ベネズエラが正式なドル化に一歩近づいた。経済学者のスティーブ・ハンケ氏がボリバル廃止法案を起草した。同氏は今月、国民議会から特別顧問に任命されたと報じられている。
ジョンズ・ホプキンス大学のハンケ氏は、ボリバルと中央銀行の廃止を含む完全なドル化法案を起草した。可決の可能性は50〜80%と見積もる。
ハンケ氏のドル化案の実態
米誌フォーチュンによれば、ハンケ氏は中道政党「ラピス」創設者であるアントニオ・エカリ議員とともにこのプロジェクトを進めている。
同氏によるこの改革案はベネズエラで2度目の試みとなる。1995年と1996年、ラファエル・カルデラ大統領の主席経済顧問として通貨委員会制度を設計したが、当時は国民議会の多数派を得られなかった。
しかし、今回は状況が異なるとハンケ氏は指摘する。同氏によれば、調査では大多数のベネズエラ国民がボリバル廃止を望み、多くが給与を現地通貨で受け取りつつ、日常の買い物は米ドルで行っている。
同案では中央銀行を完全廃止し、政府による通貨発行権も終了する。インフレ率は年間約400%で、世界最高水準が続く。
「ベネズエラは世界で最も競争力のある経済となるだろう。ボリバルは過去1年で米ドルに対して78%下落した」とハンケ氏は語る。
ベネズエラ国民はすでに事実上ドル化経済で生活している。現金ドルが広く流通する一方で、デジタル代替手段が日常取引でさらに重要な位置を占めつつある。
「インフレの抑制こそがベネズエラ安定化の鍵であり、その上に他の進展が築かれる……安定はすべてを意味しないが、安定、すなわち物価の安定がなければ何も始まらない」とハンケ氏はフォーチュンに語る。
インフレ率はマドゥロ氏の拘束前の700%からは下がったが、依然としてイランの6倍に達する。卵、牛肉、家賃の価格も毎週8%増加しているとハンケ氏は試算する。
なぜ石油が中核なのか
この問題の中心には石油が据えられている。現在、ベネズエラの原油生産量は日量110万バレル。世界生産の約1.3%に過ぎず、チャベス政権前の1998年には340万バレルに達していたが、いまは3分の1の水準にとどまる。
この水準は、1月3日の米特殊部隊によるマドゥロ氏排除後も、排除前と比べてわずか7%の増加にとどまる。対外債務は約2500億ドルで、GDP比約150%。世界で4番目に高い水準となる。
ハンケ氏は、ドル化と石油生産拡大は相互補完的だと主張する。現状の不安定さ、すなわちインフレ400%近辺では、ロシア、中国、コノコフィリップス、エクソンモービルなど債権者と債務再編交渉を進めるのが難しいという。
エクソンモービルのダレン・ウッズCEOは、同国の財産収用の歴史を理由に、ベネズエラは投資不適格だと述べている。デルシ・ロドリゲス大統領率いる現政権も、民間資産権利保護のための法律を十分に整備していない。
暗号資産およびUSDTの役割
ベネズエラの小売暗号資産取引量は2026年第1四半期に179億ドルを記録したと、TRMラボが発表している。USDTが市場を席巻し、ボリバルと組み合わせたバイナンスP2P取引全体の90.2%を占めた。
8月21日現在、主要なP2PプラットフォームではUSDTが1枚あたり約919ボリバルで取引されている。中央銀行の公式レートは約780で、その差は18%近くに広がっている。
この暗号資産によるドルレートは、実際に多くのベネズエラ国民が日常的に頼る基準である。ステーブルコインは投機ではなく、むしろ生存手段として機能する。銀行インフラが不十分な状況下で購買力を守る役割を果たす。
短期的には、USDTへの需要が引き続き根強い見通し。現金や銀行インフラの整備が追いつくまで、個人や企業は流動性が高く、即時送金が可能なドルを引き続き選好するとみられる。
長期的には、ドル化が成功すれば、暗号資産をインフレヘッジとして使う必要性は薄れる可能性がある。とはいえ、USDTの高速性、安価な送金手数料、24時間利用可能という利点は失われない見込み。
ハンケ氏の計画が実現すれば、暗号資産は緊急の生命線としての役割を終えることになる。それでも、ベネズエラ国民がすでに日常的に依存しているデジタルドルのインフラは、今後も恒常的な仕組みとして残る可能性が高い。
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