暗号資産ETF(上場上場投資信託)は2024年、米国を中心に大きな進展を見せました。ビットコインやイーサリアムに続き、ソラナやXRP、ライトコインといったアルトコインETFの申請が相次ぎ、業界全体が活性化しています。一方、日本では政府および金融庁が慎重な姿勢を崩さず、いまだ実現には至っていません。
本稿では、米国および日本国内における2024年の暗号資産ETFの動向をまとめます。また、今後のETFの展望もわかりやすく解説します。
暗号資産におけるETFとは?その特徴を解説
ETF(Exchange Traded Fund)とは、「上場投資信託」と呼ばれる金融商品で、株価指数や債券指数などの特定の指数に連動するように設計されています。ETFは、個別銘柄の取引とは異なり、複数の資産をまとめて取引できる点で手軽かつ便利な投資手段として人気があります。
2024年1月、米国証券取引委員会(SEC)は現物ビットコインETFを承認しました。この動きを受け、機関投資家や個人投資家が暗号資産市場への参入を加速させています。それに伴い、2024年のビットコイン価格は上昇傾向を見せており、市場全体にポジティブな影響を与えています。
ETFの特徴
1. 手軽に分散投資が可能
ETFは、個別銘柄ではなく特定の指数に連動する投資信託商品です。このため、1つの商品で複数の銘柄に分散投資することができます。個別に銘柄を選択する必要がないため、投資初心者でも簡単にポートフォリオを構築することが可能です。また、暗号資産ETFの場合、複数の暗号資産や関連銘柄に一括で投資することもできます。
2. 低コストで運用できる
ETFは、一般的な投資信託と比較してコストが低いという特徴があります。これは、運用会社が指数に連動する形で資産運用を行うため、個別銘柄の詳細な分析や選定にかかる人件費や調査費用が抑えられるからです。特に長期投資を考える場合、低コストである点は大きなメリットとなります。
3. リアルタイムで売買が可能
ETFは株式と同様に証券取引所に上場されており、市場の休日を除いてリアルタイムで売買できます。これにより、価格の変動に応じて柔軟に取引を行うことが可能です。例えば、急な市場変動があった場合でも迅速に対応できるため、投資機会を逃さずに利益を追求できます。
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2024年暗号資産ETFの動向まとめ(米国)
ビットコインETF
KING OF THE HILL: The US spot ETFs have just passed Satoshi in total bitcoin held, now hold more than 1.1m, more than anyone in the world, and they're not even a year old yet, literally babies still. Mind blowing. h/t @EdmondsonShaun for the data pic.twitter.com/FQBIGGz5ei
— Eric Balchunas (@EricBalchunas) December 6, 2024
24年には米国暗号資産業界史上初となる13のビットコイン(BTC)現物ETFが承認され、同ETFは24年11月までに5.21%の供給量を占めています。12月6日にはそのETFが保有するBTCの枚数は匿名のビットコイン開発者であり、最大の大口保有者の1人であるサトシ・ナカモトの保有枚数を超えました。
オンチェーンデータによれば資産運用最大手のブラックロックは、ビットコインETFが保有するBTCのうち50万BTCを超える枚数を掌握しています。同社の米国テーマティックスおよびアクティブETFの責任者であるジェイ・ジェイコブス氏はこれらのETFムーブメントを受け、ビットコインが30兆ドルの市場になる可能性があると示唆しています。
同ETFは小売・機関投資家問わず投資が行われており、モルガン・スタンレーはビットコインETFを2億7210万ドル分、JPモルガン・チェースも保有を明かしています。BeInCryptoは8月、ビットコインETFが米国のトップヘッジファンドの60%のポートフォリオに含まれていると報告しました。
さらに10月のバイナンスのリサーチによれば、小売投資家はビットコインETFの需要の80%を占めており、一方で機関投資家の関与は第1四半期以降、30%増加しました。特に投資アドバイザーは大きな成長を見せ、保有量は44.2%増加しました。
ブルームバーグのシニアETFアナリスト、エリック・バルチュナス氏は10月、2020年以降に発売されたETFの中で、AUM(運用資産額)を基にしたトップパフォーマンスのリストを発表。24年発売されたビットコインETFのうち、ブラックロックのIBITとフィデリティのFBTCの2つがランクインしました。注目すべきは、これらのビットコインETFが、2022年の弱気市場を経て登場した点です。バルチュナス氏は「IBITとFBTCは、その発売からの期間を考慮すると、このパフォーマンスは驚くべきものだ」と評価しています。
また、同年には米SECがビットコインのオプションETFの流通も承認し、Cboeグローバルマーケッツヤグレースケール、ブラックロックなどが取引を開始し、さらなる多様な同ETFの取引方法が展開され始めました。
関連記事:ブラックロックのビットコインETF (IBIT)、50万BTC超を保有
イーサリアムETF
イーサリアム(ETH)ETF8銘柄は米SECに5月に承認されて以来、取引量が低迷し続けており、市場は冷え込んでいました、イーサリアム現物ETFへの総純流入は11月29日、3.3億ドル(約494億円)を超えた。
イーサリアムETFへの総純流入は、11月29日に3.3億ドル(約494億円)を超え、同日におけるビットコイン現物ETFへの総純流入3.2億ドルを上回る結果となりました。
投資銀行バーンスタインは、12月2日の報告書で、イーサリアムETFに近い将来、ステーキングによる利回りが組み込まれる可能性があると指摘しました。バーンスタインは、トランプ2.0政権(新政権)の下で、仮想通貨に友好的な米国証券取引委員会(SEC)が、イーサリアムのステーキング利回りを承認する可能性が高いと予想しています。
米ミシガン州退職制度(SMRS)は11月、米国の州年金基金として初めてイーサリアムETFに投資したことを明らかにしました。最近公開されたSECへの提出書類によると、ミシガン州はグレイスケールのイーサリアムトラスト(ETHE)に1,100万ドルという大規模な投資を行ったことが報告されています。また、イーサリアムETFにおいても資産運用会社らがオプションETFの申請を行っており、ETF投資の幅を広げています。
関連記事:イーサリアムはオワコンなのか?
ソラナETF
米SECによるソラナ(SOL)ETFの承認に向けた期待が大きく後退しています。Fox Businessの特派員エレノア・テレット氏によると、SECはソラナのスポットETFを申請している5社のうち少なくとも2社に対し、申請却下を通知しました。SEC審査の重要なステップである19b-4フォームの提出について、ブルームバーグ・インテリジェンスのジェームズ・セイファート氏は、一部の申請者がこの段階に到達していないと指摘しました。上記画像において審査期限が「N/A」とされていることが、それを裏付けています。
ニューヨーク証券取引所は12月3日、グレースケールのソラナ・トラストを基にしたETFの申請をSECに提出しました。この申請は、VanEck、21Shares、Bitwise、Canary Capitalといった他の4社による11月の申請に続く動きです。現時点でブラジルのみがソラナETFにゴーサインを出している中、SECの最短決定期限は2025年3月中旬とされています。なお、予測市場ポリマーケットは9月時点で、SECがソラナETFを承認する可能性をわずか3%と見積もっています。
ブルームバーグのシニアアナリスト、エリック・バルチュナス氏は、ソラナETFが承認されることで、他のアルトコインに対するETF承認への道が開かれる可能性があると指摘しています。同氏は、ビットコインやイーサリアムETFが市場全体に与えた影響を踏まえ、ソラナETFの承認が市場の成長を後押しする重要な転機になると予想しています。
さらに、暗号資産マーケットメーカーのGSRマーケッツは、現物型ソラナETFがビットコインETFの資金流入の14%を取り込むと仮定した場合、SOL価格が現在の「8.9倍」に達する可能性があると試算しています。
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XRP ETF
2024年9月12日、グレースケールは米国初となるXRP信託を再開しました。同信託は、適格な投資家にXRPへの直接的なエクスポージャーを提供する製品です。グレースケールは同信託の再会を契機に、最終的にはETF化を目指す計画を発表しています。その後、10月2日にBitwiseがXRP現物ETFの申請を開始し、10月8日にはCanary Capitalが2社目としてETF申請を行いました。さらに、10月16日にはグレースケールがXRPを含む複合型のバスケット型ETFを申請し、この中でXRPの比率を2.06%と設定しました。そして、11月2日には21SharesがXRP現物ETFの申請を行い、12月3日にはWisdomTreeが、SECに現物XRP現物ETFの申請を行いました。
リップル社のブラッド・ガーリングハウスCEOは、ビットコインやイーサリアムのETF承認が、XRPやソラナ、カルダノといった他の暗号資産ETF実現への道を開くとの見通しを示し、以下のように述べています:
金に投資した後は、銀にも興味を持つのが自然だ。市場がより多様化していくのは当然の流れだろう
ブラッド・ガーリングハウスCEO|リップル社
しかし一方で、XRPスポットETFの承認には、SECとの法的闘争や先物市場の整備が鍵となるとの指摘もあります。Fox Businessのエレノア・テレット氏は、ビットコインETFがCMEの規制枠組み内で承認されたことを踏まえ、XRPの先物ETFが不可欠であると指摘しています。さらに、ジェームズ・セイファートETFアナリストも、訴訟問題や先物市場の不備が承認の障害となっているため、2024年末までの実現は難しいと予測しています。しかし、業界のアナリストや専門家たちは、2025年内の承認の可能性を探っているとされています。
関連記事: リップル上場投資信託(XRP ETF)は承認されるのか?
その他アルトコイン現物ETFの進展
ナッシュビル拠点の投資会社カナリー・キャピタルは、10月16日にライトコイン、11月12日にヘデラのETFを米SECに申請しました。いずれもそれぞれの暗号資産に特化した初のETFとして注目されています。
ETF Store社長のネイト・ゲラシ氏は、ヘデラETFの申請について「規制環境の大きな変化を期待する兆候」と指摘し、新政権下でSECの対応を見極めるために、仮想通貨関連ETFの申請がさらに活発化すると予想しています。
一方、ブルームバーグのジェームズ・セイファート氏はライトコインETFの申請について、すでにスイスやドイツで複数の上場投資商品(ETP)がLTCを取り扱っているとコメント。さらに、グレイスケールが米国でもライトコインのETPを提供していることを付け加えました。
関連記事:カナリーキャピタル、ライトコインETFを申請=XRP申請に次いで
日本での暗号資産ETF、承認の可能性は?
日本の金融サービス大手SBIホールディングスは24年7月、米国の投資会社フランクリン・テンプルトンと提携し、日本でデジタル資産運用会社を設立しました。この取り組みは、日本がビットコインETFを承認する準備の一環とみられます。さらに、1野村証券、アセットマネジメントOne、三菱UFJ信託銀行などの金融大手と暗号資産交換業者は10月、暗号資産ETFの解禁を求める提言を公表しました。これは業界横断的な初の意見表明であり、日本の規制当局に対し、暗号資産ETFの承認を促す動きとなっています。
関係当局は重い腰を上げず=関係者からは批判も
国税庁に紹介していた「米国ビットコインETFを譲渡した場合の所得は分離課税になるか」という案件について、「分離課税の対象となる」という口頭回答をいただきました☺
— Junya IZUMI/クリプト税制研究者 (@taxlaw17) December 6, 2024
国税庁が回答!米国のビットコインETFを譲渡した場合は分離課税|泉絢也・藤本剛平 @suika3111 #note https://t.co/zWTnTT2qxA
国税庁は、日本居住者が保有する米国の特定ビットコインETFに関する譲渡益について、申告分離課税の対象とする考えを示しました。同見解は、暗号資産税制の専門家である泉絢也氏が照会を行い、12月5日に口頭で回答を得たもの。これにより、米国のビットコインETFが日本の証券取引所に上場した場合、その売却益には20%の申告分離課税が適用される可能性が浮上しています。
一方、2日に行われた衆議院本会議の代表質問で、国民民主党の浅野哲議員は暗号資産ETFに関する質問を石破茂総理に向けました。この中で同議員は、米国の大手資産運用会社ブラックロックなどが参入するビットコインETFが機関投資家からの需要を拡大させている状況を踏まえ、「暗号資産ETFの取引環境を整備することが急務である。こうした改革を進めることで、日本市場の成長や競争力の向上に取り組むべきだ」と主張しました。
仮想通貨の売却益を投資家保護規制が整備されている株や債券、ETFと同様「20%の申告分離課税」とすることに慎重な姿勢をみせた石破総理。日本の暗号資産の税率は最高55%(住民税含む)で世界一高い。「日本をWeb3先進国に」という国家戦略とは真逆の発言。イノベーションに対し、牛歩で進む石破政権。 pic.twitter.com/UhOL32fgvp
— あいひん (@BABYLONBU5TER) December 2, 2024
しかし、石破総理は、「暗号資産をETFの対象とするかどうかについては、暗号資産が国民にとって投資をしやすい資産であるかどうかを慎重に検討する必要がある」と説明。今後の議論の重要性を強調するにとどまり、積極的な姿勢を示しませんでした。実際、金融庁の井藤英樹長官は8月、ブルームバーグへのインタビューで、同様の意向を明かしていました。この石破総理の答弁に対して国民民主党の玉木雄一郎代表を含む多くの経済界関係者から批判の声が上がりました。
暗号資産の税制改正に関する石破総理の答弁にはがっかりだ。20%の申告分離課税や損失繰越控除の適用もゼロ回答。暗号資産のETFにまで消極的。ビットコイン大国を目指す米国とどんどん差がついていく。検討ばかりでWeb3先進国にするとの国家戦略はいったいどこに行った?
玉木雄一郎代表|国民民主党
市場関係者も厳しい見通しを示唆
情報筋によれば、金融庁幹部も「世界の流れに遅れをとるわけにはいかない」という思いを抱いており、その点では民間企業と同じ立場に立っています。しかし、市場関係者の規制当局に対する考察は一貫してネガティブなものとなっています。三井住友信託アセットマネジメントの投資ディレクター、塩澤起氏は英フィナンシャルタイムズに以下のように語っています:
日本の財務省は暗号資産全般に対して懐疑的であることが広く知られている現時点で規制当局を説得する有効な方法を思いつくことはできません。暗号資産関連のETFが可能だとは言わないが、金融商品を承認する日本の金融庁は基本的に保守的だ
塩澤起氏|三井住友信託アセットマネジメントの投資ディレクター
同誌に対し日本暗号資産ビジネス協会の副会長であり、SMBC日興証券の元金融アドバイザーである木村啓介氏は以下のように語っています:
現在の日本の状況は、主に規制の制約が原因であり、現行法では投資信託に暗号資産を組み込むことが許されていない。この状況を打破するには、暗号資産が日本国民の資産形成に寄与するという広範な社会的受容が不可欠だ。
意思決定のスピードが速いファミリーオフィスやコーポレートベンチャーキャピタルは前進する準備が整っている可能性がある。しかし、多くの伝統的な大手資産運用会社や保険会社、金融機関は、いまだに暗号資産やそのリスク管理プロトコルの理解を深める段階にとどまっている
木村啓介氏|日本暗号資産ビジネス協会副会長
24時点で規制当局が暗号資産ETFの解禁に踏み切れない背景には、前提となる税制の整理が進んでいない現状がある可能性が高いとされています。日本では、ETFには20%の申告分離課税が適用されますが、暗号資産の現物取引は最大55%の総合課税が課されます。この税制の違いにより、ビットコインETFが承認されれば、税制上有利なETFに取引が集中し、現物市場の縮小や市場全体の混乱が懸念されています。
関連記事:石破総理、暗号資産税制改正およびETF受け入れに慎重姿勢=衆院本会議
まとめ:海外は拡大傾向、日本は税制改正が急務
米国ではビットコインやイーサリアムをはじめ、ソラナやXRPなどのアルトコインETFの動きが加速し、市場が活性化しました。一方、日本では関係当局の慎重な姿勢が壁となり、暗号資産ETF承認には時間がかかる見通しです。各国で進む規制対応や市場の期待が交錯する中、今後の暗号資産ETFの展望に注目が集まります。
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