近年、暗号資産(仮想通貨)は新たな投資対象として注目を集めています。その一方で、2024年には国内大手取引所のDMMビットコインがハッキングされたり、2017年から2022年にかけて、日本が北朝鮮からの暗号資産ハック被害で世界トップを記録したりするなどと多くのリスクが存在し、慎重な判断が求められます。
そこで本記事では、「暗号資産はやめとけ」と言われる理由を、具体的なリスクとともに解説します。
暗号資産とは?
政府広報オンラインは暗号資産に関して以下のように説明しています。暗号資産は、インターネット上のみでやり取りされる電子データで、現金のように物理的な形はありません。2020年の法改正により「仮想通貨」から「暗号資産」という呼称に変更されましたが、一般的にはまだ「仮想通貨」とも呼ばれています。暗号資産は、法定通貨と交換可能で、電子的に記録・移転され、銀行や国家によって発行・保証されないため、その価値は市場の需給関係に依存し、価格変動が大きいです。
資金決済法では、暗号資産を以下のような性質を持つ財産的価値と定義しています。
- 不特定の人に対する支払いなどに使え、法定通貨(日本円や米ドルなど)と交換できる。
- 電子的に記録され、移転可能である。
- 法定通貨や法定通貨建ての資産(例:プリペイドカードや電子マネー)ではない。
一般的に、暗号資産の購入や換金は「取引所」や「販売所」といった暗号資産交換業者を通じて行われます。
暗号資産取引に伴う主要リスク

暗号資産には大きなリターンの期待がある一方で、多岐にわたるリスクが存在します。金融庁は暗号資産への投資を検討している投資家に対して以下のような注意喚起を行なっています:
- 暗号資産は「法定通貨」ではありません。
- 暗号資産は、価格が変動することがあります。
- 暗号資産交換業者は登録が必要です。利用する際は登録を受けた事業者か確認してください。
- 暗号資産の取引を行う場合は事業者から説明を受け、内容をよく理解してから行ってください。
- 暗号資産や詐欺的なコインに関する相談が増えています。詐欺や悪質商法に御注意ください。
実際、暗号資産を取り扱う業者は金融庁の登録が必要ですが、未登録の業者の詐欺などが横行しているのも事実です。そこで以下に暗号資産取引で伴うリスクをまとめました:
- 価格の急変動リスク
- 暗号資産の価格は、短期間で急激に変動する特徴があります。政治的な決定や新たな規制、あるいは市場に影響を与えるニュースが発表されると、数分で大幅に上昇・下落することもあり、資産が一夜にして大きく増減する可能性が高いです。暗号資産のような高いボラティリティ(価格変動率)に対応するには、短期的な利益に固執せず、リスクを予測したうえで安定した戦略をとることが求められます。
- 詐欺的なプロジェクトや情報に関するリスク
- 暗号資産の取引が活発化するにつれ、詐欺的なプロジェクトや虚偽の情報も横行しています。「今すぐ投資すれば数十倍になる」といった誘惑の言葉に引き寄せられ、判断力を失ってしまうことも少なくありません。また、SNSや広告、DMなどで特定のトークンや取引所を勧誘されるケースもあり、こうした情報に簡単に飛びつくのは大変危険です。
- サイバー攻撃やセキュリティに関するリスク
- 暗号資産はデジタル資産であるため、オンライン上のセキュリティ対策が非常に重要です。サイバー攻撃による資産の窃盗や、フィッシング詐欺、偽のログイン画面による秘密鍵やパスワードの盗難などの被害は、年々増加しています。攻撃手法は巧妙化しており、被害に遭うと資産が完全に失われるケースも多々あります。
- 税務上の負担リスク
- 日本では暗号資産の取引による利益は雑所得として計上され、給与など他の収入と合算して課税されます。特に、年間20万円以上の利益を得た場合には確定申告が必要で、所得に応じて税率が最大55%に達する可能性もあります。さらに、取引のたびに発生した利益は記録しておく必要があり、頻繁に売買を行う場合は、取引の追跡と税務計算が煩雑化しがちです。
- 規制の変更による影響リスク
- 各国が暗号資産に対して独自の規制を導入しつつあるため、突然の規制変更によって取引が制限される、あるいは通貨の価格が急落するリスクもあります。たとえば、特定の国が暗号資産の利用や取引を禁止したり、税制を厳しく改正したりした場合、世界的に影響を与えることが予想されます。
- 送金ミスによる資産損失リスク
- 暗号資産の取引で送金ミスをしてしまうと、通常の金融取引のように簡単に取り消せないため、送金先を誤った場合は資産が戻らないことがほとんどです。例えば、長いアドレスコードやタグが少しでも間違っていると、他のウォレットに送金されてしまうことがあり、注意が必要です。
関連記事:暗号資産取引所の選び方とおすすめランキング7選(国内編)
暗号資産で大損する4つの原因

1. レバレッジ取引による損失
暗号資産取引には、現物取引とレバレッジ取引の2種類があります。現物取引は、手持ちの資金で購入するシンプルな方法ですが、レバレッジ取引では取引所から資金を借りて、手持ち資金以上の額で取引を行います。たとえば、10万円の資金で10倍のレバレッジをかければ100万円分の取引が可能ですが、損失が出れば10倍のダメージを受けることになります。暗号資産オンチェーン分析会社CryptoQuantのキ・ヨン・ジュCEOはレバレッジ取引を行う投資家に以下のような警告を発しています:
2倍以上のレバレッジは絶対に使うな。本当に、やめておけ。大量のレバレッジを勧めながら生き残り、成功を収めた投資家を見たことは一度もない
キ・ヨン・ジュCEO:CryptoQuant
レバレッジ取引の失敗は、資金を大幅に減らし、最悪の場合借金を抱えることにもなります。暗号資産の価格は変動が激しいため、短期間で相場が急変しやすく、こうしたリスクの管理ができなければ多額の損失を被る可能性が高いです。国内取引所では24年11月現在で、2倍までのレバレッジが適応可能となっています。
2. 取引所からの資産流出リスク
暗号資産はデジタルデータとして保管されており、取引所や個人ウォレットがハッキングされれば一瞬で資産が盗まれるリスクがあります。国内の取引所では、法律に基づき顧客資産と会社の資産を分別管理することが義務付けられています。このため、取引所が破産した場合でも顧客資産は保護される仕組みが整えられていることが多いです。しかし、分別管理が義務付けられていない海外の取引所では、資産流出のリスクが格段に高まります。
こうした背景から、国内取引所を選ぶことはリスク回避の観点から非常に重要です。また、個人レベルでも秘密鍵の厳重な管理や二段階認証の導入など、セキュリティ対策を徹底することが求められます。
3. 損切りをしないことによる損失拡大
暗号資産の相場は激しい変動が特徴で、一度下落すると回復せず暴落を続ける場合もあります。価格が下落した際に損切りせず保有を続ける「塩漬け」は、さらなる損失を招く可能性があります。損失を最小限に抑えるためには、事前に設定した「損切りライン」に達した時点で冷静に売却することが重要です。これは心理的にも難しい判断ですが、安定した資産運用には欠かせない対応です。

また、暗号資産の中には短期間で急騰するものもあり、莫大な利益を得る例もありますが、単一の資産に多額を投入するのはリスクが高く、突然の暴落で資産がほぼゼロになる恐れもあります。このリスクを避けるためには、複数の通貨に分散投資し、相場を注視することでリスクを分散し安定収益を目指すことが推奨されます。
4. IEO投資のリスク
国内暗号資産業界では、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)に代わり、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)が注目を集めています。IEOとは、暗号資産取引所が新しいトークンを発行し、その販売をサポートすることで資金調達を行う手法です。取引所が運営に関与しているため、ICOに比べてリスクが低いとされますが、プロジェクトの成功が保証されるわけではなく、投資した資金が回収できない事例も散見されています。
もしも国内IEO銘柄に100万円投資していたら$PLT → 102万円$FCR → 11万円$FNCT → 75万円$NIDT → 165万円$ELFT → 3万円$BRIL → 50万円
— 転生したらモッピーだった件 (@shonen_mochi) October 26, 2024
これらは全て当時投資可能なアセット。重要なのはグローバル市場で戦えないからって国内市場を食い物にするのはいい加減にしろってこと。 https://t.co/GttpAzN3Qu pic.twitter.com/hfx0mArb1b
IEOで資金調達を行うプロジェクトが信頼性の高いものか、取引所がそのプロジェクトをしっかりと審査しているかを確認することが重要です。さらに、信頼性が確認できたとしても、少額から慎重に投資を始めるのが賢明でしょう。
関連記事:日本暗号資産ビジネス協会(JBCA)、IEOにおける初の規制案を公開
国内暗号資産取引所で起きた事件4例
日本国内ではこれまでに複数の暗号資産ハッキングや取引所の倒産が発生してきました。しかし、先述の資産分別管理の規定により、多くの場合、顧客資産が返還される結果となっています。以下に過去の主な事例を解説します。
FTX事件(2022年)
2022年11月、親会社FTXの経営破綻に伴い、FTXジャパンも破産手続きに入りました。しかし、日本の法規制により顧客資産は分別管理されており、破産手続き中も顧客資産は保護されました。2023年2月には顧客への出金が再開され、大部分の資産が返還されました。その後、同社は国内暗号資産取引所のビットフライヤーによって買収されています。
コインチェック事件(2018年)
コインチェック事件とは、2018年1月に日本の暗号資産取引所コインチェックで発生した大規模なハッキング事件です。この事件により、約580億円相当の暗号資産「NEM」が不正流出しました。当時、セキュリティ対策が十分でなかったことが原因とされ、顧客資産がホットウォレットで管理されていたことが問題視されました。この事件を契機に、日本国内で暗号資産取引所のセキュリティ強化や規制の見直しが進められ、金融庁も監視体制を強化しました。
マウントゴックス事件(2014年)
2014年、マウントゴックスは約85万BTC(当時約480億円相当)をハッキングされ、破産に追い込まれました。当時、顧客資産の分別管理が不十分だったため、多くの資産が保護されないままでした。事件後、裁判手続きを通じて一部の資産が回収され、現在も返還手続きが進行しています。
関連記事:マウントゴックス事件とは?ビットコイン返済が続く事件の経緯をわかりやすく解説
DMMビットコインハッキング事件(2024年)
2024年、DMMビットコインはハッキング被害を受け、一部の顧客資産に影響が及びました。この事件で約482億円相当のビットコインが不正に流出しましたが、DMMビットコインは迅速に対応し、セキュリティ体制をさらに強化しました。同社は約2週間後、DMMグループなどからの資金調達を完了し、ユーザーへの被害補償に必要な資金を確保したと発表しています。
暗号資産関連の犯罪の動向
ブロックチェーンデータプラットフォームのChainalysisのレポートによれば、2023年、暗号資産市場は2022年の多くの事件や価格下落から回復を見せ、成長フェーズに入る兆しが見られました。同時に、犯罪に関わる暗号資産取引も減少し、不正取引額は約242億ドルにまで減少しました。しかし、未だ特定されていない不正アドレスがあるため、この数値は今後増える可能性があるといいます。

また、詐欺行為や資金盗難も減少傾向にあり、特に分散型金融(DeFi)ハッキングが大幅に減少しました。一方で、ランサムウェア攻撃やダークネット市場での不正取引は増加しており、全体として暗号資産犯罪の中でも制裁関連の取引が占める割合が大きく、米国制裁対象の企業や地域で多くの不正取引が行われています。特に、ロシアに拠点を置くGarantexなどが取引量を牽引している点も注視が必要であると指摘してます。
暗号資産で失敗しやすいタイプの投資家

暗号資産に手を出して損失を重ねるのは、ある傾向を持つ投資家が多いようです。どのようなタイプが暗号資産取引で失敗しやすいのか、以下に具体的な特徴を挙げます。
1. 短期間での「一発逆転」を狙うタイプ
暗号資産の話題は、急騰や爆上げなどのインパクトある価格変動の話に引き寄せられがちです。短期間で大儲けを夢見て、実態や将来性を深く考えずに投資するのは大変危険です。このような投資家は冷静さを欠きやすく、損失が出た場合もその回復を「次の投資」に賭けるなど、負の連鎖に陥りやすいです。
2. 情報を鵜呑みにするタイプ
SNSやネット上には「このコインは確実に伸びる」といった主張が散見されますが、それらを信じ込んでしまうのも失敗の要因です。暗号資産の価値を冷静に評価することなく、噂や口コミだけで投資判断を行うと、詐欺や架空プロジェクトに資金を失う可能性が高まります。
3. リスクの取り方を理解しないタイプ
暗号資産市場は他の金融商品と比べてボラティリティが非常に高いため、大きなリターンと引き換えに損失のリスクも跳ね上がります。この特徴を理解しないまま、無謀な金額で投資を行う投資家は、短期間で資産を大きく失う傾向があります。
暗号資産に将来性はある?
本稿執筆時点で、世界で暗号資産に投資している総人口は5%と見られており、早期参入によるメリットを享受できる可能性が有ることは否定できないでしょう。実際、ビットコイン(BTC)は2023年に156%のリターンを記録し、主要アセットクラスの中で最高のパフォーマンスを示しました。これは2020年以来の高成績で、ビットコインETFの承認、2024年の半減期、そして米国の利下げ観測が価格上昇を後押ししました。依然としてビットコインのボラティリティは高いものの、過去10年の平均リターンは年671%に達しており、2023年もS&P 500の25%や米国債の5%を大きく上回りました。

さらに、トランプ大統領候補はビットコインを国家投資に取り入れる構想を掲げており、大統領選後の価格上昇が予想されます。また、ETF承認によりアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパの企業も間接的にビットコインへの投資を拡大しています。
またビットコインマガジンのCEOデイビッド・ベイリー氏は11月1日、複数の国がビットコインの採用に向けた準備を進めていることを明かしました。特に開発途上国では、国費でエネルギー集約型のビットコインマイニングプロジェクトを推進し、100メガワット規模のパイロットからギガワット級のプロジェクトに移行中です。これにより各国でビットコインの国家備蓄が進む可能性があり、国家レベルでの市場参入が数カ月以内に始まり、月に数十億円規模の投資が行われる可能性があるとベイリー氏は予測しています。
関連記事:トランプ氏が大統領に再選したらビットコインの価格は急騰するのか?
暗号資産投資でリスクを抑えるための5つの考え方

暗号資産は、その魅力を求める一方で、徹底したリスク管理が重要です。以下の5つの視点から投資を行うことで、損失リスクを軽減し、計画的な資産運用を目指せます。
- 1. 「情報の裏付け」を取る
- SNSや掲示板などの情報を鵜呑みにせず、必ず公式サイトや信頼性のあるレポートから根拠を確認します。また、投資先のコインやプロジェクトが提供するホワイトペーパー(計画書)を読んで、プロジェクトがどのような問題解決を目指しているのか、技術的に実現可能かを検討することが重要です。
- 2. 「現物」投資からスタートする
- 初心者はまず現物投資から始め、レバレッジ取引は避けることを推奨します。現物投資であれば、最悪の場合でも購入した資産が完全に失われるわけではなく、レバレッジ投資に比べて資産を守りやすいです。時間をかけて市場の動きを学ぶことから始めましょう。
- 3. 「数%ずつ」の分散投資でリスクを回避
- 暗号資産は通貨ごとにリスクとリターンの幅が異なるため、複数の通貨に少しずつ投資することがリスク分散の基本です。全額を1つの通貨に投入するのは避け、数%ずつ分けて投資することで、急激な相場変動による資産の大幅な目減りを抑えることが可能です。
- 4. 損失許容の「マイナス幅」を決める
- 暗号資産投資で重要なのは、損失が出たときにどのタイミングで「損切りするか」をあらかじめ決めておくことです。事前にマイナスの幅を定めておくことで、感情に流されずに冷静な対応ができ、損失が拡大するのを防げます。
- 5. 国内取引所を利用する
- 国内の取引所は顧客資産と自社資産を分けて管理する「分別管理」を行っており、破産時でも顧客資産が保護されやすくなっています。セキュリティ対策を徹底している国内の取引所を利用し、できるだけ安全性を確保して取引を行いましょう。
関連記事:仮想通貨取引のリスクと感情のコントロール
暗号資産関連の相談窓口情報
暗号資産に関するトラブルに巻き込まれた場合や一般的な質問がある場合、政府は以下の相談窓口に連絡することを推奨しています。
暗号資産を含む金融サービスに関するご相談
- 金融庁「金融サービス利用者相談室」
- 電話番号:0570-016811
- 受付時間:平日10:00〜17:00
暗号資産に関する不審な勧誘やトラブルのご相談
- 消費者ホットライン
- 電話番号:188(局番不要)
- 最寄りの消費生活相談窓口をご案内します。相談可能な時間は各窓口により異なります。
- 警察相談専用ダイヤル
- 電話番号:#9110
- お近くの警察署の相談窓口につながります。不正な振込など被害が発生した場合は、速やかに警察へご相談ください。
- 受付時間:平日8:30〜17:15(※都道府県警察本部により異なる場合があります)
まとめ:暗号資産への関わりには細心の注意を持って

暗号資産は近年注目を集める一方で、価格変動、詐欺、ハッキング、税務負担など多様なリスクが潜んでいます。特に、日本は北朝鮮からのハッキング被害で世界トップの被害国となり、2024年にはDMMビットコインもハッキング被害を受けました。また、暗号資産で失敗しやすいのは「一発逆転」を狙う投資家や情報を鵜呑みにするタイプで、これらのリスクを理解した慎重な判断が必要です。今後の将来性を見据えるなら、信頼性の高い情報で裏付けを取る、分散投資を行うなどリスク管理を徹底することが重要です。
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