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DeSci(分散型科学)とは?

27 mins

ヘッドライン

  • DeSci(分散型科学)は、ブロックチェーン技術を活用し、透明性の高いデータ共有、ピアレビュー、自律的な資金調達を通じて、科学研究の分散化と公平性を促進する新しいムーブメントです
  • スマートコントラクトやDAOを利用するDeSciは、研究資金調達の効率化、IP-NFTによる知的財産権管理、グローバルな研究者間コラボレーションを実現し、科学の課題解決を支援します
  • DeSciの課題は、技術的な参加障壁、資金調達の不安定性、効率的なピアレビューの実現などです。これらを克服し、分散型科学の未来を形作る努力が求められます

分散型金融(DeFi)やAI、物理的インフラストラクチャネットワーク(DePIN)と同様に、ブロックチェーンは私たちのシステムや学問分野の考え方を再構築しています。特に科学研究の分野において、従来の中央集権的な構造に代わる新しいアプローチとして、分散型科学(DeSci)が注目されています。この革新的な概念は、研究資金調達、データ共有、学術出版、そして国際的な協力の新しい形を提案しています。

本稿では、DeSciが科学研究にどのような影響を与え、未来の展望を開くのかをわかりやすく解説します。

分散型科学(DeSci)とは何か

定義と基本概念

DeSci(Decentralized Science)は、科学研究を分散型のアプローチで行うムーブメントです。従来の中央集権的な機関や仲介者に依存するのではなく、ブロックチェーン技術を活用して知識の創造と分配を進めます。具体的には、以下の特徴があります:

  • 科学データへのアクセスの拡大: 研究データを公開し、誰もがアクセス可能な環境を整備。
  • ピアレビューの透明性向上: ブロックチェーン上でレビュー履歴を記録し、不正を防止。
  • 国際的な研究者間のコラボレーション促進: 分散型プラットフォームを通じて、安全かつ効率的なデータ共有を実現。

DeSciの目的は、Web3技術を活用して研究記録の完全性と改ざん不可能性を保証することで、参入障壁を排除し、より公平な科学研究環境を構築することです。

技術的背景

DeSciはスマートコントラクト分散型自律組織(DAO)といったWeb3ツールを基盤に構築されています。例えば、スマートコントラクトは研究資金の分配を自動化し、透明性を確保します。一方、DAOは研究者や投資家が共同で意思決定を行う場を提供します。

イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブリテン氏は分散型科学に関して以下のように評しています:

分散型科学は、オープンで分散型の技術が科学をより良くし、科学の制度やコラボレーションを進化させる手段だと考えています。資金調達が多様化し、暗号資産を通じて非伝統的な資金源からも資金提供が可能になるのが興味深い点です

ヴィタリック・ブリテン氏:イーサリアム共同創設者

同氏は具体的には、四則資金調達(quadratic funding)を活用することで、より公平で効率的な資金配分を実現し、公共財や基礎研究の慢性的な資金不足の問題に取り組むべきだと主張します。また、研究者や貢献者の活動を透明性のある形で記録・評価する仕組みとして、SoulboundトークンやPOAP(Proof of Attendance Protocol)の活用を提案しています。これにより、貢献の可視化と評価が促進され、より多くの人々が科学分野での活動に参加しやすくなると考えています。

さらに、彼は分散型科学を通じて、若者や多様な地域の人々が年齢や地理的、経済的制約を超えて科学の発展に貢献できる環境を作ることの重要性を強調しています。

関連記事:バイナンスラボ、DeSci領域にBIOプロトコル投資で参入

DeSciの進化と背景

英国裁判所AI

オープンサイエンスからの進化

DeSciは「オープンサイエンス」ムーブメントを基盤としています。このムーブメントは、研究データ、手法、プロトコル、ソフトウェア、出版物を公開し、財政的、法的、技術的な障壁を取り除くことを目指します。代表例として以下のプラットフォームが挙げられます:

  • ArXiv: 論文の迅速な公開を可能にするプラットフォーム。
  • SciHub: 論文への無料アクセスを提供。

これらのプラットフォームが一部の課題を解決したものの、管理や透明性の面で依然として課題が残っています。DeSciはこれらの課題を克服し、さらに進化した形を提供します。

歴史的背景

DeSciの初期の実践例として、「ResearchHub」や「Molecule」のようなプラットフォームが挙げられます。これらは研究者がデータを共有し、直接資金調達を行う新しい方法を模索しています。実際、コインベース創設者ブライアン・アームストロング氏は、自身の持ち株2%を売却してResearchHubへの資金提供を行いました。

このほかにも著名ベンチャーキャピタルa16zもDeSci分野に参入し、医療データ収集の透明性と同意に焦点を当てた分散型バイオバンクAminoChainの500万ドルのシードラウンドをリードしています。

DeSciと従来型科学(TradSci)の具体的な比較

項目DeSci従来型科学(TradSci)
透明性研究成果やデータをブロックチェーンで改ざん不可能な形で記録。研究プロセスが公開され、透明性が高い。結果が非公開のままになる場合が多く、データの改ざんや不透明な研究プロセスのリスクがある。
アクセシビリティオープンアクセスを推進し、高額な出版費用を排除。研究論文やデータが誰でも閲覧可能。学術誌の購読料や出版費用が高額で、特に低予算の研究者や途上国の研究者にとってアクセスが難しい。
資金調達DAOやクラウドファンディングを通じ、多様な資金源を活用。一般市民や投資家が研究を直接支援可能。政府助成金や企業資金に依存し、資金申請のプロセスが長く、制約が多い。
ピアレビューブロックチェーン上で透明性のある迅速なピアレビューを実施。審査の過程やレビュー内容が改ざん不可能な形で記録される。ピアレビューが遅延することが多く、審査に数ヶ月から数年かかる場合がある。レビュー内容が公開されないため、透明性が欠如している。
コラボレーショングローバルな分散型プラットフォームを活用し、研究者間の協力を促進。国境や専門分野を越えたコラボレーションが容易。主に同一機関内や特定のグループ内でのコラボレーションが中心。分野横断的な協力が難しい場合が多い。
知的財産権(IP)IP-NFTを利用し、知的財産をトークン化。研究者が所有権を保持しつつ収益化が可能。知的財産権は多くの場合、大学や企業が保有し、研究者個人の権利は制限されがち。
インセンティブトークン報酬システムを採用し、研究者やレビューアに対して公平な報酬を提供。研究者への報酬や評価は、主に論文の発表件数や引用数に依存。透明性がなく、不公平な評価が行われる可能性がある。
コスト分散型台帳技術により、出版費用や運営コストを大幅に削減。出版費用が数千ドルに達する場合があり、研究者にとって大きな負担となる。
再現性ブロックチェーンを活用し、研究プロセスやデータを公開することで再現性を向上。データやプロセスが非公開の場合が多く、再現性の欠如が科学研究の信頼性を損なう要因となっている。
社会的影響科学研究の民主化を推進し、社会全体での研究成果の共有を実現。研究成果が特定の企業や組織の利益に偏り、社会全体での恩恵が十分に行き渡らない場合がある。

DeSciの主要な構成要素

分散型科学(DeSci)を他の分散型分野と差別化するいくつかの主要な構成要素があります。その中でも特に注目すべきは、ブロックチェーンとオープンサイエンスの交差点、および科学研究におけるDAO(分散型自律組織)の活用です。

ブロックチェーンとオープンサイエンス

ブロックチェーン技術の特性はオープンサイエンスのニーズと重なり合っています。ブロックチェーンの分散型の性質により、情報は中央管理者に依存せず、データは改ざん不可能です。

出典:NASA

NASAが公開した「Blockchain vs Open Science」では、これが透明性と協力的な環境を提供し、市民科学を支援し、リソースやデータの共有を可能にする点が強調されています。さらに、ブロックチェーンによる全取引の公開記録は、研究結果への信頼を向上させます。

ブロックチェーンはまた、暗号技術とタイムスタンプを利用します。これにより、記録された情報が唯一無二であることが保証され、科学者が研究履歴を追跡し、データやコンテンツを共有することが可能になります。

さらに、ブロックチェーンのコンセンサスメカニズムはネットワークメンバーの承認を必要とします。これにより、データセットごとのダウンロード数や引用数などの指標の正確な計算や、メタデータの検証が仲介者なしで可能になります。

科学研究におけるDAOの役割

DAO(分散型自律組織)は、科学研究において次のような重要な役割を果たします。

  • 中央管理者なしでの協力
    共通の目標を持つ人々が効率的に協力し、インセンティブを調整します。
  • 知的財産(IP)の共有
    DAOは貢献と報酬に関するルールを不変の形で設定するため、研究者同士が自由にデータを共有できます。
    例: 新薬や技術開発において、企業間の競争やIP独占を回避可能。
  • 迅速な成果の達成
    同じ目標を持つ研究者がDAOを通じて協力することで、従来の企業環境よりも早く結果を得ることが可能です。

DeSciの仕組み

ほとんどのDeSciプロジェクトには、以下の4つの共通の特徴があります:

  1. スマートコントラクト
    • ルールを自動化・施行するプログラム。
    • すべての参加者にとって公平なプロセスを保証します。
  2. コミュニティ
    • 特定の研究テーマを中心にリソースを共有する集団。
    • プロジェクトをシームレスに進行し、関心のある研究を支援できます。
  3. オンチェーン資金調達
    • ブロックチェーン上で資金を直接調達・管理。
    • 透明性が向上し、「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」のプレッシャーから解放されます。
  4. 所有権の明確化
    • 貢献者の知的財産はブロックチェーンに記録され、権利と報酬が適切に配分されます。

DeSciが科学を改善する方法

米国選挙後のアルトコイン

科学研究への影響

DeSciは以下の方法で科学研究を大きく改善する可能性があります:

  1. クラウドファンディングによる資金調達
    • DeSciプラットフォームを利用することで、従来の助成金申請や中央集権的な資金提供の障壁を回避し、一般市民や投資家が直接研究プロジェクトに資金を提供できます。この仕組みを活用した成功例として、「ResearchHub」が挙げられます。同プラットフォームは、研究者が独自の研究プロジェクトを公開し、トークン「ResearchCoin(RSC)」を通じて資金を調達することを可能にしています。さらに、「Molecule」では、知的財産をNFT化してトークン化された資金調達を実現しています。
  2. 多様なプロジェクトの資金調達
    • クラウドファンディングを活用することで、通常は資金提供を受けにくい研究テーマにも資金が集まりやすくなります。例えば、「VitaDAO」は、寿命研究に特化し、これまで見過ごされてきた初期段階のプロジェクトに資金を提供しています。このDAOは、分散型アプローチで新しい治療法の開発を加速させています。
  3. 共同研究の促進
    • 分散型プラットフォームでは、研究者が安全かつ透明な形でデータや手法を共有できます。「AthenaDAO」は女性の健康問題に焦点を当て、研究者同士の協力を強化することで、未解決の課題に取り組んでいます。
  4. オープンアクセス出版
    • 分散型台帳技術(DLT)を活用することで、研究論文やデータを自由にアクセス可能にします。これにより、従来の高額な出版費用やアクセス制限が解消されます。具体的な事例として、「NobleBlocks」が挙げられます。このプラットフォームでは、トークン化された報酬システムを採用し、レビューや編集作業を行う参加者に公平な報酬を与えています。また、出版コストを大幅に削減し、多くの研究者が成果を公開できる環境を整えています。

関連記事:現物資産(RWA)トークン化とは?

DeSciが導く「Valley of Death」の克服方法

出典:コインゲッコー

「Valley of Death」とは、基礎研究から応用研究への移行期間において資金不足に陥る課題を指します。この期間は、多くの研究が実用化される前に終了する原因となります。

  1. 問題の具体例
    製薬業界では、新薬の開発には平均して20億ドル以上のコストがかかりますが、資金不足のために多くの研究が途中で断念されます。
  2. 克服方法
    IP-NFTを利用した資金調達がこの課題を解決する手段の一つです。例えば、「Molecule」では研究者が知的財産をNFTとしてトークン化し、投資家から資金を集めることに成功しています。

EthereumはDeSciをどのようにサポートしているか

ヴィタリック・ブテリン カバー

EthereumはDeSciプロジェクトの基盤として、以下の点で重要な役割を果たしています。

  1. 経済的セキュリティとガス料金モデル
    Ethereumのガス料金モデルは、ブロックチェーン上での取引の透明性と安定性を確保しています。これにより、プロジェクトの運営が信頼性を持ちます。例えば、研究成果の公開や資金調達において、スマートコントラクトを利用した透明な取引が可能になります。
  2. ステーキング収益とチェーンの安定性
    Ethereumのステーキング収益は、ネットワークの安定性を支える重要な要素です。ステーキングにより生じる収益は、分散型プロジェクトが安定した環境で運営される基盤を提供します。
  3. 具体例
    プロジェクト「NobleBlocks」はEthereumを利用しており、科学ジャーナルの分散型モデルを構築しています。同様に「ResearchHub」はEthereumのスマートコントラクトを活用し、研究者がデータを公開し、資金を透明に調達できる仕組みを提供しています。

関連記事:暗号資産ステーキングの始め方

主なDeSciプロジェクトとプラットフォーム

出典:Messari
  1. NobleBlocks
    • NobleBlocksはブロックチェーンベースの科学ジャーナルで、ピアレビューの質向上、異分野間コラボレーションの促進、トークン報酬システムによる出版コスト削減を特徴としています。医学研究者の論文が安全に記録され改ざん不可能な形で公開される仕組みが実現しています。
  2. VitaDAO
    • VitaDAOは寿命研究に特化したDAOで、製薬業界の独占を打破し、知的財産権の分散化を推進します。400万ドル以上を調達し、幹細胞治療や老化関連疾患の研究を支援しています。
  3. Molecule
    • Moleculeは知的財産をNFT化し、科学研究の資金調達と共有を可能にします。抗がん剤の初期研究に資金提供するなど、従来の方法では見過ごされがちなテーマでの成果を出しています。
  4. AthenaDAO
    • AthenaDAOは女性の健康問題に焦点を当てた研究を支援するDAOです。更年期障害や卵巣老化などの課題に取り組み、ホルモン療法の新アプローチ開発を進めています。
  5. ValleyDAO
    • ValleyDAOは合成生物学を活用し、気候変動やエネルギー問題への解決策を提供しています。バクテリアによる環境浄化プロジェクトを成功させ、大気汚染物質の削減に貢献しています。
  6. Bio.xyz
    • Bio.xyzはDeSciエコシステムを加速させるDAOアクセラレーターです。VitaDAOやValleyDAO、AthenaDAOなどのプロジェクトを支援し、トークンオークションによる資金調達や運営テンプレート提供で分散型科学の拡大を促進しています。

DeSciの課題

技術的ハードルと参加障壁

DeSciの普及には、ブロックチェーン技術やスマートコントラクトの理解が求められますが、科学者の多くはこれらの技術に精通していません。この技術的なハードルが、参加意欲を削ぐ一因となっています。また、DAO(分散型自律組織)のガバナンスでは、専門知識を持たない参加者が意思決定に関与することで、質の低い研究が支持されるリスクもあります。

知的財産権の課題

従来の科学研究では、知的財産権が大学や企業に集中し、研究者自身が成果を自由に管理することが難しい状況でした。DeSciでは、IP-NFT(知的財産のトークン化)の導入により、研究者が自らの成果を管理できる分散型の権利管理システムを構築することが必要です。

資金調達の不安定性

トークンベースの資金調達やクラウドファンディングは初期段階では魅力的ですが、トークン価値の変動が信頼性を損ない、安定した資金調達を妨げる場合があります。この課題を克服するには、持続可能な資金調達モデルの確立が求められています。

ピアレビューの効率化

従来のピアレビューは、時間やコストがかかり、研究の進行を遅らせる要因とされています。DeSciはブロックチェーンを活用した透明性の高い仕組みを提案していますが、その実用性や効率性については今後の検証が必要です。

まとめ:2025年の注目領域DeSciのムーブメントを見逃さずに

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DeSciは、ブロックチェーンを活用して研究データやプロセスの透明性を向上させることで、科学的な信頼性と再現性を大幅に強化する可能性があります。これにより、科学研究の進展だけでなく、社会全体への貢献も期待されています。今後の課題を克服し、技術的な基盤をさらに強化することで、DeSciは新しい科学の形を示し続けるでしょう。

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Shota Oba
国際関係の大学在籍中に国内ブロックチェーンメディアでのインターンを経て、2つの海外暗号資産取引所にてインターントレーニング生として従事。現在は、ジャーナリストとしてテクニカル、ファンダメンタル分析を問わずに日本暗号資産市場を中心に分析を行う。暗号資産取引は2021年より行っており、経済・社会情勢にも興味を持つ。
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