米国大統領選挙を目前に控えた2024年、共和党のドナルド・トランプ氏は、家族とともに暗号資産プロジェクト「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)」を正式に発表しました。同プロジェクトは、分散型金融(DeFi)の未来を変える可能性を秘めた試みであり、米国の金融戦略の一環としても注目されています。
本稿では、このプロジェクトの背景、具体的な内容、関連するトランプ氏の政策、そして潜在的な影響と懸念点についてわかりやすく解説します。
トランプ氏と暗号資産の関係
過去の発言と初期の関与
トランプ氏は2022年、NFTトレーディングカードの販売を皮切りに暗号資産分野に参入しました。それ以前は、ビットコインなどのデジタル資産に対し否定的な立場を取っていましたが、NFTの成功を受け、その姿勢を軟化させたとされています。
トランプ氏のNFTプロジェクトは、1日で500万ドルを売り上げたことが注目されました。この成功を契機に、同氏の暗号資産分野への関与が本格化し、2024年の大統領選挙に向けて暗号資産を支持する姿勢を強調するようになりました。
ビットコイン超大国への宣言
2024年7月にナッシュビルで開催された「ビットコインカンファレンス2024」において、トランプ氏は「アメリカをビットコイン超大国にする」と宣言しました。この中で、以下の具体的な提案がなされました:
- ビットコインマイニング産業の大規模化
- 暗号資産に友好的な証券取引委員会(SEC)議長の任命
- 国家戦略的ビットコイン備蓄の設立
さらに、トランプ氏は2024年9月、自身の飲食代を記者の前でビットコインで支払ったエピソードを通じて、暗号資産への強い支持を示しました。
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国家戦略としてのビットコイン採用
トランプ氏の暗号資産への関与は、単なる個人的興味にとどまらず、国家戦略としての一環を含んでいます。同氏は「国家戦略ビットコイン準備金」という構想を提案し、ビットコインを米国の財政健全性を支える重要な資産と位置付けました。この構想の下、政府は今後5年間にわたり毎年20万BTCを取得し、最終的に100万BTCを保有する計画です。この数量はビットコインの総供給量の約5%に相当します。
トランプ氏の構想は、ビットコインを「無国籍通貨」として活用し、米国債の膨張を相殺することを目指しています。この計画には、政府が年間20万BTCを取得し、5年間で最終的に100万BTCを保有するという具体的な目標が含まれています。さらに、押収したビットコインを売却せずに戦略的準備金として保持することで、既存の20万BTCを基盤としつつ、米ドルの基軸通貨としての地位を強化する意図を明確に示しています。この備蓄計画は、長期的に米国の財政健全性を高めると同時に、ビットコインの価値を安定させる役割を果たすことが期待されています。
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州レベルでの採用加速
ビットコインの採用は連邦政府だけでなく、州レベルでも加速しています。フロリダ州では、最高財務責任者(CFO)がビットコインを州の準備資産として採用する戦略を公式に支持し、具体的には州財務省の予算の一部をビットコインに分散投資する計画を進めています。一方、ペンシルベニア州では、州議会がビットコインを州年金基金の投資対象として導入する法案を提出しました。この法案では、ビットコインを長期的な資産として保有することで、州の年金制度の安定化を図る狙いがあります。これらの動きは、トランプ氏の政策と連動して、全米規模でのビットコイン普及を後押しするとともに、州ごとの競争を引き起こしています。
ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)とは?
プロジェクトの概要
WLFIは、トランプ氏の家族や実業家のスティーブ・ウィトコフ氏らが主導するDeFiプロジェクトです。公式ドキュメントによれば、米ドルの地位を暗号資産分野で強化し、未銀行層やサービスが届かない人々に金融サービスを提供することを目指しています。
同プロジェクトは、暗号資産技術を活用し、トークンベースのガバナンスモデルを採用することで、金融サービスをより透明で民主的なものにすることを目的としています。
プロジェクトの目的
WLFIのミッションは次の通りです:
- ステーブルコインの普及促進:米ドル連動型の安定通貨を基盤とした金融エコシステムの構築。
- DeFiの普及:借入や貸付、投資を含む金融サービスをより多くの人々に提供。
- 規制準拠:厳格なセキュリティ対策と法的基準への適合。
WLFプロトコルの概要
WLFプロトコルは、利用者にサードパーティのDeFiアプリケーションへのアクセスを提供します。これには以下が含まれます:
- ステーブルコインの取引、保有、送金を可能にするデジタルウォレット
- ステーブルコインを供給して利回りを得るための流動性プール
- 非証券型デジタル資産を担保に資金を借りる機能
さらに、WLFプロトコルは、アメリカの自由やプライバシーといった価値観に基づき、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に依存しない金融エコシステムの構築を目指しています。 ワールド・リバティ・ファイナンシャルはまだローンチされていませんが、これまでの開発状況を考慮するとプロジェクトはAaveV3 のインスタンスとして立ち上げられることが示唆されています。つまり、 ワールド・リバティ・ファイナンシャルは、Aaveのインフラを活用したレンディングマーケットプレイスとしてスタートし、プロトコル収益を Aaveの分散型自律組織(DAO)と共有するかたちで開始されると見られています。
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トランプブランドを活用した普及戦略
WLFIは、トランプブランドの影響力を活用して、Web2ユーザーをWeb3世界へ誘導する戦略を採用しています。特に、利用者にとって直感的で簡単に利用できるプラットフォーム設計を目指しており、これにより暗号資産やDeFiの利用を促進する狙いがあります。具体的には、初心者向けのインターフェースを導入し、暗号資産やDeFiの基本的な使い方を分かりやすく案内するチュートリアルを提供する計画があります。また、トランプ氏の広範な支持基盤を活用したマーケティング施策として、SNSやトランプ関連イベントでのキャンペーンを通じて新規ユーザーを取り込むことが予定されています。
WLFIトークンの詳細
トークンの基本情報
WLFIは、イーサリアムブロックチェーン上のERC-20トークンとして発行され、ガバナンストークンとして機能します。具体的なトークンの特徴は以下の通りです:
- 供給量:1000億枚
- 分配:
- 63%:パブリックセール
- 17%:ユーザー報酬
- 20%:プロジェクトチーム
- 価格:1トークンあたり0.015ドル(2024年10月時点)
特異性
WLFIの最大の特徴は、トークンが非流通性である点です。つまり、購入後にトークンを取引や交換することはできず、投資家には経済的利益が伴いません。この仕様は、通常のDeFiトークンとは異なり、主にガバナンス(プロジェクト運営に関する投票)に焦点を当てています。一方で、非流通性の特徴は長期的なメリットもあります。例えば、短期的な投機的取引を防ぎ、コミュニティにおける安定したガバナンス環境を維持する助けとなります。また、特定のプロジェクトにコミットしたユーザーのみが参加することで、意思決定の質が向上する可能性もあります。将来的には、コミュニティによる提案を通じて、新たな機能や利用シナリオが追加される可能性もあり、長期的な視点での価値創出が期待されます。
一方で、WLFIチームはイーサリアム(ETH)、チェーンリンク、アーヴェを数百万ドル分購入しています。また、25万USDCをOndoに変換し、さらにEthenaにも50万ドルを投資しており、約51万トークンが割り当てられています。このように同社は積極的な暗号資産運用を行っていることが確認されています。実際Ethena Labsは1月、WLFIとの提携を発表。同提携により、Ethenaが提供するsUSDeトークンがWLFIのAave v3プラットフォームで担保資産としてリストされる予定となっている。
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トークンセールとその課題
セールの進捗状況
2024年10月15日に開始されたパブリックセールでは、200億トークンが販売対象となりました。しかし、セール初日にはウェブサイトのダウンなど技術的な問題が発生し、9260万トークンが販売されるにとどまりました。
さらに、同社は10月31日、投資家からの需要不足を理由に、資金調達目標を当初の3億ドル(約465億円)から3000万ドル(約46億5000万円)へと大幅に下方修正しました。これまでに販売されたWLFIトークンは目標額の25%相当にとどまっています。
さらに、セールは米国外の投資家を対象としており、米国在住者はKYC要件により参加できない仕組みが取られています。この措置は、米国証券取引委員会(SEC)の規制を回避しつつ、違法行為やマネーロンダリングを防ぐことを目的としています。また、適格投資家のみに限定することで、プロジェクトが法的に問題視されるリスクを軽減する狙いがあります。
課題
- 技術的信頼性:セール初日に発生したウェブサイトのダウンは、プロジェクトの技術的インフラに対する信頼を損ねる事態となりました。特に、暗号資産分野における技術的トラブルは投資家の不安を引き起こすため、今後の改善が求められます。
- 透明性の欠如:WLFIトークンの収益配分や資金の使用計画についての詳細が公開されていないことが投資家の懸念を増大させています。
- 非流動性トークンのリスク:WLFIトークンが非流動性である点は、長期的な投資家にとっては魅力的である一方、短期的な利益を求める投資家には大きなリスクと感じられる可能性があります。
一方で、ワールド・リバティ・ファイナンシャルにとって大きな課題の1つは、WLFIトークンが「譲渡不可」である点です。投資家はこのトークンを換金したり、他の資産と交換したりすることができず、その利益を直接得る手段が制限されています。この制約は、将来的にガバナンス投票によって変更される可能性はあるものの、現時点ではその計画は示されていません。
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プロジェクトを巡る懸念点
規制上のリスク
WLFIはSECの規制D(Regulation D)に基づいて販売されていますが、これにより規制の回避が可能である一方、将来的に規制当局からの監視が強化されるリスクが考えられます。さらに、WLFIの非流動性がSECの定義に適合するかどうかについての法的な議論も残されています。
セキュリティの課題
WLFIのコードが、過去にハッキングを受けたプロジェクト「Dough Finance」のコードを一部流用していると指摘されています。この問題は、プラットフォームのセキュリティ面での懸念を生じさせています。プロジェクトチームは、PeckShield、Zokyo、BlockSecTeamなどの複数のセキュリティ企業による監査を実施しているとしていますが、さらなる透明性と改善が必要です。
利益相反の可能性
WLFIはトランプ氏およびその家族の政治的影響力と直接関連しているため、プロジェクトが政策決定に影響を与える可能性が懸念されています。たとえば、WLFIの投資者が政治的な影響力を得るための手段としてトークンを購入することが考えられます。
トランプ氏の就任後のWLFIの動きに注目
WLFIは、非流動性トークンを活用した新しいコミュニティ主導型ガバナンスモデルを提示する可能性を秘めていますが、その実現にはいくつかの課題があります。トークン配分や資金使用計画、ガバナンスプロセスの詳細な公開を通じて透明性を向上させることが求められます。また、技術的トラブルを未然に防ぐため、継続的なシステム監査やインフラのアップグレードが必要となるでしょう。さらに、SECをはじめとする規制機関と協調し、法的な安定性を確保することも欠かせないでしょう。これらの改善を進めることで、WLFIは分散型金融における新しい基準を示すプロジェクトとして成長する可能性があり、今後も注目すべき暗号資産として地位を確立するでしょう。
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