロールアップ、EVM等価)はほぼ同等。
- 両者ともEthereum資産やアプリとの互換性が高い。
- 相違点
- 検証方式の設計思想(迅速性のOptimism、効率性のArbitrum)
- ブロック生成の間隔(短いOptimism、長めのArbitrum)
- 開発環境の拡張性(Arbitrumが多言語対応でやや優位)
手数料・処理速度・スケーラビリティの違い
EthereumユーザーがLayer2を選ぶ際、特に重要なのが「手数料の安さ」と「取引処理の速さ」です。ArbitrumとOptimismは共にこれらを実現していますが、その内訳や具体的な性能には差があります。また、スケーラビリティ(拡張性)に関しては、現状Arbitrumが一歩リードしています。
手数料モデルの違い
両チェーンの手数料はEthereum L1に比べると格段に安く、通常数十円程度です。手数料の内訳は「Ethereum L1へのデータ書き込みコスト」と「Layer2内の処理コスト」の2つから成り立ち、どちらもETHで支払われます。
Optimismは2023年の「Bedrock」アップデートで手数料を約40%削減し、過去に比べArbitrumとの差は縮まりました。現在の両者の平均手数料はほぼ同等ですが、若干Arbitrumのほうが安価です。また、Arbitrumは優先手数料(チップ)の必要がないため、ユーザーが追加費用を払わず公平に取引できます。
ただ、手数料の差は通常ほとんど体感できないレベルです。特に小額で頻繁に取引するケースを除けば、手数料面での違いを気にする必要はありません。
スケーラビリティ(拡張性)の違い

スケーラビリティは両チェーンとも高水準で、理論上は毎秒数千件の取引を処理できます。しかし、実際の運用状況はArbitrumが大きくリードしています。
Arbitrumは2023年6月に1日最大260万件のトランザクションを処理し、Ethereum本体を超える処理能力を示しました。同じ時期のOptimismはピークでも1日80万件程度に留まり、Arbitrumとの差は顕著です。また、預かり資産総額(TVL)でもArbitrumが約27億ドルと、Optimism(約6.65億ドル)の約4倍に達しています。対応プロトコル数もArbitrumが約400以上と豊富で、DeFiプロジェクトの活発な開発・運用がスケーラビリティを支えています。
ただOptimismもCoinbaseのBaseチェーンなどOP Stack技術を活かしたチェーン間連携(スーパーチェーン構想)を推進しており、量より質的なエコシステムの拡充を目指しています。
ネットワーク利用状況の比較(2023~2024年)
指標 | Arbitrum | Optimism |
---|---|---|
1日あたり取引数 | 平均100~150万件(最大260万件) | 平均40~60万件(最大80万件) |
TVL(預かり資産総額) | 約27億ドル | 約6.65億ドル |
対応プロトコル数 | 約400以上 | 約160~200 |
人気DApp例 | GMX, Uniswap, Aave, Curve, TreasureDAO | Uniswap, Aave, Synthetix, Perpetual Protocol |
L2全体のシェア | 約50% | 約20% |
まとめると、手数料・速度の違いは小さく、通常の利用で差を感じることはほぼありません。しかし、スケーラビリティやエコシステム規模ではArbitrumがリードしています。一方Optimismは独自のエコシステム連携と公共財支援に強みがあり、今後の成長も期待されます。ユーザーは用途や好みに応じて使い分けるのが望ましいでしょう。
プロトコル運営とアップグレードの権限
プロトコルを変更したり、緊急時に対応する権限の運用方法にも両チェーンで違いがあります。
ArbitrumではARBトークンの発行(2023年3月)と同時に、コミュニティ主導のDAOを立ち上げました。重要なプロトコル変更はトークンホルダーの投票によって透明性高く決定されます。また、緊急時にはコミュニティ投票で選出されたセキュリティ評議会が迅速な対応を行う体制を整えており、中央集権的な権限の透明化が図られています。
Optimismは初期の段階でマルチシグによる中央集権的な管理体制を採用していましたが、徐々に権限の分散化を進めています。ただし、最終的なアップグレード権限は現状ではまだOptimism財団が管理しているため、分散性や透明性にはもう一歩改善の余地が残っています。
こうした状況を総合的に見ると、セキュリティと分散化の面ではArbitrumがやや先行しているものの、Optimismも急速に改善を進めている状況と言えます。今後も両チェーンが完全な信頼不要な状態に近づいていく過程を引き続き注視する必要があるでしょう。
Optimismの「Superchain」構想とArbitrumの「L3」展開

OptimismのSuperchain構想(OP Stack)
Optimismは自社チェーン単体での拡張を超えて、複数のチェーンを連携させる「Superchain(スーパーチェーン)」構想を打ち出しています。これはOptimismが開発したOP Stackという汎用的なモジュールセットを活用して、異なるLayer2チェーンを容易に構築・相互連携させる取り組みです。
この構想の代表例がCoinbaseのBaseチェーンで、2023年7月にローンチ以降、大きな注目を集めました。BaseチェーンはOP Stackを基盤としており、将来的にはOptimism本体を含む複数のOP Stackチェーンが相互に連携し、シームレスに資産を移動できるエコシステムを目指しています。
Optimismがこの構想を推進することで、単一チェーンの処理能力に依存せず、多数のチェーンで処理を分散・負荷分担することが可能になります。これは特定チェーンに集中するトラフィックの問題を解決し、より柔軟で持続可能なスケーリングを可能にします。
ArbitrumのL3(Orbit)構想
一方、Arbitrumは2023年に「Orbit」というL3(Layer3)ソリューションを発表しました。これはArbitrum One(L2)をベースとして、その上にさらに新たなロールアップ(L3)を構築可能にするフレームワークです。
Orbitを利用することで、アプリケーションごとに専用のL3チェーンを立ち上げ、個別のニーズに応じて柔軟に手数料やスループットを調整できます。これにより、特定のアプリケーションに最適化された環境が作れるため、処理性能の向上や利用コストのさらなる削減が期待されます。
特にゲームやソーシャルプラットフォームなど、高頻度のマイクロトランザクションを多用するユースケースでOrbitが注目されています。すでに複数のプロジェクトがOrbitベースのL3チェーンを立ち上げるなど、エコシステムの拡張を積極的に推進しています。
OptimismのSuperchainは複数チェーン間の相互連携を重視し、チェーン間のインターオペラビリティ(相互運用性)を高めるアプローチです。対してArbitrumのOrbit(L3)は個別アプリケーション向けに特化したチェーンを多数構築するアプローチであり、特定ユースケースでの性能最適化を狙っています。
まとめ:今後の両チェーンの台頭に注目

イーサリアムのスケーラビリティ問題に対処する手段として注目されるLayer2の中でも、アービトラム(ARB)とオプティミズム(OP)は取引の高速化と手数料削減を両立した代表的なソリューションです。どちらもOptimistic Rollup方式を採用していますが、検証メカニズム、トークン配分、エコシステム戦略、ガバナンスの設計思想には明確な違いがあります。ArbitrumはDeFi特化の高い実績と技術拡張性を武器に、Optimismはスーパーチェーン構想と公共財支援に重点を置きながら独自の成長を続けています。今後Ethereum基盤の発展とともに、両者がどのように役割を分担し、ユーザー層や用途ごとに選ばれていくのかが注目されます。
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